「………」

















とある土曜の朝のこと。まだ朝もやも晴れない早朝。

寝坊しないようにとセットした目覚ましが鳴るまでまだ4時間もあるのだが…

三井寿は目覚めた。

久々の休日だし、ゆっくり体を休めたい。

もう一眠り…と思って目を閉じるものの、目が冴えて眠れそうにない…。

なにか損をしたような気持ちになりながらも、三井は体を起こした。











「…チッ…なに緊張してんだよオレは…」











昨日の部活帰り道、明日はせっかくの休みだからデートでもしようとと相談しながら歩いていた。

時間がないながらもちょくちょくデートをしていた二人だから、

近場のデートスポットはほとんど行きつくした。

これといって行きたい場所も思い浮かばず、

本音は家でゆっくり過ごしたかった三井は、ほんの思いつきで言ったのだ。

「オレんち来るか?」



…と…。



明日は両親が仕事で留守のはず。

に断られてデートの予定が流れたとしても、家でだらだらするのも悪くない。

そんな軽い気持ちでを家に誘った。











「あ、ほんとに?じゃあお邪魔しようかなぁ…」

「おー。来いや」









てな感じで、今日はがウチに来る。

別に汚かったわけじゃない部屋を、年末大掃除なみに掃除してしまったのは昨夜…深夜のことである。





















朝食を済ませて、仕事に出る両親を送り出して…そうこうしているうちに時間はようやく10時半。

そろそろが来る頃だろう。

迎えは必要ないというのでリビングでの到着を待つこと20分。

ついにインターフォンが鳴ってが家にやってきた!











「おはよう寿。遊びに来たよ〜」











玄関のドアを開けると、満面の笑みを浮かべたが立っていた。











「よお。ウチ、すぐわかったか?」

「うん、迷わなかったよ。…ね、おうちの人は?」











不意に声を潜めたが、家の中の様子を伺うような仕草を見せる。











「あー、今日は二人とも仕事でいねぇーんだわ」

「あれ?そうなんだ…。んじゃ、はいこれ。ウチの親からのお土産ね。ご両親によろしくって」

「ああ…どーもご丁寧に…って…お前、もしかして家族に話してる?オレのこと」

「ん?うん。今日も寿のウチに行くって言ってきたよ?今度は寿をウチに連れておいでってさ」

「…へー…」

「あれ?どうしたの?話しちゃまずかった?」

「いや別に…」











高校生ともなると、親へ隠し事の一つや二つあるもので…

三井にとってその一つがとの付き合い。

息子に彼女がいることは感づいている様子だが、ちゃんと話したことはなかった…。

逆には彼氏のことを両親に話していて…

その上でこうして手土産まで持たせて彼氏の家へ送り出したということは…?











『こいつんちで…オレとは親公認てか…?』











「…もしもーし?寿さん?」

「…っなん…」

「どうしたの?変な顔でぼんやりしちゃってさ」

「う、うっせーな!べつになんでもねーよっ!」













が自分にことを家族に話しているという事実が思ったよりも嬉しくて…

嬉しさのあまり自分の世界に入っていたなんてとても言えない。

照れ隠しに思わず大声を出してしまい、しまったとばかりにの顔を覗きこむ三井。

せっかくを家に招待したというのに、こんなことでケンカをするのはあまりにバカくさい。

どうフォローしようかと慌てる三井。しかし、顔を覗きこまれたは口元だけでニッと笑った。











「ははん。さては照れているな?寿くん」

「っだー!!いいから早く中入れ!」

「あはは。おじゃましまーす」















































「おぉー…これが寿のウチなんだぁ。なんかお洒落ねぇ」











三井がお茶の用意をしている間、リビングに通されたは、珍しげに辺りを見回している。

三井の母親の趣味で統一された家具やインテリアが気に入ったようで、とても楽しげだ。











「…寿って実はお坊ちゃんなのねぇ。ママに『ひ〜くん』とか呼ばれてたり…っいたっ!」











壁に飾られていた家族写真。そこにはまだ幼い日の三井が両親と一緒に写っていた。

いまの彼とは似ても似つかない、素直な笑顔…なんて可愛らしいのだろう…

そんな写真を眺めながら、ついついは頭に浮かんだことを口に出してしまった。

途端、後頭部に衝撃が走る。軽くとはいえ何か堅い物の角で叩かれたもよう…

恐る恐るが振り向けば、そこにはこめかみに小さな青筋を浮かべていそうな表情の三井が

無理やり作った笑顔を浮かべて立っていて…













「だーれが『ひ〜くん』だって?」

「あはは…。聞こえてた?」

「ったく…。部屋行くぞ。二階な」











そう言って先に歩き出した三井。

歩き出す前に、三井はに一枚の板チョコをくれた。の好物の一つで、三日に一度は口にしている代物だ。

その冷たさは、さっきまで冷凍室に保存されていたことを物語る。

三井は自分で買ってまでチョコを食べようとはしないから、これはきっと用に買ったもののはずだ。

大好きなチョコレートを用意してくれていたのはとても嬉しい。けれど…

どうやら先ほど頭に受けた衝撃はこの板チョコのものだったらしい。











『…チョコ…嬉しいけど痛いなぁ…』











…そんな微妙な気持ちを味わいながら、は三井のあとを追って二階へと上がっていった。









後書き

二部構成になってしまいました。個人的に、なんでもない日常とか好きなので、
くだらないことをだらだらと書いていたらこの始末…。
さんが持ってきた手土産の中身が気になりますが…ご想像にお任せします。
さんのお母様がお作りになられた何かだと思いますがw

凍った板チョコは本当に痛いです…
板チョコで人様の頭を叩くのは控えましょう。


次のお話