重厚な木製の扉を開け、ともう一人の女王候補、アンジェリークは謁見の間へと進んだ。
近代的な造りとはかけ離れた宮殿。
扉を開けると広いフロアがあり、玉座へと導くような一本の赤い絨毯が敷かれていた。
その脇には守護聖たちが立ち並び、その間を縫うように、二人の女王候補はゆっくりと厚手の絨毯の上を歩いた。
「女王候補よ、陛下に名を告げなさい」
補佐官に促され、先にが口を開いた。
「・と申します。女王候補としての指名を受けて参りました。」
そう言ってゆっくりと深く頭を下げる。もう一人の女王候補も、に続いてあわてて口を開く。
「わ、私はアンジェリーク・リモージュです!よろしくお願いしますっ!」
大きなしぐさで頭を下げるアンジェリーク。
彼女を見ているだけで緊張が伝わってきそうだ。
見知らぬ大勢の人たちに見つめられて硬くなるアンジェリークに対し、は周りの様子を伺っていた。
幾重にもかけられたカーテンの向こうに座する現女王と、側に控える補佐官。
自分を取り巻くように並ぶ守護聖たち…。
守護聖とは皆が見目麗しい者ばかりだと、ここに来る前誰かが教えてくれが…その通りだとは思った。
それぞれの衣装のせいもあるだろうが、守護聖たちは各々に輝かしい魅力を持っている。
容姿の美しい者というのは何人となく見たことがあるだが、彼らはまさに物語に出てくる人物のようだ。
表情には出さないものの…
今までの暮らしてきた世界とは比べ物にならないほどの華やかな場所、華やかな人々に、
正直、は戸惑っていた。
「そなたたちは女王自らが後継者として選ばれた女王候補だ。その名に恥じることなく、試験に臨むように」
「「はい」」
首座の守護聖ジュリアスの言葉で、女王ならびに守護聖たちへの謁見は終了した。
今日はこれから、女王補佐官主催の食事会があるとかで…まだゆっくりはできそうにない。
寮の部屋に戻ったは、部屋に備え付けの机に向かい、ここに来たときにもらった育成のテキストを開いてみる。
育成の手順が事細かに書いてあり、これに沿って進めればひとまず育成は進むのだろう。
「…………」
テキストの文字を視線で追いながらも、は先ほど見たアンジェリークの姿を思い出していた。
おそらくは、温かい家庭で愛情をたっぷりと受けて育ったのだろう。
輝く金色の髪と印象的な若草色の瞳は愛くるしい容姿をさらに引き立て、彼女のやわらかい雰囲気を醸し出していた。
明るくて素直そうな性格と口調は万人をひきつける魅力のひとつ…
女王の素質のひとつなのかそれとも若さ故なのか、アンジェリークにはまぶしいほどのオーラを感じる。
『この子の方が女王になる』
アンジェリークを初めて見たときにそう感じた。
それは漠然とした…だが確かな予感…
静かにテキストを閉じ、は目を閉じた。
故郷に戻っても自分の場所はない。
ならばここで…自分が女王になるしかない…。
大丈夫。
今までも自分で居場所を作ってきた。
アンジェリークのほうが女王に近いというならば、それ以上に努力すればいいだけ。
外界でのことは忘れよう。
過去を懐かしんで甘えている暇はない。
女王試験も仕事も同じだ。
周囲が望む期待に応え、わずかでもそれを上回る結果を出せれば…
もしくは、女王となることができるかもしれない。
は再びテキストを開き、王立研究院が用意してくれた育成地のデータと合わせて育成プランを練り始める。
食事会への迎えが来たと知らされるまで、はずっとそうやって時間をすごしていた。
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