「………」

























ふと目が覚めて、見慣れない天井に違和感を覚えた流川くん。

もそもそと寝返りを打てば、なぜか体育座りをしているさんがいました。

さんは鼻歌なんか歌いながら…足の爪をピンクに塗っています。





















「…なにしてんの…?」

「ん?あ、起きたんだ?」





















離れがたいほど気持ちいいベッドの中から抜け出した流川くんは、床に降りるとさんの側に寄ってきました。

じっと…さんの作業を見つめています。

















「…マニキュア…」

「足に塗るのはね、ペディキュアって言うのよ」

「ほぉ…」

















流川くんが見つめる中、さんは器用に片方の足の爪を塗り終わりました。

次は反対の足も塗る様子。



















「…なんで見てるの?」

「おもしろそう…」

「へ?」

「…やらして…」

「え?…流川も…塗ってほしいの?」

「センパイに…塗ってやるっす」

















マニキュアのビンをよこせといわんばかりに、さんに向かって手を差し出す流川くん…

果たして彼にできるのだろうかと…不安げなさん。

でも流川くんは興味津々のご様子で…むげに断るのもかわいそう…

仕方なく、さんは流川くんの手にマニキュアのビンを渡しました。

まあ…失敗されたらあとで塗りなおせばいいと、軽い気持ちで。



















「…どうやんの?」

『…わかんないならやるとか言わないでよ…』

「ふつーに塗っていいのか?」

「ん。あんまりつけすぎないでね」

「わかった」

















あぐらをかいたひざの上に、流川くんはさんの足を乗せました。

さん的に…なんか複雑な心境…

















「ちいせぇーな…ツメ…」

「足のツメなんてそんなもんでしょ」

「…動くとズレル…」

「あ…ごめん…」

















女の人には多いけど、さんも冷え性な質で…足はいつも冷たいのです。

そこへ、寝起きの流川くんのあったかい手で触られれば…ちょっと気持ちよかったりして。

しかも流川くん

教えてもないのに塗ったツメに息吹きかけたりするもんだから…

自分でするときとは違ってそれが妙にくすぐったい。

さんは気持ちよさとくすぐったさに悶えたいのを必死に我慢してるんです。



















「…動くなって…」

「だ、だってさ…」

「…カンジル?」

「あほっ!!」

「いって…」

















「気持ちいい」と「くすぐったい」は紙一重

それを悟られたくなかったさんは、思わず流川のヒザに乗せていた足でそのヒザを蹴ったとか…

流川に「感じる?」なんて聞かれてしまって…さんは思い出していたわけですよ。

初めて流川とキスした時に…次はホテルにと誘われていたことを…

アレ以来…さんがなんとかかんとか理由をつけて、その先へは進んでいなかったけれど、

今日はもしかして????

























『…うわぁ…どうしよう?…このコ初めてっぽいしな…。

あ…そういえば私だって初めてのコ相手にしたことないんじゃない…?

ここは私が誘ってあげるべき??年上としては…』



























一人で焦るのはさん。

今までは時間がないからと拒んできたが…今日はそんな言い訳できるはずがない。

この状況でおねだり上手の流川くんに誘われたら…断れる自信のないさん…

見た目はおとなしくしていても、頭の中ではパニックです。































でも流川くんはといえば…蹴られたせいで逃げ出したさんの足のツメを全て塗るべく、

さんの足首をつかんで再び自分のひざに乗せ…けっこうペディキュアに熱中してます…



























「できた」

「…へぇ…うまいじゃない」

「図工4だった。小学校ん時」

「…絵かよ…」

























流川くんが昼寝をしていたせいもあり、時間はもう夜と呼ばれる時間帯。

人様のお宅にお邪魔しているならば、そろそろお暇するのがちょうどいい頃。



















「ね…今日さ。泊まって…いく?」



















さっきいろいろ考えてしまったさんは、そっと流川くんに聞きました。

なんだかんだ言ってもさん、けっこうその気になっているご様子。

こういうとき、一人暮らしは便利ですよね。



















おいしい申し出をされた流川くん。

もちろん泊まっていくと思いきや…予想に反してこう言いました。



















「今日は帰る」

「…そう…」



















ちょっと残念そうなさんではありますが…「流川にもけっこういいところがあるかも?」と、

さんの中で流川くんの株は上がった模様。

でもそれは…たった一瞬のことでした。

流川くんが余計なことを言ったせいで…





















「泊まりてぇけど…でも今日は帰らねーと。ウチ、今夜はスキヤキなんす」

「…は?」

「オレの好物」

「…へー…」





















つまりアレですか?

流川くんはさんとの甘い一夜よりも、好物のすき焼きを選ぶと…































『…私って…すき焼きに負けるんだ…』



























帰ると言う流川くんを表まで見送りに出ながらも…さんの足取りは…

…心中お察しします…

でも、流川くんはまだ色気より食い気のお年頃のようですし…ここままあ穏便に…

























「んじゃまた来るな」

「…うん…」





















本当は…流川くんの気が変わることを期待していたさんですが、

流川くんはいそいそとお家に帰っていきました…。

今日はちょっとだけ流川くんと一歩前進してもいいかなーと思ったさんでしたが

流川くんからのあまりの仕打ちに、その気は完全に失せたそう…。



















このあとしばらく、流川くんはキスさえさせてもらえなかったそうな。


















後書き

流川くんがすき焼き好きかは謎。
ちなみに、一真はメロンに負けたことがあります…



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