上手に病院を利用するための6つのコツ


参考リンク:「病院にて」(われ思ふ ゆえに… (6/14))

上の参考リンクに書かれている文章を読んで、「やっぱり病院ってヒドイ!」と憤られた方も少なくないのではないかと思います。
まあ、この方の場合は、こちらに書かれているように、「プライバシーを守るために、いろんなディテールを変更している」そうなので、果たしてここに書かれていることが、どのくらい「事実に即している」のか、よくわからないのですけど。でも、こんなふうに「病院は患者のことを何も考えていない」というようなイメージばかりが広められるのは、やっぱり困ったものだと思うのです。こういう「一例」によって、「やっぱり公務員は…」とか「やっぱり韓国人は…」みたいな「レッテル貼り」を行っている人に限って、実際に知っている医者像って、テレビの「トンデモ医者特集」で観たものくらいだったりするのですよね。

さて、やや脱線しすぎた感じではありますが、こういう目に遭わないために、「上手な外来の受診のしかた」を僕は書いてみたいと思うのです。
もちろん、急激に出現する、耐えられないような症状は、この限りではありません。
「何かちょっと気になるので、病院で診てもらおう」というときのコツみたいなものだと考えてください。


(1)自分の症状をまとめておこう。

 「いつごろから、どこに、どのような症状があって、それは時間の経過によってどういう変化があるのか?今までに大きな病気をしたことがあるのか?そして、現在治療中の病気があるのか?薬は飲んでいるのか?」
 最初の段階で、医療側が必要としている「情報」って、実際はこのくらいのものなのです。もちろん激痛で救急車で病院に搬送されてくるようなときは仕方ないのですが、「ちょっと気になる」というような状況では、これをある程度まとめてきていただけると、かなり助かります。もちろん問診は病院でも行いますが、事前にある程度情報が患者さんのなかで整理されているのかどうかで、かなり診断の効率は変わってきます。実際は、外来を受診される患者さんの少なくとも半数以上は、問診だけでかなり的確に診断がつけられますし、行うべき検査を減らすこともできます。


(2)最初は、「近くの病院」で十分です。

 最近は「大病院志向」が強いようなのですが、実際のところ「大病院でないと診断できない病気」の頻度というのは、そんなに多くはありません。医者だって、「大病院にいるから優秀」とは限りませんし、大学病院の偉い先生は、必ずしも「患者さんを診る能力」で偉くなった人ばかりではないのです。実際は、近くのクリニックと大きな病院では、「いろいろな検査ができるかどうか」が違うだけであり(もちろんそれは大事なことではあるのですけど)、まず近くの医者に相談してみれば、「それがすぐに大きな病院で調べてみたほうがいい状態なのか?」判断してくれるはずです。必要であれば、紹介状だって書いてくれるでしょう。あるいは、それで近くの医者の説明が気に入らなければ、その時点で大きな病院の受診を考えても良いと思います。ほんと「総合病院じゃないとできない検査」「総合病院じゃないとわからない病気」なんていうのは、そんなに多くはないのだから、「なんで病院はこんなに待たされるんだ!」とイライラしがちの方はとくに(ちなみに、僕たちも好きで待たせているわけではないんです。そりゃもう、診る側だって、時間に余裕があって、ゆっくり診察できたほうが良いに決まっています。誤診ひとつですべてのキャリアを失うリスクを常に背負っているのですから)。


