「とりっく おあ とりーと?」


 ことん、と可愛らしく首を傾げられて

 10月最後のイベントを漸く思い出した








―― とりっく おあ とりーと? ――









「ああ、今日はハローウィンだったっけか…」
「そう♪」


 それでこの目の前の恋人は朝からウキウキ♪と何やら作業していた訳か。
 漸く納得がいって、けれど今度は新一が首を傾げた。


「でも、その台詞を言いたいんだったら仮装してこなきゃ駄目なんじゃないか?」


 trick or treat?
 ――お菓子をくれなきゃ悪戯するぞ?

 それは今日という日に仮装をした子供達が家々を回って言う台詞。

 今目の前に居る恋人はどこから如何見ても普段着。
 とても『仮装』と言える格好ではない。


「それにお前はもう『子供』じゃないだろ?」
「うっ…」


 17歳。高校2年生。
 もうハローウィンで遊ぶ年齢ではない筈だ。
 それが日本なら尚更。


「だから、その質問は無効だな」


 こんな時でも冷静な名探偵。
 もう少し可愛らしい反応をしてくれないものかと快斗は心の中で小さく溜息を吐いた。


「新一くん…君には少しぐらい『遊び心』ってモノはないんですか?」
「ない」
「………;」


 きっぱりさっぱり宣ってくれた恋人に快斗はガクッと肩を落とした。
 しかし、その辺りは名探偵。
 更に追い討ちをかけてみたりする(爆)


「それに『少しぐらい』っていうのは嘘だろ?」


 目の前の恋人は周りの色々な人間から『お祭り好き』と言われる程イベントはものすごーく張り切るタイプ。
 根っからのエンターテイナー。

 去年のクリスマスは家で自分の為だけに一夜限りのマジックショーを披露してくれた。
 今年の元旦は一緒に初日の出を見る為に…何故かヘリに乗せられていた。
 バレンタインは何時の間に作ったのか指輪型のチョコまで用意して。
 ホワイトでーには『白』にちなんで『KID』からの予告状、そして暗号に示された場所は…初めて出逢ったあの屋上だった。

 まだまだ挙げたらキリは無いのだが、兎にも角にも毎回毎回イベント毎に様々な演出で楽しませてくれる。
 流石はマジシャン。押さえる所は押さえてくる。

 これが女の子だったら涙ぐんで喜びそうな所だが…、


「お前の場合やるとなったら寒いぐらい徹底的じゃねえか」


 名探偵に言わせると『時として寒い』らしい(爆)


「酷い!寒くないもん!」
「寒い時は寒いぞ?」
「!?そ、そんな事ないもん!」
「いや、やられてる俺が言うんだから間違いない」
「新一くん…;」


 ロマンティストとは無縁の名探偵。
 『ホワイトデーの暗号は楽しかったけど、それ以外はなぁ…』なんて呟いて下さったりするのだから快斗が涙ぐんでしまうのも無理は無い。


「俺は新一のために一生懸命やってるのにぃぃ!」
「俺は別に一生懸命やってくれなくてもいい」
「酷い…;」
「てか、その労力が有るなら暗号くれる方が嬉しいし」
「!?」


 花より団子ならぬ、ロマンティックに演出したイベントより暗号。

 名探偵らしい何とも分かり易い図式である。


「そりゃさ…新一が欲しいって言うなら何時でも暗号は作るけど…」


 それはそれで複雑…と凹み気味の快斗に対し、


「ほんとか!?」


 瞳を輝かせて喜んじゃってる名探偵。





 ―――哀れだな…快斗…;(天の声)





 まあ、そんな天の声はさて置き…、


「うん…。だから、とりっくおあとりーと?」


 話はそこに戻るらしい(ぇ)


「………何で『だから』なんだ?」


 流石の名探偵もそこら辺の突飛な転換は分からなかったらしい。
 ことん、とかわいらしーく小首を傾げて下さったりするものだから快斗としてはもう、めろめろvで、我慢出来ずぎゅーvと抱き締めてみちゃったり。


「気になる?」
「気になる」
「教えて欲しい?」
「……教えないなら腕振り解いて蹴り食らわすぞ?」
「すみませんでした…;」


 名探偵の大好物の謎を抱えているのは快斗の筈なのに何故か勝てない。
 それは『ご主人様と下僕』の図をひじょーによく表している。


「分かったらさっさと教えろ」


 快斗の腕の中細い身体をすっぽり包み込まれて、それでも命令口調。
 流石は女王様v


「はい…;」


 そんな女王様に下僕(酷っ!/by快斗)が勝てる筈もなく、仕方なーく快斗はその理由を語りだした。


「今日はハロウィーンでしょ?」
「ああ」
「で、俺は『キッド』でしょ?」
「今は違うんじゃねえの?」
「まあ、細かい事は気にしない♪気にしない♪」
「細かい事…」


 それは『細かい事』で済ませていい事なのだろうか?
 若干ハテナマークを顔に浮かばせた新一に『いーの♪』と快斗は笑顔で返す。


「だから、『子供(キッド)』の俺は新一に聞く権利があってもいいでしょ?」

 尤も、仮装がお望みならちゃんと『キッド』になってくるけど?

「……思いっきりこじ付けの様な気もしないでもないけどなι」

 いや、別に仕事の時以外でキッドになれとは言わないけど…。


 何ともこじ付けの力説を聞かされて、新一は一つ溜息を吐いた。
 詰まる所『子供(キッド)』には意味ありありな可愛らしい小首を傾げるというオプション付きで『とりっく おあ とりーと?』と尋ねる権利があるらしい。


「まあまあ。いいじゃない。で、『とりっく おあ とりーと?』」
「うーん…」


 お菓子をあげようにも今の今までハロウィーン自体を忘れていた新一が持っている筈が無い。


「んー……」
「どーするの?♪」


 何時もの推理ポーズのまま悩み込んでしまった新一を快斗はルンルンで急かす。

 この日の為に何時も(快斗の為に)常備してあるお菓子類は(泣く泣く)処分した。
 ギリギリでこの質問を出す為にハロウィーンである事を極力悟らせない様に努力もした。

 此処で勝たなきゃ男じゃない!(ぇ)


「ふむ…」


 快斗が密やかに心の中でそう意気込んで(?)いた時、新一は漸く自分の中で結論が出したらしく手元に当てていた手を下ろし、快斗に視線を合わせてきた。


「新一、どっちにするか決めた?」
「ああ」
「で、どっちなの?♪」
「………」







――ぎゅー。







「……へ?」


 無言のまま新一にぎゅーっと抱きつかれて、快斗は驚きと共にただただ固まるばかり。


「し、新一くん?」
いたずら…
「え…?」
いたずらするんだろ…///
「え、えっと…///」


 頬を真っ赤に染めてそう言った恋人の何時に無く素直な様子に、快斗も思わず真っ赤になってしまう。







――ぎゅー。







 真っ赤になったまま固まってしまった快斗を急かすかの様に再び新一に強く抱きつかれる。


「恥ずかしいんだよ…///」


 だからさっさと連れて行け、と耳元で囁かれて。
 なけなしの理性も、立てていた計画も全てが吹っ飛んだ。


「新一ってばほんと可愛いvv」


 そのまま、新一を抱き上げた快斗が何処に行ったのか…それは当然2人だけの秘密v








END.


誘い受け風味v
珍しいぐらいに新一さんが素直。流石は甘々スランプ中のブツ…。←最近病んでるのしか書けない(爆)

唯単に『寒い』発言が書きたかっただけ(ぇ)

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