雀がいなくなった。鶯の声が聞こえてこない。ツバメの姿がない。
気が付いたら庭から小鳥の姿が消えていた。ヒヨドリがいつも庭にいた。ドッグフードと、私が置いてやるバナナや、みかんを食べるために、いつも庭に陣取ってほかのヒヨドリと喧嘩していた。一日中うるさかったので、ほかの鳥がいなくなったのに気が付いたのは五月になってからだ。
ヒヨドリがあんまり喧嘩しなくなったな、と思っていたときに、妻が、NHKのドキュメントで、チェルノブイリの事故のため鳥が半分くらいに減ったというをやっていた、と私に言った。そういえば、とこの前からヒヨドリしかいなくなったような気がして気になっていたので、庭を見ると、冬には毎日あんなに来ていた雀が1羽も来なくなっていた。日に何度も見るのだが、数日に1羽くらいしか来ない。普通に庭に来ていたシジュウカラも、そういえばこの1ヶ月で、2度しか見なかった。
ヒヨドリが追い払っているのかなと思って近くを見に行ったが、近くの電線にも、屋根にもスズメはいなくなっていた。町うちに行くと少しいた。ほんの少しだ。スズメなんて、見あげれば必ず何羽も目に入ったものだが、それが探さなくてはいない。
去年までは、毎日どこかから必ず聞こえてきていた鶯の声も、春先に1度聞いたきり1度も聞こえてこない。
前の田んぼにもツバメが飛んでいない。1度、つがいのツバメが来ていた。1羽が田んぼの土をついばんでいた。1羽が上の電線にとまっていた。仲良く飛んでいった。ああツバメが帰ってきた、とほっとした。次の日、1羽が電線にとまっていたのを見た。それっきりもう何日も見かけない。巣づくりの土を取っていたのだから、近くに巣を作ろうとしていたはずだ。それがいない。例年なら、ツバメなんてどの田んぼの上にもいつも飛んでいるのだが。姿がない。町うちには少しいる。町うちにはツバメもスズメも少しいる。
でも雀なんか、おそらく数十分の1に減っていると思われる。いるのは、ヒヨドリとか、カラスとかサギとか鴨のように、中くらいから大きな鳥だ。その鴨も見かけなくなった。カラスも少なくなっている。ヒヨドリも、庭に来て小枝をくわえて飛んでいっていたのに、今は庭に来ない。時々ほかのところで見かけるだけだ。
ここから30キロほど離れた鉾田の人も、雀がいなくなったといっていた。カラスも減ったと。
田んぼの向こうの林から聞こえてくる鳥の声が日ごとに小さくなっている。裏の林からも鳥の声がほとんど聞こえてこない。空を見上げても鳥の姿がない。鳥ばかりではない、蝶も蜂も非常に少なくなっている。去年まで何百何千と、爆発的に発生して、花や、野菜の苗を食べていた黄色いカタツムリが、今年はまだ1匹だけしか見ない。
周りから生き物が消えている。これが放射能のためかどうかは分からない。しかし、農薬なら、去年も一昨年も同じように無線ヘリコプターで撒いていた。地球温暖化なら、ここ数年増えてきていた南方系の蝶まで原発事故の後いなくなったのはおかしいし、今年はまだ鳥や生き物がいなくなるほど暑くなってはいない、どちらかといえば涼しいほうだ。しかし、放射能が原因であるとは決まっているわけではない。しかし、いっぱいスズメがいた冬と、いなくなっている今との間に起こった大きな変化はひとつだけだ。原発の爆発だ。
何か怖いことが起こり始めている気がする。これが杞憂であることをただただ願う。