平成12年度包括外部監査報告書の内(平成 13年3月)

愛宕山地域開発事業について

(ア)事業の経緯

  本事業は、岩国基地沖合移設事業の実施を契機として、岩国市愛宕山地域から沖合移設に必要となる埋立て用土砂を確保、搬出するとともに、その跡地を住宅地等として開発することにより、岩国市の都市機能の整備・高度化と県東部地域の振興発展に資することを目的として計画されたものである。

  住宅地開発が中心の事業となることから、事業手法として「新住宅市街地開発事業」(都市計画事業)で進めることとなり、県及び岩国市の要請を受け、平成6年度から住宅公社が次のとおり取り組んでいる。

 平成6年4月  住宅公社が事業主体に(県及び岩国市の要請)住宅公社地域開発局を設置

           基本設計着手

 平成7年4月  住宅公社岩国事務所を開設  

           「新住宅市街地開発事業に準ずる事業」の建設大臣指定

 平成9年7月  岩国市都市計画変更等に係る綻覧

平成10年2月  岩国市都市計画変更等に係る決定告示

       3月  愛宕山新住宅市街地開発事業に係る事業認可

           農地転用許可、保安林解除予定通知

           工事用道路、調整池及び土砂搬出施設等準備工事発注

       4月  環境監視委員会を設置

       5月  県警察と住宅公社で「暴力団排除対策連絡会議」を設置

       8月  請負業者による「安全対策協議会」を設置

           保安林解除告示

           請負業者による『暴力団等排除対策協議会』を設置

      11月  岩国市漁協と漁業補償交渉合意

           錆川漁協と漁業補償交渉合意

      12月  愛宕山地域開発事業起工式

平成11年3月  広島防衛施設局と平成10年度埋立土砂売買契約を縞結

           本体造成工事を発注

平成12年2月  土砂搬出設備据付完了

           土砂搬出開始(試験投入)

       3月  土砂搬出記念式典

           広島防衛施設局と平成11年度埋立土砂売買契約を締結

 

 

(イ)事業の概要

 a 開発規模及び土地利用計画

区分 面積(ha:ヘクタール) 内容
住宅用地 28.7 戸建住宅21.6ha(約850戸) 集合住宅7.1ha(約650戸)
公益的施設 福祉施設用地

教育施設

その他

3.8

3.2

1.8

・健康福祉施設用地

・小学校

・タウンセンター(商業・医療施設等)0.8ha

 コミュニティセンター(集会所・幼稚園等) 東西2箇所1.0ha

小計 8.8ha
公共的施設 道路用地

公園・緑地用地

 

その他

19.0

44.0

 

1.7

・地区内幹線道路ほか

・近隣公園2.1ha

  街区公園1.0ha(4箇所)ポケットパーク0.2ha(3箇所)

  緑地40.7ha(開発地区外縁部等)

・調整池、配水池等

小計 64.7ha
合計 102.2ha  

 b 総事業費

   約850億円

 c 事業実施期間

   平成6年度〜平成22年度(うち土砂搬出平成11年度〜平成16年度)

 

 

(ウ)組織体制及び財務状況

  a 本事業は、前述のとおり県・市の要請を受けて取り組んでいることから、人員配置については基本的に県・市の派遣職員で構成している。

  b 本事業の資金調達(借入金)に当たっては、県・市が損失補償(債務角担行為)を行っており、現在までの債務負担行為限度額、借入金額及び実支出額の推移は次の表のとおりである。

  また、本会計は、特別会計として住宅公社の他の会計とは区分して経理することとしている。

(単位:千円)

区分 6年度 7年度 8年度 9年度 10年度 11年度
債務負担行為限度額 60,112 2,778,693 13,139,472 14,130,927 17,910,810 11,589,558
借入金額 60,000 325,000 1,315,000 6,740,000 11,370,000 10,248,800
実支出額 57,439 323,274 1,316,017 6,503,960 10,919,932 10,194,110

(注)損失補償負担割合  県:市=2:1 (平成7年度以前は1:1)

 

 

