「重力とはなにか」(大栗博司著)への手紙36

  著者 高田敞






(以下{ }内は上記本よりの引用)

問題1

{ビッグバンの「残り火」}

{ガモフをはじめとするビッグバン派は、超高温だった時代の痕跡が現在の宇宙にも残っていると予想しました。}

{それが現在の地球にも降り注いでいる}

 

考察

 これについては、人により考え方が違う気がする。一つは、137億光年先の宇宙を見れば、ビッグバンの光が見えるという考え方である。もうひとつは、宇宙にビッグバンの光が満ちている、という考え方である。同じように見えるが、大きく違う。

(1)137億年前の宇宙を見れば、ビッグバンが見える

 この考え方は結構多く見かける。これは、宇宙の晴れ上がりは、雲の中の飛行機が、雲の外に飛び出て、後ろを振り返ったら、雲が見えた、という説明のような考え方に代表される。後ろを振り返ると、すなわち過去を見ると、という考え方である。それについて考えてみる。

 現在地球に降り注いでいる光は主に太陽の光である。これは、約8分前の太陽から出た光が、約8光分の距離を飛んできて、地球に降り注いでいる。1分前の太陽の光でもないし、1億年前の光でもない。

 太陽は輝き続けているから、いつも8分前の光が存在し、それが地球に届く。もし太陽が消えたら、その8分後からは、太陽の光は地球に届かない。車のライトを消したら暗くなるのと同じ現象である。

 星の光もそうだ。4光年先の星の光は、4年前に星から出た光だ。5年前でもなく、3年前でもない。もちろん、10億年前の光でもない。3年前の光は、まだ地球にやってくる途上だ。5年前の光は地球を通り越して、1光年先を光速で地球から遠ざかっている。10億年前の光は、10億光年先を、光速で飛び去っているだろう。その星が爆発して消えたら、4年後からその星は見えなくなる。

 このことから、ビッグバンの「残り火」が見えるかを考えてみる。

 ビッグバンがあったのは、137億年前である。その光が今届いているということは、ビッグバンがあった地点から、地球はちょうど137億光年離れたところにあるということである。137億光年を137億年かかって、「残り火」は地球にやってきたということになるはずだ。

 ところが、地球は137億年前にはどこにあったかというと、ビッグバン論では、ビッグバンの真っただ中にあったことになる。なぜなら、ビッグバン論では、すべての物質はビッグバンとともに生まれたことになっている、途中では生まれないとされているから、地球もビッグバンとともに生まれ(もちろん今の形ではない)、いろいろな形になり、太陽系ができた46億年前に現在の形になったと考えられる。46億年前に、この場所に突然生まれたということではない。

 このことから考えると、地球は、ビッグバンとともに生まれ、その時出た「残り火」を追い越して(雲から飛び出して)、ここまで飛んできたら、今度はビッグバンの「残り火」に追いつかれ、今その光が地球に降り注いでいる、ということになる。地球は光速を越えて飛ぶ必要がある。相対論ではそれはありえない。

 また、ビッグバンの中に地球もあったのだから、「残り火」になる光を地球も出していたということである。137億年前に地球が出した光を、137億年たった今、地球で見ているということである。これは、60歳の人が、60年前の生まれたての自分の姿を直接見ているということと同じである。そんなことができるわけはない。ところが地球ならそれができるというのである。60年前は見られないが137億年前なら見えるというのである。奇跡である。

 もうひとつは、電球にしろ、星にしろ、消えたらその途端に見えなくなる。5光年先に超新星ができたら、5年後に地球で見え始める。その超新星が、6ケ月で爆発が終わったら、6ヶ月後その超新星は見えなくなる。6ケ月間しか地球からは見えない。爆発の光が地球を通り過ぎてしまうからだ(この現象は観測されているから、事実であるといえる)。

