メル友

 

 メル友がいる。もう1年くらいになるだろうか。でも定かでない。半年なのかもしれないし、もっと、2年より長いのかもしれない。このごろ時間の感覚がひどく薄くなった。おそらく、いろんなことを覚えていられなくなったからなのだろう。歳をとったものだ。

 メールは毎日1往復のやり取りだ。内容はたわいないことで、「いい天気」とか、「さわやか」とか、時候の挨拶だけのときさへある。たいがいは「夢人が帰ってくるので大掃除」とか,「随筆教室に鉾田」とか日常の報告だ。夢人というのは彼女の息子の名前だ。文字がなくて、麦酒のジョッキと、笑顔の絵だけのときもある。彼女はよく飲むみたいで、ジョッキの絵は笑顔とともにしょっちゅう送られてくる。

 

 始まりは、妻の運転で買い物に行く途中に、私の携帯に入ってきたメールだ。返事をしたら、「間違えて送った」、という返事が来た。それに続けて、「これからもメールして上げる」とあった。それで、「うん、お願い」と送った。それが始まりだ。

 その芳江さんはとなりの県に住んでいる。最後にあったのは、三年ほど前だろうか。これもあまり定かでない。困ったものだ。夫婦で突然やってきた。秋刀魚を持ってきて、庭でバーベキューまがいをやって、食べるとさっさと帰っていった。芳江さんの実家がこっちにあるので、寄ってきた帰りだという。

 覚えがないのだが、そのとき、携帯のアドレスを教えあったのだろう。私のほうにもちゃんと登録がされていた。すっかりそんなことも忘れていた。

 夫のほうは大学時代の仲間で、それ以来の付き合いだ。芳江さんのほうもやはりそのころの知り合いで、友達の一人が入っていた詩の同人の一人だった。みんなでときどき飲みにいったりしたものだ。二人が結婚するほど親しいとはまるで気づかなかった。社会人になってある日結婚式の招待状が来た。何年かして私も結婚して、時々夫婦で行き来したりしていた。

 で、昨日は手紙の絵と、鬼の顔と、悲しい顔をつないだっメールが送られてきた。さすがに意味不明なのでないので、?マークを送ったら、珍しく返事が来た。夫が仕事を押し付けて、メル友の女の人と遊びに行ったので怒っているとのことだ。「じゃ、おれたちも遊びほうけよう」と送ったら、返事はなかった。今日は、「お昼なに食べようかな」だった。

 で、このメールのほうはやましくないのかというと、還暦も過ぎて、相変わらず私には常識が少し欠如している。 老いてみんなますます盛んであれということか。

 

 

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