隕石衝突がなければ今も恐竜は繁栄しているか４

 

問題
なぜ、地上の恐竜だけが絶滅したのか。なぜ哺乳類は生き残ったのか。なぜ鳥が生き残ったのか。その答えは隕石衝突では説明できない。

�T　考え方

　ある種が繁栄したということは、その種が、その環境に最も適応したということである。環境に最も適応した種が繁栄するという自然淘汰説を主に考える。

　どの種が生き残るかは偶然による、という偶然説は考慮するが、それには従わない。

�U　恐竜絶滅の原因についての現在の一般的な考え方

　隕石が地球に衝突して、地球上の生物の７０％ほどを絶滅させたことで白亜紀は終わったというのが今最も受け入れられている説である。

　隕石衝突が唯一の原因で、恐竜の鳥以外のすべてが、その後繁殖不可能な数まで死に、哺乳類は繁殖可能な数生き残り、生物がいなくなった空白を埋めるように哺乳類が増殖して今の人につながっているということだ。

　ということは、裏を返せば、もし隕石が衝突しなければ、恐竜が現在も地球を支配し、哺乳類は恐竜の陰で細々と暮らし、人間まで進化しなかった可能性が大いにあるということになる。人間にとっては、隕石衝突は神様の福音のような天変地異だったということだ。

 

１　白亜紀の哺乳類

・　白亜紀初めには、現在の大きな３つの類、北方獣類、アフリカ獣類、貧歯類が生まれた。（このとき、三畳紀、ジュラ紀と非常に低かった大気中の酸素濃度が一時的に高くなっている。その後、酸素濃度はまた下がり、白亜紀半ばまで続く）

・　白亜紀末期に、現在の哺乳類のほぼすべての目が生まれていた。（白亜紀半ばから漸進的に高くなっていった酸素濃度が現在に近くまで高くなっていた）

２白亜紀の恐竜

初期から中期

　大型竜脚類の優位は維持

　鳥盤類が次第に多様化し、個体数を増す。

後期

　新しい鳥盤類が繁栄。竜脚類はごく少数になる。草食の竜盤類は絶滅

３　この間の地球大気

酸素濃度は三畳紀から低下していき、ジュラ紀を通して低酸素状態であったが、白亜紀半ばから酸素濃度は上がり続け（反対に二酸化炭素濃度は下がり続ける）ていく。隕石衝突にもかかわらず、ＫＴ境界でも、酸素濃度推移に顕著な変化はなく、酸素濃度は現在の濃度にまで上昇していく。

考察

ここではダーウィンの進化論の適者生存説を元に考えてみる。ある種が繁栄するということは、その種が、その生存している環境に最も適応した性質を持っているということである、という単純な考え方にそってということである。

１　隕石衝突以前の草食竜盤類恐竜の絶滅

白亜紀中期、隕石衝突以前に、竜盤類の草食性のものは絶滅している。変わって草食の鳥盤類が台頭している。このことから、鳥盤類が台頭することで、草食竜盤類が滅びたと考えられる。肉食竜盤竜が残ったのは、鳥盤類が草食であったために、肉食の竜盤類のニッチを犯さなかったためと考えられる。

これは、環境の変化によって、再適者が、草食竜盤類から草食鳥盤類に代わったためと考えられる。ダーウィンのいう適者生存、自然淘汰の原理であると考えられる。

これは環境の変化があったということだ。最大の環境変化は大気の酸素濃度が増えたことにあるであろう。酸素濃度が低い時に繁栄した竜盤類は気嚢という酸素吸収力の高いシステムで他を圧倒して繁栄していたが、そのシステムが、酸素濃度が高くなることで、環境への適者である要因ではなくなって、他の機能が最適者の要因なってきたことによって、最強の適者ではなくなったということだ。

酸素濃度の低い時代、再適者である酸素吸収能力の高い竜盤類に対抗して、生き残るためには、他の能力を発達させる必要があった。呼吸能力が適者である条件の位置が低くなっていくとともに、他の能力が、敵者の要件として大きくなっていく。それとともに、酸素吸収能力で再適者になっていた竜盤類は適者の位置をすべり落ち、他の能力ですぐれていた、鳥盤類が代わって再適者になり、覇権が交代したと思われる。

