秋祭り
小さな古い社のはるか上にケヤキの大木が伸びている。そのケヤキに晩秋の陽がひっかかった。黄葉した欅の葉が光の中で震えている。鳥居のわきでは祭りの大きな幟が静かにはためいている。
小さな境内に四,五十人のおじさん、おばさん、おばあさん、おじいさんが集まっている。若者や子どもはいない。でも、みんなニコニコ、お赤飯やおしんこをほおばっている。
こうじやの春夫さんは社の濡れ縁に立って、カラオケだ。「・・・日本海・・」と半分禿てしまった頭をゆすっている最中だ。もう半分出来上がっている。神社の濡れ縁は、広くて、高いから、舞台にはうってつけだ。社のわきでは、1升ビンがおじさんやおじいさんの間を回っている。話に夢中で歌など聞いてはいない。
今日は昨日までとうって変わって小春日だった。お昼に始まったお祭りは、神輿が出るわけでもない、はっぴ姿の若者が闊歩するわけでもない。まあ、何とか歩ける、おじいさんと、おばあさんと、その予備軍たちだけのお祭りだ。祭りといっても一人1曲づつカラオケを順番に歌っていくだけだ。祭りらしいのは、鳥居わきののぼりと、参道に沿ってつるされたちょうちんだけだ。そのちょうちんだって、明かりは入っていない。みんな夜までやる体力はないのだ。
私たち、ヨサコイ連はその祭りに呼ばれた。その神社の近所の人が私たちの仲間で、頼まれたてきたのだ。カラオケだけでも寂しいから、踊りでもいれっぺ、ということみたいだ。
まあ、理由なんかどうでもいいのだ。踊れるなら私たちはどこへでも出かけていく。
それで、みんな派手はでに化粧をし、頭を盛り上げしっかりお祭りだ。で、カラオケの合間に踊った。酔っ払いの声援がいっぱい飛んできて、負けじと、掛け声を張り上げて踊った。赤飯をご馳走になったから、エネルギー、満タンだ。
お日様があっちの屋根まで落っこちて、2回目の出番だ。それもおおとりだ。ケヤキの頭だけが輝いている。ざわざわ渡っていく風が冷たい。鳴子を鳴らし、とんとん奴を踏み、「ドッコイショ。ドッコイショ」と掛け声をかける。冷たい風が気持ちいい。
酔っ払いたちの声援で、静かな祭りはおしまいになった。いつまでも騒いでいる酔っ払いを残して、おばさんやおばあさんはさっさと帰っていく。おじさんたちが、ちょうちんを下ろしていく。薄墨の夜が足元にしのんできた。私たちも化粧を落として、帰り支度だ。祭りはまた来年だ。