【人生の晴れ舞台…?】











降り注ぐライスシャワーと色とりどりの紙吹雪。

響く歓声には、時折冷やかしの野次なんかも雑じって場を盛り上げる。

結婚は人生の節目。例えきっかけがお見合いだったとしても、

これからの生活に淡い期待を抱いてしまうのは否めない。

純白の衣装に身を包んだ新郎と新婦は、世界で一番幸せそうな表情で…表情…あれ?



式を挙げたばかりの夫婦とそれぞれの両親、

それから祝いに駆けつけた仲間たちに囲まれて撮った記念写真には

なぜかカメラを睨みつけている新郎と、

人生を諦めたかのように空ろな目をした新婦の姿が映し出されていた。















【結婚生活一日目】










「…おい…」

ビクッ










結婚式から一夜明ければ、待っていたのは普通の生活。

キッチンに立っていると、不意に後ろから声をかけられた。

ちょうど味噌汁に入れるための豆腐に包丁を入れたときのことで、

危うく手まで切りそうになるぐらいビビッたっつーのッ!

手のひらに乗せた豆腐に包丁を半分まで進めたところで固まるあたし…

傍から見たら異様な姿だと思うわ、ホント。

さび付いたロボットよろしくギクシャクと振り返れば、出勤の支度を整えた夫の姿。

…もう起きたのか…まだ寝てりゃいいのに…

なんて悪態をつけるはずもなく、あたしは笑顔を浮かべる。

笑顔が強張ってるって?…ほっといて頂戴。










「お、おはよう。早いね?」

「…メシ…」

「メシ…?あ、飯ね!い、今できるから。むこう座って待ってて」










びしっと指さしたあたしを見て、夫は一瞬目を見開いた…と思う。

あまり表情が変らない男だからよくわからないけど…な、何でそんな顔をする!?

あたしなんか変なことした?

黙ったままで夫がキッチンを出て行って、あたしは自分の手を見た。










「…あ、コレか…」










右手に握られている包丁。

指じゃなくて包丁で刺し…じゃなくてッ!指してたわけね。

包丁なんか向けられたら、そりゃビビるわ…。

嗚呼…ゴメン…。










いつまでも豆腐片手に立ち尽くしてるのもバカくさいので、さいの目に切って鍋に放り込む。

これで味噌汁も完成。あとは盛り付けるだけだけれど…お椀はどこ?

シンクの周りにはないし…あ、ここか。

しかしアレだ。初めて使う慣れないキッチンは、使い勝手が悪くてイライラする。

昨日の今日だし仕方ないけどね…。

盛り付けた朝食をとりあえず一人分トレーに乗せて、

あたしは夫の待つダイニングテーブルへ運んだ。










「お待たせ。はい、ご飯」

「おめぇのは?」

「あ、いま持ってくるけど…」

「ふーん…」










な、なによ…一気に二人分運べなかっただけじゃないッ!

あたしが自分の分の朝食を運んでくると、夫は黙々とあたしの作った朝食を食べていた。

正面に座ってあたしも箸を持つ。

やっぱり…二人きりで食事をしているなら、何か話した方がいいよね?それが自然だわ。










「ねぇ?」

「…ん…?」

「今さらなんだけど…朝ごはんは和食でよかった?もしかして洋食派だとか…」

「ベツに…」

「あ、そう?…味…どうかな?考えてみればさ、

初めてじゃない?あたしの作ったもの食べるのって」

「…まぁ…」










「…まぁ…」ってなに!?それはどれに対しての答えなわけ?

初めて食べたことへの、まあそうだの「まぁ」?

まあまあの「まぁ」?それともイマイチっつーこと?

つかね、単語でしゃべるの止めてよ…話が続かないじゃないッ!

だいたい相手に失礼よ、その話し方。

いーわ。そっちがその気なら、文句言ってやる。











「おい…」

「は、はい?」

「…オカワリ」

「あ…はい…」










ずいっと差し出された茶碗を受け取って、あたしはご飯をよそう。

急に話し掛けないでよ…文句を言うタイミングを失ったじゃない…。

なんとなく…それからはあたしも話す内容が見つからなくて、ただ黙って箸を口に運ぶ。

たまに口を開くのは夫だけ。











「オカワリ…」











ちょっと…4回目ですよ…?

もう炊飯器空なんですけど…










「…もうご飯ありません」

「む…」

「それより、もう時間じゃない?そろそろ出ないと」










時計を見ればそろそろ夫の出勤時間。

不満そうな顔をしたままで、それでも夫は立ち上がって鞄を持った。

鞄というか…バッグ。










「…行く…」

「はい、いってらっしゃい」

「…………」










テーブルを立ったところで交わした挨拶。

それでも一向に動こうとはしない夫の姿を見て、ようやくあたしは気がついた。

玄関まで見送りに来いと…そういうわけね?

案の定、あたしが立ち上がると、夫も玄関へ足を向けた。

だったらそう言えよな…。










あたしも女ですからね?

新妻がさ、出勤する旦那のネクタイを直してあげるっていうのに憧れたこともある。

けどこの夫はネクタイなんかしてないし。

ジャージのファスナー上げてあげるとか…?

ご免だわ。










「じゃーな」

「ん、気をつけてね。車とか…練習中の怪我とか」

「おー」










スポーツバッグ担いでジャージで出勤する夫を見送って

あたしは自分がスポーツ選手の嫁になったんだとようやく実感。

てかこの夫の場合、「出勤」という言葉も正しいのかどうか。

バスケのことなんかほとんど知らないあたし。

それはもう、「ボールをもって歩いちゃダメ」ぐらいの知識ですよ。

そんなあたしにバスケット選手の嫁が勤まるのかどうか…

今さらながら不安に思ったりもして。










「…あ、何時に帰るのか聞くの忘れた…」









玄関から戻る途中で、あたしは呟いていた。

「バスケット選手の」なんて形容詞をつける以前に、普通の嫁としてもイケてない…

ダメじゃんあたしッ!

盛大な溜息は、あたしの心をさらに沈めた。

最初がこれじゃ、これからの生活…やっていけるのか?

いや…やっていくしかないんだけどさ…



とりあえず…夜はたくさんご飯を炊こうと思います…。










後書き

勢いで書いてしまった…
名前変換のないドリ!(それはもうドリとは呼べない…)
ヒロインだけでなく、流川の「る」の字も出てこない!
それでも続きが読みたい〜っていう奇特な方は拍手かBBSで催促してください(泣)
不評ならすぐに下げるしッ!
いやでも続けば名前変換は出る予定なので…どうか一つw

モドル    NEXT