第2話「港に振り下ろされるは破壊の鉤爪」
Written by ハティ






 初陣となった企業連からの依頼が終わって、数日が経った。

俺の愛機「ストームブリンガー」の整備と修理(といってもめぼしい破損箇所はなかったのだが)

が終わった事の報告とともに、 レイルさんから依頼がきた旨を伝えられた。

「依頼主はGA社、依頼内容はミミル軍港駐留艦隊の撃破、報酬は歩合制です。」

「他の依頼もないし、受けるとしようか。仲介人とつないでくれ。」

「はい、ではこちらの端末につなぎます」

レイルさんの声と同時に手近な端末にGA社の依頼仲介人の姿が現れる。

「世間話は省かせてもらおうか。早速作戦を説明させてもらう。」

「あぁ、出来る限り詳しく頼むぜ。」

といっても向こうが話せるのはGAからいわれた情報だけだろうがな。

「雇い主はGA、作戦目標はミミル軍港に駐留するインテリオル艦隊だ。

ミッション開始から5分間、好きなように暴れてくれればいい。

 相手に与えた被害の分だけこちらからの報酬も多くなるという事だ。

また、今回のミッションの弾薬費はGAのお偉いさんが持ってくれるそうだ。

それと、これは未確認情報だが、ミミル軍港内でインテリオルの新型AF(アームズ

フォート)が調整されているという話が入っている。 もしこの情報が本当だった場合は、

AFの破壊にボーナスを設定されている。

くれぐれも逃がすなよ? 作戦の内容はこんな所か。悪い話ではないと思うが、受けるか?」

「歩合制か。よし、受けよう。ミッション開始時刻と移動方法を教えてくれ。」

「よし。・・・では指定した時間に輸送機を回す。この際盛大に暴れてくれ。

そちらの戦果が多いほどどちらにとっても利益になるのだからな。では」  

ふぅ、GAも考えるな。初陣を完全な戦果で飾ったとはいえまだ俺の評価を決めかねているのだろう。

それならば無闇に報酬額を設定するよりも歩合制で依頼したほうが得になる。

大方お偉いさん方の考えはこんなものだろう。

GAは保有しているリンクスの数こそ多いものの1人1人の力量はそれほど高くない。

出来る限り多くの独立傭兵を囲い込みたいのだろう。

「じゃあレイルさん。指定された時間まで機体の整備を終わらせようか。」

「分かりました。AMS接続のテストからやりましょうか。」

「AMS接続・・・正常」 「機体状況・・・オールグリーン」

「全工程の終了を確認。全システムオールグリーン、出撃準備完了」

「ジェネレータ機動、各部正常起動を確認。いってらっしゃい。必ず帰ってきて、リンクス。」

さぁ・・・ミッション開始だ。

輸送機から投下された地点の前方に護衛艦が3隻、戦闘艦が1隻、空母が1隻展開している。

距離が遠いな。相手の間合いをかいくぐりこちらの間合いに持ち込んでしまえば

相手は鈍重な艦船、機動性の高いネクストの敵ではなくなる。

護衛艦、戦闘艦からミサイルが発射される。

空母は搭載機を発艦させるだろうか・・・いや、この軍港は切り立った崖の間の

水路を利用して作られている。 操艦とパイロットの技量がよほど高ければ別だが、

恐らく搭載機を飛ばす事は出来まい。なら空母の前に護衛艦と戦闘艦を狙うべきだろう。