(エ) 全体としての資金計画

 愛宕山新住宅市街地開発事業に係る事業認可を受けた計画(以下「当初計画」という。)及び平成12年8月時点における見込みは次の表のとおりで、用地補償費及び工事費の支出と土砂売却及び開発宅地の処分による収入が均衡することとなっている。

 しかしながら、本事業は、その緒についたばかりであり、現時点で最終的な収支見込みを展望することはできない。

 今回の「見込み」においても、収支に直結する宅地処分収入や二次造成に係わる支出については、原則当初計画の額により試算したものであり、今後の事業の進捗状況に応じて収支状況をにらみつつ、適切な事業執行に努めることが求められる。

 

愛宕山新住宅市街地開発事業の資金計画及び見込み(一次造成工事/二次造成工事の原価について)

(単位:百万円)

区分 当初計画 現在までの実績と今後の見込み
全体 一次造成 二次造成 全体 一次造成 二次造成
処分収入 38240 38240 38240 38240
公共施設性分 3407 3407 3407 3407
公益施設処分 7073 7073 7073 7073
住宅処分 27760 27760 27760 27760
土砂売却処分 46935 46935 47202 47202
収入合計A 85175 46935 38240 85442 47202 38240
 
用地補償費 14764 14764 14496 14496
工事費 56846 42338 14508 60262 45754 14508
整地工事 47406 42057 5349 50909 45560 5349
道路工事 2876 2876 2876 2876
排水工事 1958 281 1677 1871 194 1677
水道工事 1320 1320 1320 1320
公園緑地工事 3286 3286 3286 3286
事務費・税 4553 3338 1215 4403 3188 1215
借入金利子 9012 6868 2144 5692 4406 1286
支出合計B 85175 67308 17867 84853 67844 17009
             
A−B △20373 20373 589 △20642 21231

注1: 土砂売却に係る経費を一次達成工事に計上した。

注2: 二次造成に係る借入金利息は、現行の平均借入利率(2.1%)で試算した。

 なお、当初計画額と平成12年8月での見込みの差異は次のとおりで、工事費と借入金利息に大きな差異がある理由は、工事費については海上運搬費及び調整池工事費が増加したためであり、借入金利息については金利が予想より低利で推移しているためである 。

 

土砂売却収入(平成11年度契約単価で試算)の増    267百万円

用地補償費(契約済額及び今後契約見込額で試算)の減    △268百万円

工事費(契約済額及び今後契約見込額で試算)の増    3,416百万円

事務費・税(執行実唐及び今後執行見込額で試算)の減    △150百万円

借入金利息(支払実績及び今後支払見込額で試算)の減    △3,320百万円

 

 

(オ)土砂及び開発宅地の売却収入の妥当性 

 a 土砂売却収入の妥当性

  当初計画では、次のような収入と支出の関係で計算が行われていた。

  土砂売却に係る原価の計算は、国(広島防衛施設局)との交渉において、用地補償費及び土砂搬出費の合計額から一次造成後の土地評価額相当を控除した額をもって土砂売却原価とし、予定売却数量で除して、土砂単価を計算している。

  一次造成後の土地のうち粗造成部分(平地)の単価については、平成6年11月に住宅公社が、(財)日本不動産研究所及び地元2不動産鑑定士事務所に依頼した鑑定結果に基づいて決定したもので、素地部(平地以外)は用地買収費をもとに計算されており妥当なものと考えられる。

 

当初計画(平成10年3月)

≪収入: 85175百万円≫

土砂売却収入

46935百万円

国(広島防衛施設局)に売却

宅地等売却収入

38240百万円

宅地(坪当たり約33万円)

 ≪支出: 85175百万円≫

用地補償費14764百万円

(平均単価11310円/u)

 土砂搬出量  二次造成費

 14508百万円

 分譲経費

 3359百万円

 (利子、事務費、税)

 52544百万円  一次造成後の土地

 評価額20373百万円

土砂搬出にかかる経費 67308百万円  造成・分譲にかかる経費 17867百万円

 

b 開発宅地売却収入の妥当性

 宅地等売却収入として、38,240百万円を見込んでいるが、その内訳は次のようになっている。

 住宅処分収入   27,760百万円

 公益施設処分収入 7,073百万円

 公共施設処分収入 3,407百万円

 

