「なに一度君と話しがしたかっただけだよ」
「だったらこんな手の込んだご招待は御免被りたいな」
相手のペースに乗らないであくまで自分のペースで話す。
しかし、ルイと名乗ったこいつはそれでも、にやりと笑い。
「こうでもしなければ君とは2人で話せないだろう?
君が一人になることは滅多にないからね」
いい加減芝居に付き合ってられ無くなってきた。
さっさと本題に入ろうぜ。
「そう、か。まあ、いいだろう。
では、先程の答えを頂こう。君は何と答えるのかね」
暫く考えてから話し出す。
「俺、は例え、それが楽かもしれないが、
人である以上そんな獣にはなりたくはない。
確かに今の俺達は色々なしがらみ、
具体的に言えば法律、常識に縛られている。
けど、それらが無ければこの世界は成立しない。
ある程度の制限があるから
この世は微妙なバランスの上で成り立っていると思う」
ルイは俺の話を黙って聞いている。
もっと途中で腰を折って来るかと思ってたけど。
「君は確かあの小さな少女の問いに
「その答えを探す為に生きている」と答えたね。
では、その答えは見つかったかね?」
「その答えこそが人間の生きる意味だと俺は思うが?
絶対に生きている間にはその答えが出るわけない。
答えを探す旅こそが人生だと言える」
「これは又中々手厳しいね。
でもそれでは私の問いの答えにはなっていないね」
俺は頭をガシガシと掻く。
それを言われては、答えなんか無いんだし。
十人いれば十人違った答えが出るだろうし。
「人は人であって獣とは違うんだ。
本能のままには生きていけない」
「君は制限が無ければ人間は駄目と言ったが、
混沌の中にも秩序を求める自由がある。
なぜそこまで秩序にこだわるのかね。
この世全てが混沌になれば、万事解決だ」
「それは弱肉強食だよな。
そこで生きて行けない者は如何なる」
これにルイはいとも簡単に答えた。
「言葉の如く。糧となる」
・・・・・・決まったな。
「なら、俺は絶対に混沌等許さない。
何と言われようが、弱者をあっさりと捨てる世界なんざ俺がぶち壊す。
さっきから秩序だ混沌だといっていたが、答えは簡単だ。俺は」
ここで一度言葉を切る。
「お前が大嫌いだ」
そして、背後に俺のペルソナが浮かび上がっていく。
「俺の言いたいことは全部言った。
何と言われようが、この生き方を変えようとは思わないし、
そんな世なら真っ平御免だ。
文句があるなら聞くぜ」
「フム。それが君の答えか。少々残念だよ。
君なら私の言うことが分かってくれると思っていたが。
だが、それも仕方ないか。君の言うとおり人間の思考は千差万別だ。
君はそう答えを出したが、別の人間は又違った答えが出たかもしれないしな」
「では」
ルイはそう言うと、目を細めた。
「君には死んでいただこう。私と袂を違えたのだから、容赦はしない」
途端。物凄い力が、ルイから溢れ出す。
奴は何もしていないのに、それだけで、地面に伏しそうになる。
ペルソナでも防ぎきれない。
「君の言うことも分かるが、君にそれだけの力があるのかね。
弱者を助けるだけの力が。
今の君では力無き者の戯言にしか聞こえんよ」
「だったら見せてやるぜ」
これは意志の違いだ。俺が弱いから負けているだけ。
なら、確固たる意志を持てばいい。
奴の力に負けず、意志を強く持ち立ち上がる。
逆に俺が睨み返す。
ホウ、と奴が呟くのが聞こえた。
「流石だ。やはり彼が見込んだだけある。不本意だがここは引かして頂こう」
突然奴が力を緩める。
「君の言いたい事も分かる。だが、私の言うことも考えて欲しい。
そう言う考え方もあるとね」
ルイが手を差し伸べてくる。思わず躊躇したら、苦笑いされてしまった。
「君と話しが出来て良かったよ。中々に有意義だった」
「俺はしんどかった。こんなに頭使った事なんか無い。
ガッコのテストだってもっと楽だぜ」
ハハハハとルイが笑う。
「ではさらばだ」
一言呟くと姿がかき消される様に消えていく。
唐突に出て来て、唐突に居なくなる。結局何だったんだあいつは。
分かっている。誰かって事くらいは。
「で?俺はここからどうしろって?」
周りをぐるりと見る。
そこは、あのダンジョンでなく、その入り口だった。
更に横には仲間が居たりする。
取り敢えず、声をかける。皆、元気そうだ。
無事だったらしい。
皆俺を質問の集中砲火にするが、
それに答えず、先に進もうと促す。
口々に文句を言いながらもダラダラと列が出来、進み出す。
そんな中さっきの事をもう一度考える。
確かにそんな考えもあるよな。
けど、俺はその選択は出来ない。
重い足を引き摺りながら仲間の後を俺は追う。
空はそんな俺の心を映しているかの様に深い霧が掛かっていた。