いくら対装甲を主眼に作られているネクストの武装とはいえ、マシンガンやショットガンでは

戦闘艦の装甲を真っ向から撃ち抜くことは出来ない。 ならどこを狙うのか。

こういう場合、機動兵器が艦船に対して攻めるべき箇所は3箇所。艦橋、弾薬庫、推進装置の

3箇所だ。 弾薬庫はどんな艦でも1番装甲の厚い場所にあることは間違いない。

また、推進装置を破壊したとしても敵の軍港内だ。すぐに修理されるしなにより戦闘能力を奪えない。

なら俺が狙うべき場所はたった1つ。艦橋を撃ち抜いていくしかない。

決めた後はそれを実行するだけだ。QBでミサイルを回避し、OBを起動する。

爆発的な推進力を得た機体は間合いを1瞬にして詰め、FCSは事前に入力していた通りに

艦橋にロックを合わせる。 護衛艦の1隻にマシンガンを撃ちつつショットガンをお見舞いしてやる。

艦橋のガラスが砕け散り、周辺の装甲に弾痕が刻まれる。

それと同時に今まで射撃していた護衛艦の主砲も沈黙する。

やはり艦橋に機能を集中させる事で1隻あたりの必要人員を大きく削減させているのだろう。

その代償に艦橋が潰されるとほぼ全ての機能がストップのだが。

そんなことを考えながらも機体を動かし続ける。QBで撃ち出される弾丸を回避し、

的確な射撃で艦橋を潰す。 戦闘艦が護衛艦以上の砲撃力、防御力を持っていても当たらない

うちに艦橋を潰されてしまえば変わらない。 最後に空母を沈めてちらりと時計を見る。

着水から今までの所要時間、約30秒。残り時間約4分30秒。

奥に進む。とその前に、レーダーが2機のノーマルの接近を捉えた。

インテリオル製ノーマル。GA製の物と違い、装甲は貧弱なもののレーザーライフルを装備、

ネクストに対してはバズーカよりもレーザーのほうが脅威は上だ。

まぁ、どんぐりの背比べな感は否めないが。 今までノーマルで場数を踏んできたとはいえ、

前回はネクストでの初陣とあって平静を保ちきってはいなかったが、今回は大丈夫だ。

ノーマルがこちらを補足しきる前に行動を開始、ブーストとQBを駆使して相手にロックさせない

まま接近、マシンガンを叩き込む。 GA製ノーマルより装甲が薄いため、マシンガンだけでも

撃ち抜ける。1機をマシンガンで蜂の巣に、もう1機はすれ違いざまにショットガンで打ち砕いた。

この先は第1港湾地区になっていて、全部で十隻程度の護衛艦、戦闘艦、空母、輸送船が

ドックに入っている。 こちらに近い2〜3隻の護衛艦と戦闘艦以外はまだ戦闘準備が整って

いないようで、散々撃ってくるのはその数隻のみで他の艦は沈黙している。

これは好機だ。

恐らく第2港湾地区に到達するころには相手も完全に反撃の準備を整えているはずだ。

ここでこちらの損害を抑えておかないと後がつらくなる。

手近な護衛艦1隻に狙いをつけ、引き金を引く。

マシンガンの弾丸が艦橋に吸い込まれ火に包まれる。

続けて隣の輸送艦に向かって射撃する。輸送艦程度の装甲ならばマシンガンでも貫ける。

中には弾薬などが満載されていたのだろう、輸送艦は周囲の艦艇を巻き込みながら爆発、

轟沈していく。  わずかに数十秒たらず、それで第1港湾区に駐留していた艦隊は戦闘継続能力を失った。

