怖い話2
私たちは、麦酒で乾杯した。もちろん生ビールだ。
田舎町にしてはしゃれた居酒屋で、ちょっとはやっている。隣組の夫人たちが懇親会をする会場にするという。妻ともう一人の夫人が幹事の当番で、下見をしたいというので付き添ってきた。
その婦人はわたしより5,6歳は上だろうか。ところが歩くのは私の5,6倍は上である。毎日、犬を連れるか、孫を連れるかして、朝も、昼も、夜も歩いている。行動力のほうは10倍は上だろう。
彼女は、10年ほど前に夫をなくしている。その後、退職してから、世界中を旅行しているという。
「そうよ。歩けるうちに行けるところは行くことにしてるのよ」と言う。
「秘境が好きなのよ」といって、コロンビアの、探検旅行の話をしている。
カウンターの私と彼女の間には妻がいて、相槌や横槍を入れながら聞いている。私は聞き耳を立てる。店は満員で、けっこううるさいので、注意してないと聞き逃してしまう。
いろんな旅行の話が一段落して、彼女の家の隣の空き家の話になった。
「絡まってたくずのつる切っていったから良かったでしょ」と久美子が言う。
持ち主がやってきて、家の周りをきれいにしていったことを話している。「そうなのよ。でも気持ち悪いのよ」と彼女が答える。
「でも暗くなくなったからいいんじゃない」
「そうじゃないのよ。あそこは変なのよ。最初は建前の日なの。その日に奥さんがとつぜん亡くなったのよ」という。
「その後、再婚して居たんだけど、今度はだんなさんが亡くなったの」
「へえ」と私は少しのりだす。
「そしたら、今度は、奥さんの連れてきた子が、家の中で死んでたんだって」
「奥さんは暮らせないからといて実家に帰って、その後はずっと空き家よ」
私の記憶ではそこはずっと空き家だった。仕事していたころは、近所のことまで気が回らなかったからかもしれないけれど、記憶の中はいつも空き家だった。
「怖いね。何かあるよ」
と私はいう。
「その後、私のとこでしょ」彼女が言う。
彼女の夫が亡くなったのは六十そこそこだ。普通ならまだまだ生きていける歳だ。
「そうか。お払いしなくちゃだめだね」
「お清めしたのよ」
彼女は神道だから、塩とお酒で、お隣との境のところでお清めをしたという。
「そしたら今度は、山本さんのところでしょ」
と反対隣の家のことを言っている。そういえば今年は新盆だった。
「あの前の道も、なんでもないのによく車が突っ込んでるものな」
と私。
「そうよね」
「でもどうして」
「昔水戸藩の刑場があったっていうのよ」
「へえ。でもどうだろう。こんなとこにあったのかなあ」
「話だから」
彼女はあっさり撤回する。本当のところは分からないのだろう。
不幸が続くことは良くあることだ。でも、なんとなく多すぎる。桑原くわばら。