ここは暗黒の世界だった。

前方は全てを飲みこむ闇。


後は崩れた壁。
俺の落ちてきた穴は遥か上空の小さな点にしか見えない。

絶望的に笑ってしまう状態の中に俺は突き落とされた。

さて。取り敢えず立つか。

思っていたよりも呆気なく立つ。

かなり上空から落ちた割には、体には傷は無かった。

打ち身や何処かを挫いたと言うのも無かった。

人の体って意外と丈夫だな、何て思う。

「あいつ等は無事かな。」
一緒にいた仲間のことを考える。

ここに来る途中ではぐれてしまった、俺の仲間。

間抜けにも俺一人が落とし穴にハマリ、今に至る,と言う訳だ。

まあ、俺一人居ないくらいで簡単にくたばりはしないだろうけど。

問題はここが初めて入ったダンジョンで、
今ここが何階か分からず、俺一人しか居ないと言うことだろうか。

幾ら俺がペルソナ使いであっても、無理な事は無理。

選択としては、
この壁を登る、助けを待つ、出口を探す。が、妥当か。

ま、いいや。歩こう。
三番の選択を選んで、歩き出す。

歩きながら今までの事を考える。

俺達はやっとの思いで神取を倒し、マキの世界へと帰って来た。

そこでふと見付けた、ここに入ろうと言い出したのはあの猿だった。

けど俺達も軽い気持ちでそれに賛成した。

まずそれが失敗だった。

見た目に反してかなり深く、しかも敵がかなり強い。

それでも前進しこの様。
流石に疲れた所にこのトラップは効いた。

これで精神が根こそぎ刈られた。
暫くやる気にならず、そこに座っていたし

眼前は相変わらず黒い闇。
途中曲がり角も何も無く、
只管長い一本道。

ここってこんなに長かったけ。


しかし本当に色々遭ったな。

ペルソナ様から始まった、この物語。

夢じゃないかと何度も思ったし、
夢であってくれと何度も願った。

けど、実際に体に食らう痛みは本物だし、
喜怒哀楽も偽り無い俺の心だった

何て考えを余所にいきなり敵はやってくる。

五人で何とかなったが、一人は厳しいな。
が、この道では振り切れないし。

因みに交渉は散々やったが、何しても赤くなるばかりで全然ダメだった。

仕方ない。全力で行くぜ。

ペルソナを召喚し、俺も斬りかかる。
そんなこんなで、結局五連戦してしまった。

いい加減しんどいぞ。
気付けば、やっとダンジョンらしい造りになっている。

壁も土でなく、レンガ?石か。
地下神殿?そんな感じの場所だ。

徐々に進むに従って、ペルソナの共鳴に近いものを感じる。
しかしこの感じ仲間じゃないな、かといって、敵のペルソナ使いでもない。

それに神取以外敵のペルソナ使いは居ない筈。
やがて目の前に巨大な扉が見えて来る。
この中から共鳴がする。

いる。誰かが、敵でも味方でもない灰色の人物が。
意を決して扉に手をかける。

その扉に相応しく重々しく軋みを上げながら両開きの扉が開いていく。
中はちょっとした部屋になっていた。
奥に玉座が見える。

相手はその前に立っていた。
こんな場所には不似合いなダークブルーのスーツを来た金髪の人物。
にこやかに笑みを浮かべて両手を広げている。

「ようこそ、私の城へ。お待ちしていたよ」
良く通る声で男が話しかけてくる。
城?城だと。こんな地中奥深くにか。

それに俺を待っていたと言ったな。
「そう構えないでくれたまえ。害を与えるつもりは無いのだよ。
だからって、そのまま鵜呑みにできっかよ。

「俺の仲間はどうした?」

「安心したまえ。無事だよ。だが、ここに来られるのは常に一人なのでね。
その為に君には逸れてもらったのだよ。」

決まっていたと言うのか?
あのトラップは偶然じゃなく俺を呼ぶ為の必然だったと。

そう言っているのか?・・・・待てよ、じゃあのトラップを即座に使用したと。

だがここにはそんな高度な機材は見当たらない。それともこいつも・・・
そうか、こいつから受けた感じ。やはり。

「勘違いしないでくれたまえ。
私はペルソナ使いではない。かといって魔法使いでもないがね」
そう言って笑う。

分からねえ。敵か、味方か。
やはり灰色だ。

「さて、それでは招いたのだから持て成さないとな」
男が俺の方に歩いてくる。

心臓が早くなる。口の中がカラカラに乾く。
この男・・・・強い!!
「・・・・君は自分を律して生きている。自分を犠牲にしても、
それで他人が幸せならそれでいい。

自分の幸せをより他人の幸せを優先する。
自己を隠し本音を押し留めて、建前とやらで生きていく。
君はそれでいいのかね?

何時までも自分を押し殺してこれからも生きていくのかね。」

「何が言いたい」
いきなり何言いやがる、こいつ。

普通はそう生きているだろうが。極稀にそうでない、
自分に正直な奴もいるが、俺がそうだとは言わない。

「フム、それは何故かね。
自分のしたいことをすれば良かろう。

それが出来ないから人はストレスを感じ、
憂さを晴らす為に自暴自棄になりやがて破滅していく。
ならば最初から己のままに生きればいい。」

「それじゃ獣だろうがよ。
食いたい時に食い、寝たい時に寝、抱きたい時に抱く。

・・・・・待てよ。さっきからお前、・・・・人の心を?」

読んでいるな。
的確に俺の返答に答えてやがるし。
・・・・まず、落ち着け。・・・・心を

「閉ざしたね。フム。やはり私が見込んだだけはある。なかなかだ」

むかつく。知っててやってやがったのか。

「まず、招待したのなら名前くらい名乗れ。
それが礼儀だろう」

「オッとこれは失礼。すっかり失念していたよ」
そう思えば全てが芝居だと分かる。この男の心が見えてくる。

・・・私の名はルイ・サイファー。
色々と失礼をしたが、許してくれたまえ」

閉ざしたな。
さっきまで見えていた心がまったく見えなくなった。

「それで?何のようがあってご招待されたんだ?」


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