 ビッグバンの爆発が、30万年続いたら、その光は30万年間地球から見え続ける。しかし、その後は、地球からは見えなくなる。光は直進するから、爆発の光のすべてが、地球を通り過ぎるからだ。

 もし見えたとしてもそうなるはずだ。

結論

このことから、137億光年先の宇宙を見ると、{ビッグバンの「残り火」}が見えるという考え方は、間違いであるといえる。

 

 

(2){ビッグバンの「残り火」}が、宇宙に満ちている。

(1)はうまくいかない。原因はビッグバンの光が、火の玉(宇宙)から外に出ていると考えたからだ。

 もうひとつは、飛行機は雲から飛び出さないという考えかただ。

宇宙は火の玉が膨張してその中が宇宙であるという考え方だ。火の玉の外はこの宇宙と関係ない疑似宇宙である。宇宙が生まれた母体だ。キリスト教からいえば、神の住むところである。

 この考えだと、光に満ちた火の玉の内部のわれわれのいる宇宙が大きくなる。すると、光もこの宇宙に満ちたまま広がっていく、というのだろう。宇宙が膨張するにつれ、光は引き延ばされ、今はマイクロ波になっている。そのマイクロ波に満ちた宇宙に地球はいるから、いつも地球にマイクロ波が全天から降り注いでいる。という考え方なのだろう。

 これなら可能性はある。そこでこれを考えてみよう。

 {ビッグバンの「残り火」}は、ビッグバンの30万年後にあったとされる宇宙の晴れ上がりのときから、直進するようになった。その時の宇宙の大きさは、光速で広がっていても半径30万光年である(ハッブル定数で広がっているとしたら、年、数ミクロン以下である)。

 すると、宇宙の晴れ上がりのときの光は光速でまっすぐ進むから、すぐに宇宙の果てに行きついてしまう。宇宙の果てが、光速で広がっていたとすると、光は果てには行きつけない。光速で広がる宇宙の果てを、光速で追いかけることになる。しかし、宇宙の中にある地球(そのころはまだ原子の状態で、今の地球の形ではないが)はのろのろ動いている。地球は今、宇宙背景放射に対して数百km/秒で進んでいる。昔もそんなに速度が変わらなかったとすると、そんな速度ではすぐにすべての{ビッグバンの「残り火」}は地球を通り過ぎてしまうはずだ。なぜなら、宇宙の晴れ間のとき、地球と{ビッグバンの「残り火」}の中で一番離れているのでも、最大60万光年の距離しかないはずなのだから、60万年後にはその光も地球を通り過ぎているはずだ。晴れ上がりのとき近くにある光から順に地球を通り過ぎ、直進していくからもう2度と戻ってこない。一番遠くにあった光が通り過ぎるのは、60万年後だ。その後はもう見えないはずだ。

 ビッグバン後137億年もたっているのに、まだ、全方向から{ビッグバンの「残り火」}がやってくるのは、どうしてだろう。

 

結論

ビッグバン説以前には、宇宙の塵説があった。宇宙の塵は、2、7度のマイクロ波を出しているだろうという説があった。何人かの人が似た説を出していた。この考えでも、宇宙マイクロ波が全天から降り注ぐ。こちらは、ビッグバン説が出てからだれも見向きもしない。もちろん、この説が間違いであると証明されたからではない。

宇宙空間には塵があるのは観測されている。塵は、温度があればマイクロ波を出すのも証明されている。すると、宇宙空間に塵があり、マイクロ波を出しているのは、必然になる。否定しようがない。宇宙背景放射をビッグバンの証拠とするには、この説があっては非常に困ってしまう。科学的に否定できればいいが、科学的に否定することはできない。だから無視しているのではと勘繰りたくなる。

エディントンの観測した星の光は重力ではなく、太陽大気による屈折現象とか、水星の軌道は太陽が楕円球であればいいとかの説が無視されているのと同じである。相対論特有の方法がビッグバン説にも、感染しているようである。