「あっ、これ ?」



「ええ、そうですよ。いかがですか?」



かわいい〜ねぇ」



「ふふ。そうですね」



















リュミエールの執務室に入るなり、小さなは部屋の壁にかけられた様々な絵画に興味を示した。



それを描いたのがリュミエール本人だと知ると、は自分の絵を描いてくれとせがんだのだ。



大きな瞳を期待に輝かせるを窓枠に座らせて、リュミエールはその姿をスケッチブックに描き出す。



リュミエールが鉛筆を置くと、は窓枠から飛び降りてリュミエールの側に駆け寄り



自身の姿が描かれた紙面を食い入るように眺めた。

















「るみえーるさま 絵がとってもじょうずね」



「ありがとうございます。よろしければ、も描いてみませんか?」



もお絵かきしていいのッ!?」



「ええ。いいものを貸してあげましょうね」

















そう言ってリュミエールが持ち出したのは36色のクレヨン。



それと一緒に大きな白い紙を用意してやるとは喜んで床に座り込み、早速紙を広げた。

















「何を描くつもりですか?」



「ダメ。ないしょ」



「おや、教えていただけないのですか?では、出来上がりを楽しみにしていますね?」



「うん!」

















はすぐお絵描きに夢中になり



それを見守りながら、リュミエールも先ほど描いたの絵に水彩絵具で着色を始めた。



小さな子どもと過ごしているとは思えないほど静かな時間が流れ



どのぐらい経ったころか、が満足そうな声をあげた。

















「できたっ!」



「できたのですね。では、見せていただけますか?」



「うん。みて〜」



「まぁ…これは…」



ね しゅごせいさま かいたの。るみえーるさまも いるよ」



「ええ。これがわたくしですね?わたくしの隣は…これはマルセルですね」



「そうなの。でね、こっちが らんでぃさま。これがヴィーさま。」

















子どもの描く絵である。



みんな同じ姿勢で同じ大きさで…人物の区別がつくところといえば、髪や服の色ぐらいのものだろうが



が描いた守護聖たちの絵は、なんとなく表情が感じられた。



生意気そうなゼフェルに、自信家のオスカー



ジュリアスはどこか神経質そうで



朗らかな笑顔のルヴァと、なぜか眠そうな目をしているクラヴィス。



自分たちがの目にどう映っているのか



それが手にとるようにわかってしまい、リュミエールは笑みがこぼれるのを押さえられなかった。

















「あなたは、わたくしたちのことをよく見ているのですね」



「うん!ね しゅごせいさま だいすき なの」

















満面の笑みでそう答えるを、リュミエールは複雑な気持ちで見つめていた。



脳裏に浮かぶのは、自分たちと常に距離を置いていたの姿。



目の前の小さなは、守護聖を慕ってくれている。



けれど本来のは、果たして今と同じ気持ちを持ってくれているのだろうか。



このは彼女であって彼女ではなく



今のこの時間は、がもとの姿に戻ることによって夢のように消えてしまうのかもしれないのだ。



リュミエールはそれが悲しく思えて仕方がない。

















「るみえーるさま どうしたの?かなしそうな お顔してるよ?」



「…いえ、何でもありません。ただ…大人のあなたとも、



こうして一緒に過ごせたらどんなによいかと…考えていたのですよ」



「るみえーるさま おっきいとも あそびたいの?



でも おっきいはねぇ いくせー で いそがしいの…」

















困ったように眉を寄せる



その表情は、以前リュミエールがをお茶会に誘ったときに彼女が見せたそれとよく似ていた。



結局その時も、まだやることがあるという理由で断わられてしまったのだが…。

















「わたくしは…他の守護聖もですが、ともっと仲良くなりたいと思っているのです。



ですからお茶やおしゃべりにお誘いしたいのですが…やはり忙しいのですね。



いつも断わられてしまって…」



「う〜ん…あ、そうだ!いいこと考えたっ」

















黙ってリュミエールの言葉を聞いていたは、リュミエールに耳を貸せと言い



体を傾けたリュミエールの耳元で、こっそり 「さくらんぼ」 と囁いた。

















「…さくらんぼ…ですか?」



「おっきいね さくらんぼ すきなの。いっしょに たべようって いえば いいのよ」

















あのが好物に釣られるのだろうかと思わなくはないのだが



自信満々に言うの姿を見ていると、不思議に試してみてもいいような気持ちになってくる。

















「わかりました。では今度、さくらんぼを用意してお誘いしてみましょう」



「うんっ。おっきいと いっぱい おはなし して なかよく なってね」



「ええ。いいことを教えていただきました。ありがとうございます」



「えへ。みんなには ないしょ よ」



「わたくしとあなたの秘密ですね」

















内緒話は楽しい。



自然と声を潜めていたリュミエールとは、



ノックと共に姿を見せたランディによって、時間の経過に気がついた。

















つぎは らんでぃさま と あそぶの?」



「そうだよ。天気もいいし、一緒に外へ行かないかい?」



「おそと いくっ」



「そうですか。では二人とも気をつけて行ってきてください」

















ランディと共に出て行くを見送ったリュミエールは、残った二つの絵を見つめた。



一枚はリュミエールが描いたの人物画



もう一枚はが描いた守護聖の絵



机に戻って着色の続きをしながら、リュミエールは先のことへ思いをはせる。



がもとの姿に戻ったとき、この二枚の絵をプレゼントしよう。



自慢のハーブティと一緒に、さくらんぼを用意して。

















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