こちらも無傷ではなく数発の被弾を許した。ただしどれも装甲まで貫く事は出来ず、致命傷にはなりえない。


「第1港湾区まで無力化、引き続き第2港湾区に侵攻する。」

「了解、作戦時間1分経過、残り時間4分です。慌てずにミッションを遂行してください。」

第1港湾区から第2港湾区のあいだには潜水艦ドックが2つ、GAからの情報ではそこに

計8隻の潜水艦が係留されているはずだ。

起動しておいたミサイルがロックを開始、まずは1つ目のドックにはいっている4隻に狙いを定める。

ミサイルロック、発射。白煙が尾を引きつつ身動きの取れない4隻に迫る。

3発命中、1発は岩壁に激突して命中せず。 命中弾を浴びた3隻は撃沈、

のこった1隻にもマシンガンとショットガンをお見舞いしてやる。

2つ目のドックもミサイルで片付ける。残るは第2港湾区のみ、こちらの損害は軽微。

AP(ACの耐久力を数値化したもの。こちらの損害の一応の目安になる)もほとんど減っていない。

やはり通常兵器やノーマル程度ではいくら束になってもネクストに勝つことは出来ない。

俺がいた部隊がやBFFの第8艦隊とクイーンズランスいい例だ。

この先は第2港湾区。既に敵は反撃の準備を整え終わっているだろう。

流石に無傷とはいかないだろうが、やられることはないだろう。

「さぁ、いくか。」 独り言をつぶやきながら移動を開始。角を曲がったところで砲弾が飛んでくる。

予想はしていたものの、ここでは回避行動も満足に行えない。

被弾を恐れずにOBを起動、一気に距離を詰める。 PAを貫き数発の弾丸が装甲に食い込む。

コックピットまで揺さぶられるがこちらのミサイルもロックを完了、発射する。

やはり全発命中とはいかず、ほとんどが叩き落される。

しかし1発は防御放火をかいくぐり艦橋に突き刺さる。 炎が噴出し恐らく内部に火が回ったせいだろう。

護衛艦がゆっくりと沈み始める。  しかしここまで敵が多いと悠長に艦橋を狙う暇はないな。

1隻に必要な弾数は増えるが、装甲だろうと艦橋だろうと当たるを幸いと撃ちまくるしかない。

4〜5隻が密集している地点に飛び込み、腕を水平に伸ばしてSBを吹かして180度回転

しながら撃ちまくる。 同士討ちを恐れるとはいっても相手もこちらをめがけて撃ってくる。

数発がPAを貫き装甲に食い込むが、装甲を貫いて致命的なダメージを与えるものや駆動部を

貫き致命傷となるような損害はなし。 回転運動が終わった時には1隻を除いて全隻が沈黙、

残りの1隻にもショットガンを叩きこむ。 残りAPは3万程度。

駆動系を損傷したりしたら一巻の終わりだが、一応こんなものでも目安程度にはなる。

まだ大丈夫だ。 とはいえ第2港湾区の敵はかなり多く、こうしている間にもひっきりなしに

弾丸が飛んでくる。 QBを小刻みに吹かしつつ接近してきたノーマルに向かう。


撃つ、撃つ、避ける、撃つ 避ける、避ける・・・・


「作戦時間2分経過、残り3分です。」

ノーマルを沈黙させるのに前後してレイルさんから2分経過した事が報告される。

残りは潜水艦含め十数隻程度にノーマルとMTが数機。

奥の巨大ドックに見えるのは・・・あれはAFか?