 県及び岩国市は、金融機関が住宅公社に対して愛宕山地域開発事業資金を融資することについて、金融機関が損失を受けた時は補償をする損失補償契約を締結しているため、住宅公社が当初計画の売却単価で処分できず、 金融機関からの借入金が返済できなければ、県および市の負担が発生することになる。

 したがって、開発予定宅地の時価がどのような状況にあるかの検討が必要なため、不動産鑑定士事務所に鑑定を依頼した。

 鑑定依頼事項は、現在宅地が完成していたとした場合の現在の評価額、さらに、5年後の平成18年度を分譲開始としているため、愛宕山新住宅

市街地開発事業地内の地価水準形成予測とした。

 鑑定結果は、現在宅地が完成していたとした場合の現在の評価額は当初計画の処分価格と大きな隔たりは認められなかった。

 こめことは、現時点では、平成18年度から予定している処分価格と同水準の地価が維持されているということである。

 地価水準形成予測については、愛宕山住宅団地は地域構成要因としてマイナス要素はみられないが、今後、経済動向がマイナスとなり不動産市場が更に沈滞化した場合、当然地価は下方修正されることとなり、岩国市、広くは広島経済圏住宅地も地価の下落幅は拡大することとなる。

 このことは日本経済全般の低迷で、当経済圏のみに発生する問題に限定されないが、このような下落が発生したと仮定した場合でも、岩国市の住

宅地価格と愛宕山住宅団地の価格動向を比較すると、岩国市住宅地価格変動率より、愛宕山住宅団地価格変動率の方が小さいと予測され、住宅立地としては優位な条件となる。

 ただし、広島市を中心とした住宅圏として、岩国市の住宅地市場を判断すると、圏域内にある住宅団地(開発計画含む。)の総量は供給過剰傾向になることも否定できず、供給量に対応する住宅地需要量の関連が下方修正予測の 一つとなる。

 

c 用地補償費、工事費及び間接費の妥当性

平成11年度末における原価の発生状況は次のとおりである。

(単位 千)

 直接費

 間接費

 計
 用地費  工事費
12,118,882 13,620,116  3,519,508  29,258,506

 

(a)用地費は、土地、立木、建物、借地料、漁業補償等に区分されているが、購入価格は妥当か、契約書と内容が一致しているか、登記の手続は

正しく行われているか、支払手続は妥当かについて調査した。

 用地買収に当たっては、買収手続は住宅公社としての通常の手続と同様であるが、今回の買収単価は次のように決めており、調査した範囲において妥当に処理されていた。

 

土地山林    開発地区内山林を6つに区分し、不動産鑑士の評価を基準として単価を決定した。

採土地     不動産鑑定士の評価による。 

宅地      不動産鑑定士の評価による。

立木      毎木調査等による数量把撞と中国地区用地対策連絡会補償基準に基づく単価により算定

建物      現地調査と中国地区用地対策連絡会補償基準により算定

借地料     相続税財産評価基準価額等に基づき算定

漁業補償   土運船運航等による漁獲高への影響額等に基づき算定

 

(b) 工事費は、工事台帳より抽出した工事について、契約から支払に至る処理を監査したが、監査した範囲においては特に指滴すべき事項はなかった。

(c) 間接費は、業務委託費及び事務費で6年間の発生状況は次のとおりである。

(単位 千円)

区分 6年度 7年度 8年度 9年度 10年度 11年度
業務委託費 8793 50971 170979 770805 178931 141882 1322361
事務費              
職員給 23395 130772 140394 146741 147505 149730 738534
共済費 2823 24065 26264 26751 27728 29983 137614
諸手当 10929 12549 16599 20256 26561 19587 106481
旅費 2259 10530 9480 6033 7504 8227 44033
一般需用費 135 15281 9912 13120 22439 11619 72506
委託費 0 1022 1669 8496 19545 17376 48103
減価償却費 0 1763 3777 3804 4115 4275 17734
その他 8740 5172 10935 11608 23990 10355 70800
支払利息 365 5383 31212 113498 333600 477279 961337
事務費計 48646 206537 250242 350307 612984 728431 2197147

