絡み合い
怖い写真見る、と私はこの前撮った写真を見せる。
「わーすごい。どうしたの」とみちこさんが言う。
「撮ったの」
「高田さんが」
「そう。この前犬の散歩に行っていたら、犬が見つけたんだ」
蛇が鷹に撒きついて、がんじがらめに締め上げている写真だ。まだ両方生きていたが、鷹のほうは口が開いて、目をむいている。かなり苦しそうだ。勝敗は決していた。鷹はなすすべがないが、蛇はそのまま締め上げていれば、そのうち鷹は死んでしまうだろうと思われた。しかし蛇は小さいから、一気に鷹を締め上げるほどの力はないようだ。引き分けとしたいところだろうが、残念ながら話し合いのすべはないようだ。
「帰りに通ったらまだそのままだったんで、家からカメラを取ってきて撮ったんだ。この目怖いだろ」
鷹は黄色い目を見開いてカメラ目線だ。蛇も、カメラをにらんでいる。
「蛇はだめ。写真でもいや」
「それでどうなったの」
「逃がしてやったよ」
「どうせ鷹を殺しても、この蛇じゃ食べられないし。カラスの餌になるだけだから。野良犬でも来たら、両方とも食べられるし。棒で蛇をつついて、離してやったんだ」
「すごいんだ、鷹に巻きついたまま棒に噛み付こうと、シュッととびかかるんだ」
「おおやだ」
「蛇を傷つけないように離すの大変だったんだよ。蛇って案外デリケートで、ちょっとしたことですぐ死じゃうから」
「そういうのって人間が助けちゃだめだって言うじゃない。自然に任せて、人間は手を出したらだめだって聞いたわよ」
「そう言うね。でもそれが正しい意見だって証拠はないからいいの」
「だって、毎日交通事故に合う野生生物は日本中で、百匹はいるんじゃない。昆虫を入れたら数百万匹になるよ。いつだったか、バスツアーで高速を走ったとき、フロントガラスにいっぱいトンボがぶつかって死んでるの。往復で30匹は当たってたな。すると、日本中で1万台のバスが走ったら、300万匹のトンボが死ぬんだよ。車はものすごい数走ってるから、交通事故にあうトンボはものすごい数だよ。魚だって、毎日何百万匹も魚屋に並んでるし。日本中で助けられてるほうは、せいぜい百匹くらいじゃない。おれが鷹の1匹助けたくらいで何ちゃないと思うよ。大体、そういうこという人は、殺すほうには何にも言わずに、助けるほうだけだめだっていうんだぜ」
「そうね」
「多分生き物嫌いの冷血な立身出世しか頭にない人が、言い出したことだと思うよ。立身出世主義だから、偉くなってるから、周りの人が、へーこらその主張を押し戴いて、広めたんだよ」
みちこさんは何もいわない。立身出世主義との関係がわからなかったのだろう。まあ、こじつけもいいところだから当然か。
「なんとなくかっこいいことばって、よく考えないで通るから、中身は怪しいんだよ。いけ面はそれだけでもてるけど、中身はわからないのだろ。顔ばかり見てて、中身まで気が回らないから」
「そうよね」
「だんなさん、美男子だったんじゃない」
とつぜん言ってみる。
「そう。でもそれだけじゃないはよ。先生だから、いつか校長夫人になれると思ったのよ。私は、大学行ってないから、あこがれたのよ」
「そうか、そうだよな。昔から永久就職って言うからな」
「そればかりじゃないわよ。しっかりしてて、頼れそうで、性格的にも引っ張っていってくれそうだったから」
「そうか、けっこう見てたんだ」
「そうよ。理想の人だったのよ」
みちこさんはうっとりした顔になる。
「でも、蓋をあけたら違ってた」
「そうね」
みちこさんは考える。全面的に、そうね、ではない顔だ。
「思い出した」
「わあ、やだ。もうごめんだわよ」
何を判断の基準にするかは人様々だ。それらが絡み合って、締め上げる。話し合う余地があればいいのだが、自分たちではどうしようもないときもあるようだ。お互い合うところだけで接触している分にはそんなに痛めつけもしないのだが、ついつい絡み合ってしまう。そんなもんなんだろう。