(3)どこまで調べてもらいたいか?を決めておきましょう。

 患者さんのなかには「なんでも全部できる検査はしてください」と仰る方がいらっしゃるのですが、現実には検査というのは、複雑な内分泌系の負荷試験とかまで含めたら、本当に無数にあるのです。もちろん、一般的に行われるものは、そのうちのごくごく一部。
 例えば「最近体がきついんです」という患者さんを診るときに、僕たちの頭には、さまざまな「鑑別すべき疾患」が浮かんできます。
 癌、心臓病、呼吸器系の疾患、糖尿病、肝臓病、腎臓病、血液疾患、神経系の病気etc……
 さらに、その「癌」というカテゴリーの中にはさまざまな部位、進行度のものがあり、「肝臓病」にしても、さまざまな病気がそのなかに含まれており、危険性も治療法もさまざま。それで、「体がきついと訴える患者さん」に対して、血液検査、レントゲン、心電図、腹部エコー、CT、胃カメラ、大腸ファイバー、血糖検査、尿検査などを行っても異常が出ない場合にどうするか?
 そういうときに、「世界で数例しかないような疾患」まで想定して検査をさらにすすめていくべきか、それとも、「疲れもたまっているみたいだし、なるべくゆっくり休んで、様子をみましょうか」と話すべきかと考えると、やっぱり後者を選択する医者が多いと思うのです。
 まあ、これは極端な例ではあるのですが、実際のところ「非常に可能性が低いと考えられる疾患に対しても完璧な検査をする必要があるのか?」というのは、難しい問題なのです。医療側としては、検査による合併症のリスクもあるし、何万円も患者さんに払ってもらってまで「ほとんど意味がなさそうな検査」をやる必要があるのか?と考えてしまいます。それって、「過剰検査」として、保険で削られてしまう可能性もあるし。
 ですから、もし納得できなくて検査を希望される場合には、その旨をおっしゃっていただいたほうが確実です。「こういう病気を心配しているのですが、検査をしてくれませんか?」と。正直、患者さんが「近所の人がこういう珍しい病気にかかったから」とか「みのもんたの番組で言っていたから」ということで、心配されている「珍しい病気」というのは、医療側としては、「検査の優先順位が非常に低い疾患」である場合は、往々にしてあるのです。「足が痺れる」という患者さんの訴えに対しては、やはり椎間板ヘルニアや血行障害、糖尿病などの頻度が高いので、いきなり「脊髄腫瘍の検査をしましょう」なんて考える医者は、ほとんどいないはずです。でも、患者さんがその疾患をものすごく心配されていて、「調べないと夜も眠れない」ということであれば、配慮します。
 そして、この参考リンクを書かれている方は、「妊娠可能な年齢の女性」ですから、医療側としては、放射線の影響を考えると、「なるべく被爆するような検査は避けたい」のですよね、あまり強い症状でなければなおさら。ただ、それが説明されていないのであれば、それは医療側の怠惰でしょう。


(4)わからないことは、遠慮せずに尋ねましょう。

 前回ここで書いたように、医療者だって人間ですから、「あなたが何を考えて、何を不安に思っているのか」を雰囲気だけで察することは困難なのです。むしろ、ちゃんと言ってくれたほうが良いんですよね。「医者なんだから、そのくらいわからないの?」とお考えの向きもありましょうが、医者は超能力者ではありません。「聞いても教えてくれない」のであれば、それは「リアル藪医者」なので他をあたったほうがベターです。


(5)病院は選びましょう。

 僕はかねがね疑問なのですが、どうして人は、卵や電器製品を買うのには綿密なリサーチをするのに、自分の病気を診てもらうための施設を「大きいから」とかいうような理由で選んでしまうのでしょうか?昔ならさておき、今ならネットでもそれなりに調べることもできますし、口コミだってあるはずです。そして、もし気に入らなければ、他の病院で診てもらえばいいのです。救急などの選べない状況ならさておき、そのくらいの労力はかけないと、「偶然入った蕎麦屋が不味かった」というのは、同情はしますが「本当に美味しい蕎麦を食べたい」と切実に思っているならば、下調べをして店を選びますよね。


(6)検診を受けましょう。

 本当に自分の健康が心配なら、「症状のないうち」から、定期的にメンテナンスを受けることをお勧めします。 

 とまあ、いろいろと書いてみたのですが、結論としては、こういう「レッテル貼り」に踊らされずに、上手に病院や医療者を使ってくださいね、ということなのです。こんな話で悪い先入観を持たれてしまって、早く治療するべき患者さんの足が病院から遠のいてしまうのは許せません。

「事前に自分の症状を整理しておく」ことと「わからないことは遠慮せずに尋ねる」、そして、「信頼できる病院を選ぶ」ようにすれば、もっと効率的に病院を利用できると思います。もちろんそれは「素人には難しい」ことなのだろうし、「病気や病院のことなんて、考えるのも嫌」なのは、わからなくもないのですけど。