 業務委託費は設計等に要した経費であり、事務費の職員給は県及び岩国市からの出向者の費用が主たるものであり、いずれも必要な経費と認められる。

 事務費において多額の支払利息が発生しているが、この事業における必要資金はすべて借入金で処理されており、借入金が余分に借り入れされていないか、借入利率は妥当かについて調査したが、借入は山口銀行ほか地元金融機関 5機関から行っており、予定の比率で配分している。

 借入利率については、建設省建設経済局調整課長(現国土交通省総合政策局国土環境・調整課長)通達に基づく指導利率と市場公募地方債の応募者利回りのいずれか低い利率を適用しており、妥当なものと考える。

 

 

(カ) 事業の進捗状況

 a 一次造成工事について

 平成6年度から開始されたこの事業は、現在、一次造成工事である土砂の搬出が始まったばかりで、事業規模からすると事業費、資金計画等はほぼ当初計画どおりの進捗と認めることができる。

 一次造成後は、国との協議によって、用地補償費及び土砂搬出費の合計額から一次造成後の土地評価額相当を控除した額をもって土砂売却原価としていることから、収支に基本的な影響を与える変動的な要素はほとんどなく、工事の安全等の配慮を十分に行い計画どおり進行させることが必要である。

 b 二次造成工事について              

 宅地開発という事業内容からすると、二次造成工事が実質的な事業の着手ということもできる。これは、土砂の売却単価の決定についての国との協議において、一次造成工事完了後の開発用地の資産価値が決定されているからである。

 このため、二次造成工事の費用が宅地の売却単価に直接影響してくることになり、事業者としての住宅公社に求められるのは、二次造成工事の費

用をどれだけ低く押さえることができるかである。

 不動産鑑定を実施した結果、現在の地価は当初計画の販売価格と大きな差異はない状況にあるが、最近の経済情勢等から判断して、地価の右肩上がりを期待することはできず、販売を開始する予定の平成18年度に現在の地価が維持されているという保証はない。

 住宅公社の供給する宅地は、ゆとりある住宅を供給するという観点から、一区画の面積が広く、結果的に分譲総額が大きくなり、販売が比較的低調になっているようにも見受けられ、また、地価の動向によっては、売れ残る可能性もあるので、二次造成工事に着手するまでの問に、住宅を必要と  する県民各層のニーズを十分に踏まえ、工事内容、工事費等の再検討を行い、宅地の販売価格をできるだけ低くする努力を行うことが必要である。

 c 販売計画について

 計画では平成18年度から5年間で戸建住宅約850戸を販売する計画となっているが、住宅公社が過去5年間に県内全域を対象に販売した一般宅地は645区画であり、岩国という1地域で戸建住宅約850戸を完売するには更なる努力が必要である。

 計画期間内に販売を完了できなかった場合は、住宅公社は借入金の返済ができなくなり、その結果として、遺失補償をしている県及び岩国市が公

金による負担を行わなければならないことになる。

 このような事態を生じさせないためには、販売計画について、当初計画をそのまま踏襲するのではなく、今後の経済情勢、地価動向等を見極めな

がら、必要に応じた変更を行っていくことが必要である。

 

(5)意見

  住宅供給公社のあり方について

 これまで、住宅公社は、県の住宅政策の基本目標である「ゆとりのある住生活」を実現するための政策実施機関として、地域の多様な住まいづくり、まちづくりの先導的な役割を担い、優良定住モデル団地を整備し、ゆとりある住宅の供給を行ってきた。

 現状、このゆとりのある住宅を供給するという観点から、1区画の面顔が広くなっており、結果的に分譲総額が大きくなるため、現在の経済状態から考えると、販売が比教的低調となっているものと見受けられた。

 今後、住宅を必要とする各層の分析に努め、さらにきめ細かなニーズに応える住宅・宅地のあり方を検討するとともに、民間との住み分けについても十分配慮することが必要と考える。

 

 

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