家 族

 

 むかし猫を飼っていた。薄い肌色で、ほっそりとして、青い目をしていた。ホームセンターの前で、もらってください、という看板の掛かったペットサークルの中からもらってきた。まだほんの子猫だった。

 1年後、その猫が、子どもを産んだ。外で飼っていたので、外の箱の中で産んでいた。

「こんなちっちゃいのに、ひとりでできたんだね。えらいね」

と、妻はしきりに褒めたり感心したりした。

 そのときは、茶虎の雄猫もいたのだが、生まれてきた子猫は、鯖猫と、白猫だった。母猫にも似なかったが、茶虎も一匹もいなかった。そのわけは、雌猫が身ごもったころは、茶虎はまだ子どもだったからだ。そのころ、しきりに雌猫を追いかけていたのは、どこからかやって来た大きな鯖猫と、真っ白の猫だった。茶虎は、その猫たちに脅されて、小さくなって逃げ回っていた。

 生まれる少し前、その鯖猫がやってきた。しかしそれっきりだった。認知するつもりはなかったのだろう。

 

 母猫はいつもどてっとひっくり返っていた。子猫たちは、夢中でおっぱいをすする。おなかを両足でムニュムニュ押して飲んでいる。母猫は、気持ちいいのか、それとも、我関せずなのか、いつも目を閉じて、どてっと寝転がって眠っていた。


 少し大きくなると、子猫はしきりに母猫にじゃれ付くのだが、母猫は、寝転がったまま尻尾の先をちょこちょこっと動かすだけで、知らん振りだ。

 すると、それまで見ているだけだった茶虎の出番になった。茶虎は、子猫たちの遊び相手になる。子猫たちは大喜びで茶虎にじゃれ付く。一匹と4匹で飛び回る。すっかり父親気取りである。

 物陰に隠れて、ぱっと飛び掛る。背中を丸めて、フーッと威嚇する。組み合って、後ろ足で相手の腹をけりあう。まるっきりプロレスごっこである。茶虎は、それに付き合ってやるというか自分もすっかり遊び仲間になっている。みんな嬉々として笑っている。人間以外の動物は、笑わないというが、決してそんなことはないと思う。猫だって、遊ぶときは、笑っている。人間以外は笑わないという学者は、きっと、動物を飼ったことがない人なのだろう。


 茶虎は、ときどき子猫たちにねずみを生きたまま持ってきた。そして、ねずみを追いかけさせる。ねずみが逃げおおせそうになると、パット捕まえて、また子猫の前に置く。子猫たちはそのねずみにじゃれ付く。狩の練習をさせているのだろう。茶虎はそれをニコニコ見ている。母猫は、少しはなれたところで、相変わらずどてっと昼寝だ。


 ある日、犬が庭に紛れ込んできた。すると、それまで眠っていた母猫が、うなりながら、ぱっと飛び起きて、すばやく犬と子猫の間に立ちはだかった。歯をむいて威嚇の声を出している。すごい形相だ。子猫たちは、一目散に家にしている箱の中に飛び込んだ。茶虎も母猫の後ろで犬をにらんでいる。茶虎のほうが、からだは大きくなっていたのに後ろにいる。犬もその意味が分かったのか、さっさと庭から出て行った。そしたら、母猫はまたごろっと横になった。でも、しばらくは耳がくるくる動いていた。

 猫の世界も、母は強し、みたいだ。
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