リストマーク

インラインスケートの粋スラローム 

無法子の言いたい放題のインライン論

 一口「インライン・スケート」といっても、けっして簡単にイメージできるものではない。使用する道具も、やり方もさまざまだからである。今日ではおおよそ、アグレッシブ系、ホッケー系、ダンス系、スラローム系、スピード・レース系に分けられよう。個人によって好みはそれぞれ違うと思うが、僕の理屈でいうと、インラインスケートらしい特徴がもつのは、スラロームとアグレッシブだけである。なぜそうなのか、以下の説明を聞こう。

 ダンス系の滑りは、文字通り、ダンスのように踊ることである。もともとフィギュアスケートをイメージして始まったと言われるが、技の方が一昔に流行っていたローラースケートと共有する部分が多い。ただ、野外性、大衆性の特徴があるインラインスケートの場合、専用リンク、ステージではなく、普通の路面で踊るのだから、演技のムードがつくりにくい。アイススケートに比べ、靴自体が重い上、エッジングができないというインラインの弱点に制限され、技、演技の表現力はフィギユアスケートより遙かに低い。頭の上に、歴史が長く、レベルの高い、上品で愛好層の厚いフィギュアスケートが乗っかっているのだから、いくら頑張っても、フィギュア亜流の境地から抜け出せない。ローラースケートが一時流行した後廃れた理由も、ここにあるのだろう。

 スピード系は最終的にロードレースを目指すものであり、そのようなレースはいまの欧米ではかなり流行していると聞く。道路を通行止めにして大勢のスケーターがなだれ込む。日本では想像できない偉観である。しかし、インラインの「市民権」さえ確立していない日本では、段差の多い狭い歩道での走行には、快さが欠き、道路に出ると取り締まられるだけではなく、実に危険極まりない行為である。インラインスケートのブレーキは物理的に非常に掛けにくく、自転車、オートバイのように機敏に操作できない。軽装備のまま、もしも数十キロの速さで転倒したら、自動車事故に巻き込まれなくとも、アスファルトの地面に叩きつけられ、大けがをするだろう。危険さ、インラインの操作性、路面条件不備の意味で、僕は今流行っている「シティラン」に反対し、絶対公園から出ないように初心者に進言したい。

 ホッケーの場合も、ダンス系と同じように、アイスホッケーの亜流から逃れられない運命である。世界一流のスケーターたちによる高レベルの試合なら、かっこいいと思うが、残念ながらフルサイズのホッケーリンクも日本中ほとんどない。今のインラインホッケーのレベルは、アイスホッケーに比べられないほど、至って低い。木製のスティックでアスファルトの路面を擦る雑音は人に不快感を与えるだけではなく、もともと冬のスポーツを暑い季節に持ってきたのだから、炎天下で厚い防具をつけるつらさ、汗の臭いも、言わなくても想像できるだろう。今のインラインホッケーは、観戦できる試合の水準には程遠く、出場に恵まれない落ちこぼれのアイススケーターか、或いはそのマニアたちの自己陶酔の場であると言っていいだろう。やりたくても、相手や、場所がなければ気軽に始まらない弱点もある。最近、ホッケーリンクにスティックで支えないとろくに立っていられない初心者の姿もよく見かけるが、まことにかわいそうで格好が悪い。せめて前進、後退、回転、ストップなどの基本技をマスターしてから、リンクに立ってもらいたい。

 アグレッシブとは、専用の設備を利用して、ジャンプしたり、エアーパフォーマンスをしたりするようなスポーツで、これは決してスキーの亜流ではなく、それ以上の高レベルな演技が期待できる。インラインのオリジナリティを遺憾なくアピール出来る種目だが、残念なことは、骨、筋肉と石、鉄などとのぶつけあいだから危険が伴う。適性の要素が極めて大きく、練習すれば誰でも上達する種目ではない。不適と判断したら、さっさとやめないと、一生後悔する大けがするかもしれない。また、場所にも制限され、レール、ハーフパイプのような道具がなければ出来ない。今の日本では、アグレッシブの場所が限られているのは事実であり、階段、手すりなど公共の施設を道具にして滑る若者が嫌われても、致仕方がない。この種目は、怪我をしやすいので、若者以外の層におすすめできない。最近、初心者がアグレッシブの専用の靴を履き、滑りの基本を練習をする姿をよく見かけるが、あまりお奨めできない。もし、これからアグレッシブをしないつもりなら、フィットネスの靴に変えた方がよいだろう。

 いろいろ文句を言ってきたが、最後にはスラロームはなぜインラインの粋であるかの理由を述べる。スラロームとはパイロンを並べ、その間をくぐり抜けるスポーツである。もともとスキーのオフトレで始められたと言われる。スキーに似ているが、スキーのように横ずれはなく、小回りが利き、スキーの出来ない回転系の技(所謂トリックスラローム)も出来、独自なスタイルを形成している。インラインならではのオリジナリティはこのような滑りから遺憾なく得られる。またロードレスより安全で、駐車場、公園内の道路、広場など、数十メートルのスペースがあればやれる便利さもある。スピード、かっこのよさに加え、テクニックの面では、前進、後退、クロス、回転、ジャンプなど、あらゆる滑りの基本が要求される。トリックスラローマーには、アグレッシブ、ホッケー、ロードよりもずっと高度な、全面的なテクニックが必要なわけである。

 結論は簡単だが、スラロームこそ、インラインの特徴を発揮出来、また男女を問わず、如何なる年齢層も楽しめる、唯一のインラインの種目である。
まだ決めかねる君は、先ず滑りから、基本から、スラロームから始めようではないか。

 

ESSAYS OF INLINE
HOME
HOME
HWO TO
LINKS