夢の話

 

「午前中草取りして、花植えてきたのよ」とみちこさんが言う。

ここのところしょっちゅう出かけているようだ。

 

 数ヶ月前だろうか、

「土地買ったのよ」と嬉しそうに話していた。

「土地なんかどうするの。使わないんだったら税金ばっかりかかって損だよ」

と私は分かったようなことを言う。

「そうよね。でも欲しかったの。本家の土地だったところなの。昔は駅まで本家の地所を通っていけたのよ」という。

「その庭の隅に昔小作が住んでいた長屋があったの。そこに私たち住んでたの。本家の従姉妹といっしょの学校でね。ミッちゃんはうちの納屋に住んでるのよって、言われたのよ。いつか四谷を買ってやるって、ずっと思ってたの。そしたら売りに出てたの。昔なら売りになんか出なかったのにね。本家が切り売りしたのを買った人が、年をとって、売りに出してたのよ。バブルのときは45万もしたから、それじゃとても手が出ないけど、12万ていうのよ。それを9万しかないといったら、ミッちゃんならいいよ、って売ってくれたの」

「そうか。なるほど。そうだよな」と私は相槌を打つ。

 その日はほかの客はいなかった。だから話したのかもしれない。

「あの辺りはずっと田んぼだったのよ。それが少しずつ切り売りして、買った人が家を建てたから今は住宅地になってるの。駅前の一等地だったから、金持ちしか買えなかったのよ。だから立派な家ばっかり」

「へー」

「あっちに店出そうかな」

「いいんじゃない。ここより絶対いいよ」

「でも、お金ないのよ。ここ買ってくれる人がいればね」

「ここ買う人か。買っても元取れなさそうだからな」

「東京で退職した人で、趣味で喫茶店やりたいって人いたら買うと思うの」

「そうか、それならいるかも。田舎暮らしがはやってるみたいだから」

「そうなのよ。女の人ってけっこう喫茶店やりたい人いるのよ」

「そうな」

 でも、そんな人どうやって見つけるのだろうと思ったけど言わなかった。

 

 その日のように、今日も客は私一人だ。

 「花植えてると、あらミッちゃんって、昔の知り合いが話しかけてくるのよ。買ったんだってって。みんな知ってるのよ」

「店出すと、はやるわ。昔の知り合いが来て楽しいんじゃない」

「コーヒー飲みに来るような人たちじゃないわよ。店はよしたの。隠居にするの」

「隠居か。それもいいな」

「隣が本家の庭になってるの、きれいなのよ。春は枝垂桜で、秋はもみじがきれいなのよ。でもね、周りがみんな立派だからみすぼらしい家建てられないのよ」

「そうか、たいへんだな。金持ち見つけなきゃ」

「そうなの、やさしくて、金持ちで、家族がいなくて、そんな人いないかしら」

「無理だな。そういうのとっくに売れてるから」

「今日はひまわり植えてきたの。全部ひまわりにしたらきれいじゃない」

「そうだな。一生花畑だな」

「いいの、そのうち建てるんだから」

「いいね。そのときは遊びにいくから」

「みんなできて。花見しよ」

「いいね」

 

 夢を持つのはいい。でも、それが家や地位や金ではまたもとの木阿弥になってしまわないのかとも思う。本当に追いかける夢はもっと違うものの方がいいのにと思う。でもそれは黙っていた。なんだか、ケチをつけるようで言えなかった。それに、本当とか、贋物とかいったって、私の独りよがりに過ぎないのだから。そう、誰も自分の夢を見ているのだから。
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