「ふじさんの当直日誌inボストン(1)

2002年11月1日
 “I am Alien”<前編>

 なんとか4時45分に起きて、秋雨まじりの暗闇の中バスセンターへ。5時半には、今回のメンバーが眠たそうなムード満載で集合した。リーダーであり、今回の発表者でもある御大O先生(男)、旅行経験豊富で、世界フレンドリー選手権というのがあれば、上位入賞間違いなしの姉御K先生(女)、僕よりひとつ年上で、同じくアメリカ初上陸のT先生の4人組が、今回のアメリカ遠征のグループだ。

 K先生に「知ってる?松井大リーグに行くんだってよ」と聞かされてびっくり。広島ファンの僕にとっては、金本FAほど衝撃的なニュースではないが、日本の野球界にとっては、こちらのほうがよほど大ニュースだろう。思い切った決断をしたものだ。

 高速バスで福岡空港へ向かったが、途中で夜が明けて朝日が射してきた。松井や裏切り者金本も、同じ空を見ているのだと思うとなんだか感慨深い。1億2千万人の心に、1億2千万通りの空模様。

 朝7時前の福岡空港は、まだ人もまばら。7時半の始発便で成田空港まで1時間半の空の旅。スチュワーデスさんは、思ったより僕と同年代くらいの人が多かった。飛行機乗るのは、結構久しぶりなのだ。成田空港の、人と発着便の多さにびっくり。

  空港で「地球の歩き方」を買い、空港内の中華レストランで4人で朝食。朝食といいつつ、点心を注文して生ビールで酒盛り。それぞれ生ビールの中3杯、僕は一応2杯にとどめて置いた。飛行機、苦手なので。全部で1万5千円、御大O先生が、いきなりごちそうしてくれた。これからいくらかかるかわからないのに、ちょっと申し訳ない。さらに、O先生は、ご家族への免税品を最初に購入。

  パスポート紛失未遂(ズボンのポケットに入ってた…)などありつつも、なんとかJALの成田〜シカゴ便に乗り込んだ。スチュワーデスさんの平均年齢は、こちらのほうが少し体力的にキツイせいか、少しだけ若めの印象。

 成田〜シカゴ間は、約11時間のフライトだ。乗客は、日本人と外国人半々といったところ。国際線に初めて乗ったのだが、シートに個人用テレビもついていたし、ゲームまでできるのだという。でも、出し方がわからないし、隣は御大O先生。昼の機内食の焼鳥丼を食べると機内はすぐ真っ暗になってしまい、テレビを見る間もなく眠ってしまった。

 しかし、どんなに旅の気分転換のための装備が充実していても、「狭い!」という苦痛には耐え難い。非常口のところのシートで足が伸ばせるのが苦痛だが、体ひとつ入れるのがやっとの広さのシートに10時間以上座りっぱなしで、時間ごとに出される機内食を食べていると、ブロイラーというのは、こういう気持ちなんだろうかと思えてくる。

 僕も結局寝るしかなくて、ほとんど夢の中ですごした。起きているときはO先生に迷惑をかけないように硬直しながら、エッセイ集を2冊読了。なるべくトイレに行かなくてすむように、アルコールは控えめに。

 でも、あまりに水分を取らないで脱水状態になってしまっていると、エコノミークラス症候群のリスクが高くなってしまう。難しいところだ。それに、あまりに席が狭くて、一度席を離れると戻るのが困難なためになるべくトイレにも立ちたくない。

 日付変更線を越え、アラスカの上空を過ぎて、ようやく飛行機はシカゴ・オヘア空港へ。

 上空から観たら、車がみんな右側を走っていたので「アメリカだなあ」と感慨深い。
 近くの席のアメリカ人は、眼下の光景に、むしろホッとした表情を浮かべている。

 現地時間11月1日、午前9時。シカゴ・オヘア空港着。11月1日の早朝から旅をして、飛行機にず〜っと乗って、アメリカに着いたら、まだ11月1日の午前9時。時間が逆行しているような、不思議な気分だ。

 ついにアメリカへ第一歩。税関の人の人種が多彩なのに、まず驚いた。白人の怖そうな女性もいれば、デンゼル・ワシントン風の黒人男性や東洋系の人もいて、まさに人種の坩堝という印象。アメリカという国には、意外と「外国人」はいないのかもしれない。

 キツそうな白人女性の税関の前に並び、順番がやってきた。機内で読んだ「地球の歩き方」に「まず『Hi!』と挨拶しよう!」と書いてあったので、この怖そうな人に早速実践「Hi!」我ながら激烈にウソクサイ。

「仕事は?」「滞在期間は?」という2つの質問を受けただけで解放してもらえた。

 まあ、「地球の歩き方」の効用というよりは、ちゃんと帰りのチケットを持っていたかららしいのだけれど。僕の前の1人旅のビジネスマンは、「会社の住所は?」などと列から外されて、かなり厳しいチェックを受けていたし。

シカゴで、今度はアメリカの国内線に乗り換え。空港内の表示は、当たり前だが自信を持って英語のみ。たまに、スペイン語で表記されているところもあるのだが日本語は皆無。

なんだか、あんなに一生懸命英語でもインフォメーションしようとしている日本の空港が、かわいそうになってくる。

 空港内は通路がやたらと広く、座って休めるスペースが多い。ひとつ気がついたことは、公共の時計が非常に少ないこと。もちろんみんな時計をそれぞれ持っているのだろうけれど、時間が命の空港の中にこんなに時計が少ないなんて、日本人の感覚としてはちょっと異様な感じがした。


 11月1日<後編>に続きます。