２　哺乳類の台頭

白亜紀後期、現在のほぼすべての目の哺乳類が出現した。さまざまな体に進化したことは、さまざまな環境に進出していったということであるから、それまで恐竜が占めていたニッチの多くに、哺乳類が進出していったことを物語っている。これは隕石衝突以前にすでに哺乳類が恐竜に打ち勝ちだしていたことを示している。

　３　原因を考える

ピーター・Ｄ・ウォードは「恐竜はなぜ鳥に進化したのか」で、酸素濃度が生物の繁栄と衰退に大きくかかわっていると述べている。息ができなかったら、生物の大半は死ぬということだ。酸素がなければ地球上で生き残るのは、兼気性細菌くらいだ。酸素濃度が低いと、例えば、エベレストの頂上では、ヒトは、息が苦しくて普通の速度では動けなくて、のろのろ歩いては休み、また数歩歩いては休みしなくてはならない。繁殖行動は不可能だ。それと同じことが、低酸素時代の世界では低海抜の地上で起こっていたという。

　だから、低酸素時代の地上では、酸素を取り入れる能力が、環境への適者の最大の条件になるということだ。

　酸素を取り入れる能力は、生物によって異なるということがわかっている。たとえば、数千メートルの上空を飛行することができる鶴がいる。低酸素でも、平気に飛行できる能力がある。コウモリにはできない芸当だ。

　ピーター・Ｄ・ウォードは、恐竜の中の竜盤類は気嚢という呼吸システムを持ち、酸素を取り入れる能力が高く、哺乳類は、横隔膜を持ってはいても肺呼吸だけだから、恐竜より酸素取り入れ能力が落ちると述べている。恐竜の鳥盤類は、気嚢システムは確認されていないということだ。

　ジュラ紀は低酸素時代で、竜盤類が全盛であった。これは、酸素取り入れ能力が、他の適者生存のすべての条件を圧倒していたためと考えられる。どんなに判断力がたけて、敏捷な体の構造をしていても、酸素不足で動けなくては、のろまであっても、自由に動ける酸素吸収能力の高い動物には負けてしまう。だから、ジュラ紀は、竜盤類が酸素取り入れ能力で他を圧倒していたために繁栄していたことが考えられる。

白亜紀は、ジュラ紀から続く低酸素時代で始まり、徐々に酸素濃度が上がっていく。

　白亜紀が進むと、酸素濃度が増えていった。それに伴い、酸素不足で行動がのろまだった他の鳥盤類や哺乳類の動きが徐々に活発になっていったと考えられる。そのため、おそらく次に呼吸システムが良かったと推測される鳥盤類が、草食竜盤類を絶滅させて、繁栄していった。おそらく、鳥盤類は竜盤類より敏捷性や持久力や、食物を取る能力が高かったのだろう。低酸素時代でも、酸素欠乏になりながらも、生き残っていたのだから、呼吸能力以外の、敏捷性や、行動力は、進化したのだと思われる。あるいは、元々その能力が高かったとも考えられる。

　そのため、酸素量が増えると、行動力が竜盤類を上回り、草食竜盤類のニッチを奪っていったのだろう。それが、白亜紀の半ばで、草食竜盤類が絶滅し、代わって、草食鳥盤類が繁栄した理由であるだろう。肉食竜盤類が白亜紀絶滅まで生き残ったのは、鳥盤類は肉食がいなかったためにニッチが重ならなかったためであろう。

　

　白亜紀の終わり、隕石衝突前になると、哺乳類は現在ある目のほぼすべてが出現する。原因は、酸素量が増えたことにあると考えられる。哺乳類は低酸素による行動の制約から解放され、本来の、活動能力を取り戻したからであろう。高酸素の世界では、恐竜より、生活能力が高かったことが考えられる。これは、ベルム紀、現在と同じくらい高酸素の時代には、恐竜の祖先を抑えて、哺乳類の祖先が繁栄していたことから類推できる。哺乳類の系統は恐竜の系統より、高酸素時代では活動能力が高いのだ。その最大の原因は、脳の体に占める割合が恐竜より哺乳類が高かったことにあると思われる。

