この作品をお読みになられるお客様へ。

  この作品をお読みになられる前に、月詠氏の『戴冠式』をお読みになられると、より一層美味しくご賞味頂けます。

  その際、作品に対するストライクゾーンを広めに採って、感受性を開けてからお読み頂けますようお願い申し上げます。

  尚、ご賞味の際には『食器』『調理器具』等のご使用はご遠慮頂けますようお願い申し上げます。










『思う存分喧嘩をしよう。そしてその後は必ずしっかり抱きあって、いっぱいキスをしよう』

side-S










Written by “Lost-Way"















  けんかしてきたようだね。

  よかったじゃないか。

  いや、怒らないでほしいな。

  今ちゃんと説明するから。

  わざとすることはないけど、けんかはした方がいいんだ。

  つきあっていると、やっぱりどうしてもけんかは避けられない。

  もう帰りたくないって?

  早まっちゃいけないし、そんなに逃げてどうなるものでもないだろう。

  けんかするたびに別れてたんじゃ、君はいつまでたっても同じ人と向かい合っていくことは出来ないよ。

  傍から見て仲の良さそうなカップルだって、みんなけんかぐらいしているんだからね。

  他の人が知らないだけでね。

  君たちのようにけんかするたびにこの店に逃げ込んで来ると、みんなが知るところになるけどね。

  私だって年中けんかしてるよ。

  けんかするときに、一番大切なことを教えてあげよう。

  たとえば、これから何かしようとしているときに、それこそ物のはずみで、今まで我慢していたものがポンと出てしまって、けんかになることがある。

  けんか、って、大体がはずみだからね。

  君もそういったパターンかい?

  バーッと口論になる。

  いや、君たちの場合は違うか。

  彼女の一方的な断罪で終わる、って?

  まあ、それも問題があるけどね。

  じゃあ、何かしようとしていた話しはどうなるか、ってことを考えよう。

  君はどうした?

  ここにいることから考えると、『何かしようとしたこと』を、けんかしてしまったことで取りやめにしてしまってこの店に逃げ込んで来た、ってことだろう。

  図星だね?

  まあ、普通はそういうものだよ。

  例えばデートの前にけんかしてしまった時なんかは、「何か気分悪くなっちゃったな、やめとこうか」って気分になってくるもんだ。

  でも、ここが肝心なんだ。

  けんかした後は、必ずちゃんと直接会わなきゃ。

  デートのキャンセルをしちゃいけない。

  待ちぼうけになっても、ちゃんと会わなきゃダメなんだよ。

  一緒に何かしようとしていたら、それをちゃんと実行する。

  つきあっていてさ、つきあい始めて、しばらくたって、お互いに気心も知れた頃。

  相手にも、自分にも、お互いに凄く不満があっても、相手の事が好きだからこそ、しばらくは我慢している。

  それが積もり積もってきて、もうどうしようも我慢出来なくなって、吐き出す瞬間がある。

  吐き出したり、吐き出されたりすると、「もうダメだ。嫌われてしまった」って思ってしまう。

  そう思って、諦めてはいけない、ってことなんだよ。

  「こんなにバンバン言われちゃったから、もうダメだ」って思ってしまうと、これから会おうか、これから何かしようか、っていう話をしていても、「こんな気分で会いたくない」「こんな気分でやりたくない」ってなってしまいがちだけど、これは逆なんだよ。

  けんかした後こそ、会わなければダメなんだよ。

  バンバン言われたことを、自分の内側に籠もらせて根に持っちゃダメなんだよ。

  相手は全部吐き出してくれた、ってことなんだから。

  けんかのときにね、不安になるのはどっちだと思う?

  文句を言った方?

  文句を言われた方?

  文句を言われた方じゃないんだよ、つらいのはね。

  文句を言われた方以上に、文句を言った方がすごい不安になるんだ。

  相手の事が好きで、別れたくないから文句を言っているわけで、バンバン言ってしまって、もしそれで相手に嫌われたらどうしよう、って、すごい不安になってしまっているんだよ。

  だからこそ、その後は絶対に直接会って、あるいはちゃんと予定を実行して、お互いに安心し合わなくちゃいけない。

「ゴメンね。そういうのを長くためさせていたんだな」って思って、「全部吐き出しちゃえよ」って、とにかくクレームをバンバン受け付けちゃう。

  自分で気が付かなかったこともあるし、悪かったことは全部直していけばいいんだし。

  感情的に非難してくるだけなら、激情はいっときのものだから、受け流してあげればいい。

  今日言われる側だったのが、明日には言う側になるかもしれないんだし。

  それは必ず入れ替わるものなんだよ。

  難しい、って?    でも、ちゃんと入れ替わっちゃうものなんだよ不思議とね。

  長い間つきあっていると、不思議と言っていることが逆転してくる。

  最初、自分で言っていたことを、相手が言うようになってくる。

  その逆もまたしかりさ。相手が言っていたことを、君が言うようになる。

  それは、それだけ二人が深く付き合って、融合したって事だよ。

  つきあっていくと、二人の細胞が、融合して、それから分離するんだ。

  分離する、そのときにお互いが持っているものが入れ換わる。

  性格的なものも、ものの考え方も、どんどん入れ換わっていく。

  よく「価値観が一緒の人がいい」っていう言い方するけど、そんなことはどうでもいいことなんだよ。

  ライフスタイルにしても同じさ。

  今までどういう暮らしをしてきたか、なんて言うのも、無意味なんだよ。

  相手の事が好きであれば、価値観なんかが一致しなくても、やがて融合して分離するときに入れ換わってしまうんだよ。

  たとえば、けんかしたときにでも、「それは俺が前に言ってたことじゃないか」って自分で解ってしまうから、突っ込まれて来ることが余計に防げなくてつらいんだよ。

  相手も「あなたが言ってたのよ」って責めるんじゃなくて、自分で本気でそう思って言っているんだよ。

  逆もまた同じだよ。

  君の場合は特に、君が一方的に言われることが多いだろうからね。

  だからといって、いちいち言質をとろうとしちゃいけない。

  自然に入れ換わってしまうんだよ。

  彼女だってつらいんだ。

  言っている今よりも、今まで我慢して言わなかった間の方がつらかったろうな、って思ってあげることだね。

  ずっと我慢している間もつらいけど、言ってしまった後はもっとつらいよ。

  言わなかった方がよかったのかな、って、とても不安に思うんだよ。

  今からでも遅くない。

  ちゃんと会っておいで。










後書きのようなもの

  相手の言葉を受け入れられるのは感受性が広く開けているから。

  自分の考えに凝り固まってしまうのは感受性が狭く閉ざされているから。

  ビートルズの歌は英語だから格好良く聞こえるけど、訳して読めば当たり前の言葉でしかありません。

  すべての作品には、メッセージがあります。

  それはどんな作品に対しても同じ。

  一行もあれば言い切れる。

  言葉にしたら、それこそ、なんでもないフレーズ。

  そこには、なんの奇をてらったものでもない。

  大上段に構えたことじゃない。

  つらい時、なんでもない当たり前の言葉こそが、自分の気持ちの中にズシンと染み込んできます。

  「そんなのわかってる。当たり前だろう」と拒絶していませんか?

  あなたの感受性は開かれていますか?

  当たり前すぎて放ったらかしにしている大切なものを、もう一度見直してみませんか?

  すべての作品には、メッセージがあります。

  どんな作品であっても。

  あなたの考えにあわない作品であっても。

  それはとてもシンプルなメッセージ。

  それを、捜し当てること。

  それを、受け止められること。

  それが、感受性。

  感受性を閉ざさないで。




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