「レイルさん、あの奥に見えているのはAFか?」

「待ってください、今照合しています。」

会話しながらも1瞬たりとも機体を止めることはない。

銃弾を交わしつつミサイルを撃ち放つ。

「結果、でました。恐らくあれはインテリオルユニオン製水上型AFスティグロです。」

あの未確認情報は正しかったという事か。

「なら逃す理由もないな。レイルさん、残り時間は?」

「残り約2分50秒です。」

「少し急ぐとしようか。」

多少被弾は増えてもGAが提示したボーナスが入ればそれも黒字に化けるだろう。

今までの回避優先の戦い方を止め、距離を詰め攻撃する事を優先する。

40〜50秒足らずで周辺の艦船とノーマルを掃討する。

当然それだけ被弾も増えたが駆動部に当たる弾は避けているし、PAにはじかれるものも

多いためまだ余裕はある。 といってもPAはかなり減衰してしまっているために過信する事は出来ないが。

ENが完全に回復するまで待って奥に進む。

「残り時間2分を切りました。そろそろ仕上げと行きましょう。」

「そうしたいものだが、まだお宝は残ってるよ。」

MTが数機いるがマシンガンで撃ち抜き鉄屑に変え、スティグロの全景を視界に入れる。

やはりでかい。ネクストの十倍はあろうかと思える全長だ。

どことなく昔アニメで見た兵器を髣髴とさせるデザインだ。

スティグロの近くに輸送船が3隻、恐らくスティグロの燃料と弾薬の搬入作業中だったのだろう。

1隻をマシンガンとショットガンで破壊すると誘爆がスティグロにまで及び、

左舷フロートが破損、スティグロの全体が傾き始める。

これくらいでは足りないか、かといってショットガンやマシンガンでは完全破壊は出来ない。

できることは艦橋を破壊した後に左舷フロートを破壊して沈めるくらいか。

軍港内なので当然水深は浅い、すぐに引き上げられるだろうがGAに報告するときには破壊したと

言っても信じてくれるだろう。 マシンガンとショットガンをしこたま撃ち込んで艦橋周辺を念入りに

破壊しておく。数発残ったショットガンの残弾をスティグロのエンジンに撃ち込んでパージする。

艦橋周辺はこれで破壊できただろう。あとは左舷フロートだが・・・やはり手持ちの火器で破壊するには

弾薬がかかりすぎるな。 奥に数隻艦艇が残っているのでここで弾を打ち切るわけには行かない。

やはりこれを使うしかないか。 AAシステムを起動。

1回使うとPAの再展開まで時間がかかるが仕方がない。機体の周囲を光が包み込む。

光が消えたとき、スティグロは左舷のフロートを失いゆっくりと傾き、沈み始めていた。

残りは10隻足らずの艦艇のみ、ちゃちゃっと終わらせてしまおうか

「作戦時間残り1分。そろそろ仕上げにかかりましょう。」

「了解、増援が来られると厄介だからな。」

左手にはコアの格納スペースに入れていたハンドガン<GAEN01-SL-WH>が握られている。

PAがないためOBを吹かす事が出来ず、防御力も低下しているため迫り来る砲弾をQBで

避けつつじりじりと距離を詰める。 牽制の為ミサイルを発射、案の定4発全て迎撃されるが

こちらへの攻勢の手が緩む。その1瞬を突いてQBで加速、懐に入り込む。

ハンドガンとマシンガンが織り成す死への協奏曲の前でミミル軍港駐留艦隊の最後の1隻が

海の藻屑と化すまでさほど時間はかからなかった。

残りAPは2万を少し切った程度、駆動系への致命的なダメージもなしか。

修理費もそんなにかからずに済みそうだ。

「5分経過。ミッション完了です。指定のポイント移動してください。」

「はいよ。今回は流石に疲れた。弾薬費がお偉いさんもちなことが唯一の救いだ、

もしこれが自分持ちだったら大赤字だろうな。」

「そうですね。あ、でもパージしたショットガンは買いなおさないといけませんよ。」

「あぁ、そうか・・・まぁそれくらいならたいしたことないさ。」

海水に完全に漬かってしまってるしまさかインテリオルに直接言う訳にもいかないからな。

ここで俺は完全に失念していた。

GAはAF破壊にボーナスを出すとは言った。しかしどれだけと明確な数字は出していなかった。

結果・・・ 「・・・・AF破壊したのにたったの1万Cだとおおおおおおおおおおお!!!」

ネクスト1機が納まっているとはいえスペース的にはまだまだ余裕のある格納庫に

俺の絶叫が響き渡る事になる。

いくら調整中とはいえAF1機を撃破したのだからせめて5万Cぐらいは上乗せされてしかるべき

だと思っていたのに・・・

「ん、追記?AF1機撃破といっても、艦橋と左舷フロートを破壊して沈めただけに過ぎず、

完全破壊には程遠いだと・・・畜生、GAの狸どもめ!」

俺の考えはお見通しというわけか。まぁ駐留していた全ての敵艦隊を撃破したのだから

素の報酬だけで結構な額になっている。そこまでせしめなくてもいいか。

それになんだかんだでGAはパージしたショットガンの代金まで肩代わりしてくれたからな

(聞いてみた所レイルさんがかなり強引に妥協させたらしい。特別報酬の減額はそのせいか)

充分と考えるべきか。

今回のミッションで俺の実力は全ての企業の知る所となるはずだ。

少なくとも依頼がまったく来ないで食い扶持すら満足に稼げないなんてことにはならないだろう。





あとがき やっと第2話を書き上げる事が出来ました。1話のときと主人公の性格が結構違ってますが、

こっちが素です。 前回は文中にもあったようにネクストでの初陣とあって精神が通常状態ではなかったと

ご理解下さい。 一応誤字脱字は自分でチェックしましたが、まだあるかもしれません。

見つけたらHP柿の木さんのBBSにでも書いてください。 こうしたら〜などのアドバイスはいつでも

待ってますので気軽にお書き下さい。 それと主人公の名前ですが、

出したほうがいいですか?出したほうがいいなら案は一応考えていますが。




    

投稿小説 〜新しき羽の初陣〜

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