百舌

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 パンジーの苗の移植をしていたら百舌が鳴いた。今年も来たんだな、と桜の木を見上げた。

 何年か前、最初に聞いたときは百舌とは思わなかった。低い嗄れ声だったからだ。しばらくはちょっと変わった鳴き方のひよどりだな、と思っていた。百舌の声は、記憶ではもっと高くキーキーと鳴いていたように思っていたからだ。桜の葉が落ちて、見通せるようになると、上下に尻尾を振って鳴く姿が見え、百舌だとわかった。

 毎年この季節になるとやってくる。電線やテレビのアンテナにとまって鳴くときもあるが、桜の木の天辺で鳴いているときが多い。枝垂桜だから、天辺の枝も天を向かず、横に伸びてから枝垂れている。その横に伸びたところにとまって空に向かって大声で鳴く。

 

 見あげても、まだ、桜の葉がかなり残っているので百舌の姿は見えない。「百舌が枯れ木で」ではないな、と思う。

 そして移植の続きに戻る。苗はまだ400本は残っていそうだ。花屋では、そろそろ花の咲いたパンジーを売りだすころだが、素人の私の苗はまだ小さい。それでも12月ころには咲き出すはずだ。植えながら、もずが枯れ木での歌を頭の中で歌っている。

「兄さは満州へ行っただよ。鉄砲が涙で光あっただ。もーずよ寒いと鳴くがいい。兄さはもーっと寒いだろ」

 満州の寒さは分からない。やはり戦争中鉄砲を持って中国に行っていたという父の話では、ドアのノブを素手で持つと手が凍りついて取れなくなるといっていた。寒いところなのだろう。

 そんな寒い所にどうして鉄砲など持って行ったのだろう。でも寒いのは、兄さばかりではなかったろうと考える。その鉄砲を向けられた満州の人たちはもっと寒かったろう。その鉄砲でたくさんの満州の人たちが殺されたのだろう。何で、日本の人たちはよその国まで行ってたくさんの人を殺したのだろう。何で満州まで行って彼らの大事な土地を奪い、ものを奪ってしまったのだろう。

 人に鉄砲を向けたとき兄さはどんな気持ちだったろう。撃ち殺すときはどんな気持ちだったろう。鉄砲を向けられたとき、満州の人たちはどんな気持ちだったろう。悲しいことだ。みんな苦しみの中にいたのだろう。

 戦争は、みんなを苦しめるだけだ。いい事なんか何ひとつもない。それなのになんで兄さは鉄砲を持って満州までいったのだろう。

 

 先日、手持ち無沙汰で、チャンネルを回していたらオバマ大統領がアメリカ軍の基地で銃の乱射のために亡くなった人のために演説していた。いやだから、すぐ違うところに回したが、アメリカのためになくなった偉大な犠牲者に、国民がもっと感謝の気持ちを持てば、みんなもっとがんばれるだろうといっていた。

 アメリカ軍は、よその国に鉄砲を持って出かけて、たくさんのアフガニスタンや、イラクや、最近はパキスタンの人たちまで殺している。アメリカとはまるで関係ない暮らしをしていた人たちが、突然やって来た人たちに悪人呼ばわりされて殺されていく。それを始めた、ブッシュ前アメリカ大統領は、そのことで大もうけした石油会社の社長だという。チェイニー福大統領は軍需産業の社長だという。

 あの時も、日本人の中に、兄さの行った満州や、朝鮮を植民地にしてたくさんのお金を手に入れた人たちがいたのではないのだろうか。その人たちは絶対に鉄砲の弾が飛んでこないところにいて、おいしいものを食べていたのじゃないだろうか。ブッシュ元大統領や、チェイニー元副大統領のように。そして、平和と愛国心を説きながら、やはり、パキスタン人まで加えて殺させ続けている、ノーベル平和賞をもらったオバマ大統領のように。これからも、平和のために、何十万、何百万の人たちが戦争で殺され続けていくのだろう。

 戦争は、どちらの国の人々にも苦しみなのだ。偉大な犠牲になる人も、その人たちに殺された人たちにも。

 

 自衛隊の運んだアメリカ兵や、武器や、燃料を使って、国際軍は、何百万人ものアフガニスタンや、イラクの人たちを殺してきた。どれくらいの町や村を破壊したことか。許可のない報道は許されないからだれも知らない。自分の頭の上に爆弾は落ちないけれど、よその国の人を殺す手伝いをしている。何でそんなことをするのだろう。そしてこれからもそれを続けるのがアメリカとのいい関係をつづけることだといっている人たちがいる。 ブッシュ前大統領も、オバマ大統領も正義の剣といっているけど、何百万もの人の命を奪って、町や村を破壊して、それを命令した人たちが大もうけするのが正義とはどうも解せない。ひょっとして、日本にもおこぼれに与かっている人たちがいるのじゃないだろうか。

 

 百舌はどこかに飛んでいってしまった。秋の日ざしがやわらかい。世界中のだれもが、秋にはパンジーの苗を育てられればいいのにと思う。銃弾に追われてそれどころではない人たちが何億人もいる。食べるためにそれどころではない人たちが何億人もいる。そして、金儲けのためにはなんでもするが、パンジーのことなど知らない人たちがいる。ほんの数千人のその人たちが、手段を選ばす世界の富をかき集めているという。

 おっとっと、と思う。こんなこと考えながら植えてると、パンジーがいじけてしまうな、と。でも、「鉄砲が涙で・・・」、とまた歌っている。