「…遊びに来た…」
「…あそー…」
時間はもう正午を回っていた。
わりと早起きのさんは今朝も5時には起き出して。
ただ、これといって予定もなかったので…着替えもせずにお部屋でのんびりとくつろいでいたわけなんです。
たまーに買うファッション雑誌なんかをパラパラめくっていたら、来客を告げるインターフォンがなって…
なにヤツかと思えば…それは流川くんでした。
「…まあ…上がって?」
「うす」
『別に来るなとは言いませんけどね?普通は電話ぐらいするもんでしょう??』
内心そう思っているさんだけど、とりあえずお部屋に入れてあげました。
やっぱりそこは愛ゆえに…ね。
キッチンでお茶を用意して、流川くんの待つリビングへ。
さんがリビングへ戻ると、流川くんはおとなしくソファで待っていました。
「…でけぇー部屋…。一人暮らしなのに…」
「ああ…。もともと家族で住んでたマンションだからね。紅茶でいいよね?」
「ども」
「…で?何しに来たの?」
「…遊びに…」
「遊びにねぇ…」
「…寝てた?」
「いや…起きてたけど…なんで?」
「…それ寝間着…?」
「…あ…」
ちょっと赤い顔で、流川くんはさんを指さしました。
いえ、別にパジャマだったわけじゃないんですよ?
真っ白いキャミのワンピース。
さん的に可愛いかも??と思って購入したのはいいけれど、実際着てみたらなんかこー…
ちょっと下着っぽいなーという理由で寝間着に格下げされた商品です。
どうやら流川くんには刺激が強かったもよう…
流川といえども、年齢的には見たい盛りだろうに…健気にも横を向いてくれているのがなんか可愛い。
「着替えてくるわ」
「オレも…」
「ん?」
「センパイの部屋。行ってみたい」
「…あっそ。んじゃおいで?」
掃除に洗濯、家事全般を一人でこなすさんは、なるべく洗濯物を出したくありません。
着替えといっても上に何か羽織るだけつもりだったので、流川くんと一緒にお部屋に移動。
こうして流川くんは、彼女の部屋という「禁断の花園」に足を踏み入れることになったのです。
「適当に座って?」
「おぉ…」
さんの部屋はいたって綺麗。
塵一つ落ちていないという表現がぴったりです。
学生につき物の学習机はなく、代わりにパソコン用の机があります。
収納用の家具はほとんど壁に埋め込まれている、高級マンション特有のおしゃれな造り。
床に置かれているのはパソコンデスクと大きなベッド、
それと全身を映せる大きな鏡ぐらいのものでした。
おや?流川くん、なにやら興味を引かれるものを見つけたようです。
「…なにしてるの?」
「ん?…これ…いいな…」
流川くんの興味を引いたそれは、さんのベッド。
いつも流川くんが愛用しているパイプベッドなんかとはモノが違います。
一流メーカー「フランスベッド」
しかもセミダブルサイズなので流川くんでもゆっくり寝られそう…
ベッドに腰掛けた流川くんは、そのままの姿勢でベッドのスプリングを楽しんでいます。
子供かキミは…
「…オレ、ここで寝てみたい…」
「…寝れば?」
「そうする」
さんの了解をもらった流川くんはいそいそとさんのベッドに潜り込みました。
十分な広さと程よい堅さのベッドは大変寝心地よく…
流川くんはすでにうつろな目をしています。
遊びに来といて寝るとはどういうことだとも思わなくないのですが…
特にやることもないので寝させましょう。
そう決めたさんはベッドに寄りかかりようにして床に座り、読みかけだった雑誌を開きました。
「…なぁ…」
「んー?」
「…一緒に寝る?」
「…寝ない…」
「…蒲団…センパイのにおいする…いいなこれ…一緒に寝てるみてぇ…」
「はぁ?」
なにを言い出すのかとが振り返れば…流川はすでに夢の世界へ旅立った後。
『…寝言…?…なんか恥ずかしいこと言われた気がするんだけど…?』
すやすやと眠る流川を見ながら、赤い顔をしたさんは不覚にもちょっとドキドキ…
「…顔洗ってこよう…」
その場にいるのも気恥ずかしくなったさんは、
流川くんを起こさないようにそっと部屋を出て行ったのでした。
後書き
出て行ったらドリームになりません…
なんか…この「お宅訪問」ネタは全部失敗に終わりそう(泣)
次のお話