ブルーベリージャム

 

 東京に住む娘が彼氏を連れてきた。

 

 前日の夜、突然「明日彼連れて行っていい」という電話があった。

「うん、そりゃいい」と電話を受けた私は言う。

 亡くなったばかりの久美子の父親の誕生日に、集まって偲ぶ会をしようと妻の久美子が言っていた。それで、そのときに連れていっていいかということだ。

「うん、いいね。お父ちゃんも喜ぶわ」と言う。

 

「作ってきたの」といって、娘がプラスチックの容器を取り出した。

「この前のブルーベリー、ジャムにしたの」

という。

 告別式のために来たとき、義父が作っていたブルーベリーをいっぱい摘んでいた。入院した日にも、「ブルーベリー摘んどいて」と言っていた。その一部を持って帰っていたらしい。

「つけるものがないね」と言って、台所に立っていって、小さな取り皿を持って来た。

「味見」と言って少しずつみんなに取り分ける。

「うまい」と義弟が言う。

私も、「ほう。なかなか。すっぱさがちょうどいい」と相槌を打つ。

「娘ちゃんの作ったの初めて食べるな」と義弟が言う。

「そうだよな。おれも初めてだな」と私も言う。

娘はフフッと笑う。

「小学校のころ、フルーチェ作った以来かな」と付け加える。

「あれは牛乳を混ぜるだけだから」と娘が言う。

「時間かかったろう」とばあちゃんが聞いている。

「うん。砂糖入れて、レモン入れて・・・・」と作り方を説明している。

「よく焦がさなかったね」とばあちゃんが感心している。フフッと娘が笑う。

 昔、結婚したころ、義弟がやはり、「クミちゃんが料理作った」といって驚いていたのを思い出す。

 息子は食べるのが好きだったから、よく台所に入って、何やかや作るのを手伝ったり、自分で作ったりもしていたが、娘は決して台所に立たなかった。それが、この前、久美子の父の葬儀のときは、義理のおばといっしょに台所に立ってよく働いていた。

「変わったな」とそのとき久美子に言った。

「10年も一人暮らししていたら少しは出来るようになるのよ」

「いやずいぶんしっかりしたな」と働いている娘を見てもう一度言ったものだ。

 いつまでも小さな子のように思っているけど、もう29になるのだから、それくらいは当たり前なのかもしれないけど。

 それから、出前の寿司をみんなで食べた。久美子はてんぷらを揚げていた。大人数だからそれ以上作るのはあきらめて、出前にした。

 私と、義弟はお酒など飲んだ。

「飲んだら」と義弟が、彼氏に言うと、娘が、「明日仕事だから」と彼の代わりに言う。

「今日中に帰るんだって」とさっき聞いたことを妻が補足する。

 彼氏は、初めて会うばあちゃんと、義弟と、まだ2回目の私と久美子の中にいて、かしこまっているのだ。で、娘がかわりに答えたりしている。

で私は、もう手綱握られてるな、とニコニコ見たりしていた。

 「お父さんどうぞ」、と彼は私にお酌などする。なんかテレビみたい、と思いながら、お酌を受けたりする。

 で、話は、私と、義弟が中心になって、小さかったころの娘のことや、義父の話をしていたのだが、酔っ払いすぎて、蛇の話から進まなくなったので、おしまいにした。二人は、車に乗って、東京に帰っていった。

「雨大丈夫かしら」と暗い中、車を見送りながら久美子が言う。東京は雷洪水警報が出ているとテレビでやっていた。

「大丈夫だと思うよ、大きい車だし」

とT字路を曲がっていく車を見ながら言う。

 娘の彼の初訪問だけど、年寄り二人がしゃべっていて、肝心の彼はあまりしゃべらなかった。今日は偲ぶ会だったし。まあ、そのうち。

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