　哺乳類の目が増えたのは、恐竜がそれまで占めていた、ニッチにも哺乳類が進出していったためと考えられる。低酸素時代は、恐竜が占めていなかった小さな体が生きていくニッチにしか哺乳類はいなかったといわれている。それが白亜紀末期、現在のほぼすべての目が出現したということは、現在哺乳類が占めているニッチに進出していったということでもある。現在、海中からかなり高所の山の上まで、地球のほとんどの場所を哺乳類が占めていることから、地球上のほぼすべての環境に哺乳類が進出していったということが類推できる。それまでさまざまな環境を支配していた恐竜と覇権を争う力がついたということだ。そして、進出していったということは、勝利を得る能力を持ち恐竜のニッチを侵食していったということがいえる。

　整理してみる。

　ベルム紀

高酸素（低二酸化炭素）

恐竜の祖先と哺乳類の祖先がいたが、哺乳類の祖先が支配していた。

三畳紀

酸素濃度が下がっていく。

恐竜の祖先が台頭し、哺乳類が小型化、種の分化も低くなる。

ジュラ紀

低酸素時代（高二酸化炭素）

竜盤類が支配し、それに鳥盤類が続き、哺乳類は、恐竜がいないニッチで生息している。

白亜紀

酸素濃度が漸増する

竜盤類が衰退していき、鳥盤類が台頭し、やがて、哺乳類も分化して、生息範囲を広げていく。

　

　まとめ

　高酸素の時代は哺乳類あるいは、その祖先系が地球の大半を支配し、低酸素の時代は恐竜が支配していたということがわかる。

　これは、恐竜は哺乳類に比べて酸素吸収能力が高いこと、活動能力は哺乳類が高いことが考えられる。

酸素吸収能力

竜盤類＞鳥盤類＞哺乳類

活動能力

哺乳類＞鳥盤類＞竜盤類

ということになる。

　恐竜は体に占める脳の容積比率が小さく、哺乳類は体に占める脳の容積比率が高いことが、生活能力が恐竜より高かったことの原因であると考えられる。

 

鳥について

鳥が、現在も生き残り、繁栄している原因。

鳥は、恐竜の一つの類である。他の恐竜が滅びたのに、鳥類だけが生き残り繁栄している原因は、隕石衝突では偶然生き残ったという以外の説明はできない。

　ダーウィンの進化論では適者生存という考えである。現在鳥は空を支配している。適者だからである。その理由は、羽と、気嚢システムである。

　羽は、皮膜より飛行能力に優れている。気嚢は骨を中空にしている。中空の骨は、哺乳類の中が詰まった骨より、同じ重さなら、丈夫な骨ができる。軽くて、丈夫な骨で体を支えられることは飛行には有利である。

　気嚢システムは、飛行による、大きな酸素消費には、有利である。

　気嚢は、上空の低酸素にも有利である。

　飛行する哺乳類は、皮膜のコウモリだけである。皮膜と羽、肺だけと気嚢、中が詰まった骨と中空の骨と、コウモリの方が鳥より空中での能力がことごとく劣っていると考えられる。このことから、コウモリは制空権を取れなかったと考えられる。現在コウモリのほとんどが夜行性であるのは、昼間の空では負けてしまうからであろう。夜の世界では、超音波で飛ぶ蝙蝠が有利なのであろう。

　このことで、鳥が現在も生き残っている理由が説明できる。

結論

　以上のことから、隕石衝突がなかったとしても、酸素濃度の高い現在の地球では、哺乳類が、地上で生活している恐竜を追いやって支配層になり、空は鳥が支配する現在の状態になることが説明できる。

　したがって、隕石衝突がなくても、現在の地上世界は哺乳類の支配する世界になっていると考えられる。