医局は「諸悪の根源」なのか?


共同通信の記事より。

【東海大医学部が2003年度から、教授を頂点とする「医局」を1日から廃止した。教育、研究、診療の方針や人事など、すべての権限が教授に集中する医局制度の弊害を排除するのが狙い。
 44医局を教育、研究組織としての五つの「学系」と、診療組織としての28の「診療科」に再編した。
 「学系長」と「診療科長」の兼務を原則禁止とし、地域病院への医師派遣などの人事は、学内の地域医療人材交流委員会が調整することとした。
 堀田知光医学部長は「全国でも初めての試み。横断的、弾力的な連携による患者本位の医療を提供したい」としている。】

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 マンガ「ブラックジャックによろしく」では、患者にとってのベストの治療よりも面子にこだわる教授や医局の意向に従わないと大学内での出世の道が閉ざされてしまうという話が、けっこう赤裸々に(?)描かれています。

 まあ、斉藤医師の場合、協調性にやや欠ける気もするし、あれは、あまりにもマンガ的にデフォルメされているとは思うのですが。

ところで、僕も医局に所属しているわけなのですが、日本の医局制度というのは、ある意味、日本でいちばん封建的な風習が残っているところだと言われることがあります。

しかしながら、僕自身は、そんなに医局の弊害ってやつをあまり実感したことはないんですよね、同じ専門を持つ医者の集団、という感じで。地方の比較的新しい大学なので締め付けが緩いのか、単に慣れてしまって、麻痺しているだけなのかもしれないけれど。

それで、僕が考える医局のメリット、デメリットについて書いてみようと思います。

まず、メリットから。

これは、何といっても自分が専門としようとしているジャンルの先輩が、ある程度責任を持って指導してくれるということでしょうね。「徒弟制度」なんて言われることもありますが、中世ヨーロッパで、この制度が汎用されたのは、「技術」を身につけさせるためには、確かに効率的であったからで。もっとも、既得権を守るため、という意味あいもあるのですが。

それに、「人脈」というのもあります。勉強しに行くための施設を紹介してもらったり、バイト先の病院を紹介してもらったり、なんてのも。

 デメリットといえば、まさにこの逆で、上の人に気に入られなかったら、どんなに優秀な人材でも(大学的には)偉くなりにくい、ということもあるでしょうし、意に染まない病院に「派遣」されることも出てきます。

 どうして医師派遣のために医局にお金が動いたりするのかというと、勉強にならないとか条件が悪いという理由で医師が行きたがらない病院も「医局の人事」ということで、半強制的に医者を派遣してもらえるからなんですよね。

 一年とか二年とかの単位で医者が入れ替われば、福利厚生の面からも、退職金や昇給などの点でも、派遣先の病院にとってメリットが大きいのです。若くて動けて給料が安い医者が、途切れることなく使えるというのは、すごいメリット。

 要するに、医局と仲良くするというのは、人材派遣会社と契約するようなもの。

 まあ、若い医者にとっては、どんな病院に行くのにも勉強になる点はあるんですけどね。

 たいがい、これからのこともあるから、医局の意向に従っとこう、ということになるわけです。

 確かに、教授の専門や意向によって人事が動かされる場合が多いですし(ただし、最近はいくら教授でも、そんなに無茶苦茶はできないと思います(ただし、いわゆる旧帝大系なんかは、また違うかもしれません)。

 ただ、最近思うのは、古い大学で医局が強いところでは、そのレールに乗っている限りは「守られている」という面もあるんですよね。研究にしても、論文の書き方をちゃんと指導してくれる人がいるし、情報が集まってもきます。他の大学の人に挨拶するときにも「ああ、あそこで勉強されてるんですか」と言われると、それだけで気がラクになったりもするわけです。ああ、小物だなあ、僕って。

 「医局」が悪の根源かどうかは、正直、僕には、まだ評価できません。

 日本全国の病院に医者がある程度満遍なく行き渡っているのも、現在は医局のおかげという面もありますし。

 それに、「学系長(たぶん研究面の長、ということですよね)と診療科長(診療部門のちまり臨床の長、ということでしょう)を分ける」というのは、けっこう先端医療の研究をするためには、デメリットも多いような気がしますし。

 指導力、という面では、低下しそうですよね。

 医学部の場合、企業の研究室などと違って、実践者である臨床家と研究者を同じ人間が兼ねていることが多いし。

 

 何よりもいちばん心配なのが「地域医療人材交流委員会」に、果たして、公平な医師の地域病院への派遣が可能なのかなあ、ということです。誰が作るの?その委員会。

 結局、各診療科の上の人間の言いなり、になりそうな予感。それじゃ今までと一緒。

 「ワンマン社長のいる会社は悪い!」というのは、ひとつの考え方ではあるのですが、

制度そのものよりも、その社長の質が問題、という気もしますし。

 「医局制度が悪い!」という面もあるのだけれど、多くの「制度」は、システムそのものよりも、それを運用するごく一部の人間によって、「悪い制度」に貶められてきたわけで。

 それでも、医局は、たぶんこれからはドンドン解体されていくと思います。

 でも、「強い医局」ほど、聖域になってしまう可能性が高いなあ。