ランディと一緒に聖殿を出たは、そこで自分たちを待っていたものを見て目を丸くした。



艶やかな毛並みと賢そうな瞳を持つその大型犬は、主人とその連れの姿を認めると



嬉しそうに尾を振って近づいてきた。

















「わっ…いぬだぁ…」



「ははっ。オレの友達だよ。ラッキーっていうんだ」



「らっきぃ?」



「そうだよ。これから庭園に行って、ラッキーと一緒に遊ぼう!



庭園には他の子どもたちもいるはずだから、きっと楽しいと思うんだ」

















ランディの言葉どおり、庭園では飛空都市に住む子どもたちが思い思いに遊ぶ姿が見られた。



時間が空くとよくこの場所を訪れるランディとラッキーは、子どもたちにとって、もはや馴染みの顔。



自然に子どもたちはランディの周りに集まり、遊んでくれとせがむ。

















「ねえランディ様、その子だれ?」

















ランディの後ろに立っていた見慣れない少女に、子どもたちの一人が気付いた。



そしてその言葉に、集まっていた子どもたちの視線が一気にへ向けられる。



けれど小さなは…ランディのマントにしがみつく様にして、彼の背中に身を隠してしまった。



















「あれ、隠れてないで出ておいでよ。どうしたんだい?」

















ランディに背中を押されて姿を見せただが、すっかりうつむいてしまっていた。



足元を見たきり顔を上げずにいるを、子どもたちは不思議そうに眺めている。

















「あ、もしかして…知らない子ばっかりだから照れてるのかい?



困ったなぁ。そんなんじゃみんなと仲良くなれないぞ?」



「…うん…」

















ランディに諭されて一度は顔を上げただったが、



自分を見つめるたくさんの視線に再びうつむいてしまう。



そうしているうちに子どもたちの興味はから去ってしまい、



庭園を駆け回るラッキーの後をみんなで追いかけて行ってしまった。



その様子を見送りながらも、まさかがこれほど人見知りをするとは思っていなかったランディは



その場に立ったまま、ともすれば泣き出してしまいそうなの様子に弱り果てて頭を掻くしかなかった。



小さな子どもにはありがちなことなのだろうが、ランディの知っていると比べてしまうと



どうしても彼女らしくない気がする。



一先ずランディはと共に近くのベンチに腰掛けた。

















「ねぇ、みんなと遊びたくないのかい?」



「…あそびたい・・・」



「だったらちゃんと挨拶しなくちゃ。初めて会った人には挨拶するって



お父さんやお母さんに教わらなかった?」



ね おとーさん も おかーさんも いないよ 」



「え…?」



が あかちゃんの ときに おはかに いったんだって」

















ベンチに座っているは、地面から離れてしまっている足をぶらつかせながら



なんでもないことのようにそう言った。



物心のついたときにはすでに両親がいない状態であったのだろう。



おそらく、にとって両親はいないのが当たり前で



幼いが故にそれを素直に受け入れてしまっているのかもしれない。



の生い立ちを悲しく受け止めているのはむしろランディの方だった。

















「そっか…じゃあ寂しいね…」



「ううん。しせつ とか がっこう とか おともだち いたよ」



「へー、友達かぁ。いいね」



「うん!…でもね ここには おともだち いないから ちょっと さみしいよ…?



ね…ほんとは ここ きらい なの。



だって しらない ひとが いっぱい だと どきどき するでしょ?」

















困ったような瞳で訴えかけるに、ランディは笑顔を向けた。



が語ったのは、誰も知る者のいない場所へ赴かなければならない不安と恐怖。



それは当然、ランディにも経験があることだ。



だからこそランディは、の寂しさを取り除いてやることがそれほど難しいことではないと知っている。

















「知らない人とも、友達になればいいのさ。そうすれば寂しくなんかないし、楽しくなるだろ?」



「…う…ん…」



「友達を作るには、まず自分から相手に話し掛けること!仲良くなりたいって気持ちがあれば



知らない人とでもすぐ友達になれるよ」



「ほんと?」



「もちろんだよ。だって友達が増えるのは嬉しいだろ?みんな同じさ。



勇気を出して話し掛けてごらんよ」



「…うん!」

















座っていたベンチから飛び降りると、はラッキーと戯れている子どもたちの方へ駆け出した。



ランディが見守る中、は仲間に入れて欲しいとこを伝え、



あっという間に子どもたちの輪の中に溶け込んでいる。



しばらくその様子を眺めていたランディも、子どもたちの笑顔と楽しそうな笑い声にひかれて立ち上がり



その中へと入っていった。

































「たのしかったねぇ、らんでぃさま」



「ああ。ってけっこう足が速いんだな。捕まえるの大変だったよ」



「うん!また おにごっこ しようね。ねぇ らっきぃ とも また あそびたいの」

















聖殿へ戻る途中、ランディと手を繋ぐは庭園で遊んだ興奮がまだ冷めていないようだ。



時間だといってもなかなか帰りたがらなかったほどで



庭園を出た今でも時折スキップをしてみては、何度も楽しかったと口にする。



が子どもになってしまうなど、本当は大変なことなのだが



女王試験でいつも難しい顔をしているの姿しか知らないランディには



こんなに楽しそうにしているの姿は新鮮で、そんなに悪いことでもないと思えた。

















「今日はの楽しそうな顔が見られてよかったよ。いつも育成で大変そうだからね」



「だってね いくせー むずかしいの。いっぱい べんきょうしなきゃ いけないんだもん…」

















それまでの笑顔を急に曇らせた



大変そうだとは思っていたけれど、普段のはそれを当たり前のような顔でこなしている。



けれどやっぱり、本当はも大変だと思っていたらしい。



育成の話をした途端に表情を変えてしまったを見て、ランディは思わず笑っていた。

















「なんだ、やっぱり大変だったんだな。もっと息抜きすればいいんだよ。



まだまだ、先は長いんだからさ。」



「いきぬき って なに?」



「うーん…女王試験の間に、なにか楽しいことをするってこと…かな?」



「…おにごっこ とか?」



「え?まあ…鬼ごっこでもいいけど…」



「そっかぁ。じゃあ おっきい とも おにごっこ しようね。



ね おっきくなったら もっと はしるの はやく なるよ。



らんでぃさま にも まけないの!」



「ははッ。オレだって負けないぞ!」



「じゃあ かけっこ で きょうそう しようね。ぜったい の ほうが はやいもん!」

















見かけによらず負けず嫌いだった



大人のと「鬼ごっこ」や「かけっこ」をするわけにはいかないだろうが、



その意外な一面は、ランディにとってを身近に感じさせるものだった。



繋いだ小さい手の温もりや、思いのほか弾む会話に



ランディはとの距離が確実に近づいたことを確信していた。













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