みちこさんはニコニコしている。
「私、合コンて初めて」
「おれも。おれたちのころはなかったものなあ」
亀田さんもニコニコ言う。
「そうよね」
みちこさんはみどりさんに同意を求める。みどりさんはニコニコしているだけで答えない。みどりさんは、二人より七、八歳若いし、東京の大学を出ているから、ずっと田舎住まいのみちこさんや亀田朝吉さんとは違うみたいだ。
「いつにする」
朝吉さんが言う。
「そうね」
みちこさんが考えている。なんとなく、みんなみちこさんの予定に合わせるくせがある。
「来月の、第2火曜はどう」
みちこさんはカレンダーを見ながら言う。
「そんな。ただの御飯食べなのに、来月まで待つことないよ」
朝吉さんが大げさな声を作る。
「そうよね。でも、藤田さんいいって言うかしら」
ここにいない藤田さんの心配をしている。
「大丈夫だよ。飯食いくらい。独り者なんだし、どうせ夜はテレビ見るくらいでやることないんだろうから」
「そうかしら」
「大丈夫。違っても、みちこさんに誘われたら、都合つけるよ」
「そんなことないわよ」
「あれ、きゅうに自信なくしてる」
朝吉さんがチャカす。
「だって、私、男の人は夫しか知らないもの」
「それが普通。俺らの時代はそんなものだ。男と女は一緒になんか遊ばなかったもの」
朝吉さんの薀蓄ぐせが出る。
「そうね。私女子高だったし」
みちこさんは、少し昔を懐かしむふうに言う。
「みどりさんなんかはいっしょに遊んだほうだろ」
「ふつうよ」
みどりさんはすまして言う。
「ふつうがおれたちと違うんだよな。みどりさんなんかはエレキの時代だろ」
と朝吉さん。
「高校出て、3年めだったかな。どこかの高校の前を通ると、文化祭をやってた。ふらっと入ったら、エレキをやってんだ。カルチャーショックだったなあ。おれたちの文化祭なんていったら、お勉強発表会だったからな。ガンときたね。ああ時代は変わってんだ、としみじみ思ったね。たった三年でまるで天地がひっくり返ってた」
「それまでも、高校のころかな、公園で小学生が、男の子も女の子もいっしょになって遊んでいるのを見て、変わったなあと思っていたけれどね。おれたちのころは、女の子と遊ぼうものなら徹底的に冷やかされたからね。みどりさんなんかはそっちの世代だろ」
「そうね、エレキは普通よ。グループサウンズより、ホークね。みんなギター持ってた」
みどりさんも懐かしむように言う。
「合コンは」
「内緒」
みどりさんはニコニコ顔。いつもみどりさんはニコニコ顔。
「いつがいい」
みちこさんが聞いた。そして合コンの日どりが決まった。
それで、おじさんも終わりかけている三人と、おばさん三人の合コンがどうなったかというと、ビビンバを食べて、少しおしゃべりして、それで終わり。
「私緊張しちゃた」
後日、みどりさんがニコニコ顔で言った。
「それで、スープもおしんこもあるの分からなかったんだ」
「そうなの。私上がり性なの」
「藤田さんがまた呼んでって言ってたわよ」
みちこさんがうれしそうに言った。でも、合コンはもうないだろう