医局制度・アゲイン

 参考リンク:『半熟ドクター・更新記録』(9月25・27・28日)

       『ちりんの部屋・最北医学生の日常』(9月27日)

       『えむじょSTATION・診療日誌』(9月27日)

       Doctor’s Ink』(「医局は『諸悪の根源』なのか?」)


 医局は悪くない、世間の医局バッシングは、いわゆる「封建的な医療制度」というイメージをマスコミに植えつけられているための幻想…僕も、そんな気がしなくもありません。
 一度中に入ってしまえば、僕のような主体性のあまりない人間にとっては、「人はただ、流れに乗ればいい」の「流れ」ってやつをつくってくれますし。
 今回は、リンク先のテキストなどを含めて、もう一度「医局制度」について考えてみたいのです。

 さて、最近僕は「医局」というやつのメリットについて、思い当たる話を体験しました。

 今所属している医局のOBの先生が急病で入院されて、その先生からの依頼で、後輩医局員の僕たちが順番でその医院に行って外来をやっているのです。
 実際、開業している先生たち、とくにひとりで小さな診療所を切り盛りしている医者は、急病などの場合、病院を運営していけなくなるのです。

 とはいえ、病院というのは、「じゃあ、本日休業」というわけにも、なかなかいかないんですよね、実際のところ。
 入院患者がいない病院でも、かかりつけの外来患者を定期的に診るわけですし、極端な話、休院・閉院するにしても、それらの患者さんを他の病院に責任もって申し送りしないといけません。
 急死、なんて場合には、いたしかたないのでしょうが。
 というわけで、そういう場合のバックアップを医局がしてくれることがあるわけです。

 実際、フリーの立場の医者なんてそうそういるものではないですから、そういった病院の穴埋めをするには、ある程度沢山のスタッフを抱えるところにフォローしてもらわざるを得ない。

 そこで、「医局」の登場となるわけです。
 「医局」というのは、ある意味、そういうバックアップ機能も持っているのです。
 まあ、実際にタダでさえ忙しいのにバイトに駆り出される下々の者としては、不満たらたらだったりもしますが。

 でも、そういう場合に、「すみません、院長は不在なんです」と急病にもかかわらず患者さんに言わなければならないスタッフの様子をみていると、なんだか悲しくなります。
 まあ、患者さんだって「命懸け」だからしかたないのかもしれないけど…

 基本的に医者、とくに開業医は個人事業主ですから、病気になっても誰も助けてくれません。「医師会」だって、お金は多少は出るかもしれませんが、会員の先生が交代で病院を切り盛りしてはくれませんし。
 「医局」というのは、ある意味、そういった個人事業主たちのための、相互補助のための組織でもあるわけです。
 現状で医局を解体して、果たして、そういった地域医療を支える病院が維持していけるのかどうか…

 そんな小さな病院は、どんどん潰して、大きな病院に統合してしまえばいい、そういう考えの方もいらっしゃるかもしれません。時代はそういう趨勢になりつつありますし。

 でも、それでは、今まで地域医療を支えてきた人たちにとって、あまりに薄情な気はしますし、過渡期には大きな混乱が起こるのではないでしょうか。
 本当は、医者の「生活の質」ということを考えれば、多くのベッドを持つ総合病院がたくさんあって、働く医者も、自分の就業時間以外は自由になるのがいいのですが…

 しかし、それだと「医療過疎地帯」ができてしまうことは間違いないでしょう。
 そういう地域医療の抱える問題点を無視して、医局解体を推進するのは、どうも危険な気がします。
 だいたい、医局というのは、もともと権力機構ではなくて、医者の同業者組合みたいな性質のものだったのではないでしょうか?

 ただ、ちょっと気になっていることもあるのです。
 それは、「医局」というのをひとまとめにして語ってしまっても良いのかどうか、ということ。
 僕は2つの医局を渡り歩いている(というか、今は出張先の医局にお世話になっている状態)のですが、その2つの医局は、全然違うのです。

 学会発表や留学などのバックアップ体制や影響力、日頃の生活においての細々とした手続きなどのフォローなど、「同じ医局といっても、こんなに違うものか…」と眼からウロコが落ちました。

 そして、僕が今まで居たような「リベラルだけど、あまり医療業界的には実力がない医局」なんていうのもあれば、「締め付けは厳しいけど(結婚式の会場のホテルまで指定されるらしいですよ、噂だけど)、実力はある(いわゆる「いい病院」に勉強に行かせてもらえたり、その地域の医者たちに顔が利く)医局」もあるらしいのです。
 実際、医局なんてのは、そこに所属してみないとわからない事情もそれぞれあるものでしょうし、東大や京大の医局なんてのは、あの「ブラックジャックによろしく」のような世界なのかもしれません(これも偏見?)

 まあ、僕がそんなことを考えてしまうほど、医局なんてのはその大学、科によって全然違うし、同じ医者でも他所の医局のことは、よくわかっていないのです。

 医局の最大の弊害というのは、「きめられた範囲で医者の供給をスムースにする代わりに、そのきめられた範囲から出ることができない」という点なのだと思います。
 中には、「いい病院に就職するために、あそこの医局に入る」という人だっていますし、それは責められることでもないでしょう。
 あそこの病院は「○○大系列だから」なんていうのが、厳然として存在していますから。

 しかし、多少の能力差はあっても、切れ間なく人材を供給してくれる存在というのは、医者を確保したり、その能力を評価することが難しい地方の病院にとっては、かけがえのない存在なのです。
 もし、医局がすべて無くなって、各病院が自由に医者を募集するようにしたら、地方の病院では医者の確保がどんどん難しくなり、給料は天井知らずになるでしょう。

 そういった事情を考えると、「医局解体」が行われても、「医局的なもの」が再建されるだけなんだろうな、と思われます。

 ひとつだけ言えるのは、医者も、これからは「医局任せ」ではやっていけない時代になってきている、ということです。
 ただ、「医局が無ければ、全てが良くなる」なんてのは、幻想だということだけは事実だとは思いますが。

 あっ、「白い巨塔」がリメイクされるそうですね。

 またツッコミを入れられるドラマが始まるのは嬉しいけど、さらに医局バッシングが強まりそうな予感…