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Kurt Rosenwinkel Standards Trio in Asia
カート・ローゼンウィンケル・トリオ
"リフレクションズ" ツアー 2010
新宿 PIT INN
2010.3.14 20:00

Kurt Rosenwinkel カート・ローゼンウィンケル : g
Matt Clohesy マット・クロエシー : b
Rodney Green ロドニー・グリーン : ds

◆ 昨年2月にシンガーの Rebecca Martin に帯同して来日した Kurt Rosenwinkel 、今回は待望の本人名義のグループの公演。事情は分からないが、会場はブルーノート東京やコットンクラブなどではなく、新宿のピットインであった。荒涼感の横溢する Kurt Rosenwinkel の音楽には相応しい場所ではある。販売2日目に筆者がゲットしたチケットには56番と57番という番号が付けられていたが、これは良い番号だったのか否か?ピットインの狭い扉を開けると、いつもの座席がステージ前の方に集められていた。一瞬「?」となったが、ギリギリで座ることのできた筆者以降に入場の聴衆は、ほとんど立ち見なのであった。しかも、立ち見の聴衆が扉から溢れ出されそうになり、イスを更にステージ方向にずらす事態に。聴衆は明らかに100人を大きく超えていた。入り口の張り紙に、「休憩時間が20分前後の予定です。ちょっとした休憩には便利です。タリーズ&ドトール・コーヒー(地図付)」「再入場可能」とあり、ライブハウスなのに何なんだろうと思ったが、要するに「立ち見の皆様は大変でしょう」という意味なのであった。

◆ 最新のリーダー作の "Reflections" はギターとベースとドラムスのトリオによる、バラード集のような趣の落ち着いたアルバム。今回も同様の演奏に終始すると思われ、勿論そのような演奏も堪能できたのだが、ライブ盤の "The Remedy" で聴かれるような、炸裂したディストーション的なサウンドでのメカニカルなフレーズの洪水も十二分に披露し、マニアを大いに喜ばせていた。オリジナル曲の演奏はなかったが、"Reflections" のサウンドをベースに "The Remedy" でのアドリブも加えた、彼ならではのライブと言えた。

◆ ギターのリバーブはジャズ・ギタリストとしてはかなり深いが、これが独特の浮遊感をもたらし、コードのブロック奏法の時のサウンドのパサパサ感を和らげる効果をもたらしている。それにしても、Rosenwinkel のエレクターの使い方は妙にアマチュアっぽく、アンプも普通のフェンダーだし、ギター・マニアはこのあたりに親近感を抱いているかもしれない。Pat Metheny のような異常な音質への執念と多額の投資は別格としても、Pat Martino の威圧的音圧、Jesse Van Ruller のアコースティック感とは別種の、独特のゴニョゴニョ感はユニーク。

◆ Rosenwinkel のブロック奏法のパターンは無限にあると思われるほどで、インプロビゼーションまさには圧倒的。密集和音や内声の動きにも配慮が見られ、ここまでアドリブに生かせるようになるには、一体どのくらいの練習時間が費やされたのだろうか?この点だけでも、ギタリストとしての Rosenwinkel は既にバーチュオーゾの域に到達していると言える。また、Pat Metheny や Jesse Van Ruller のように、親指で6弦を押える奏法をかなり多様しており、指の長い西欧人の身体的な特徴を生かしており、東洋人の筆者はうらやましい。単音のソロのユニークさも特筆もので、ギターでは難しい4度と5度の音程の移動も、鍛錬により克服されている。Rosenwinkel のフレーズは通常のビ・バップ系のギタリストのようにグルーブしてはいない。と言うか、彼独自のノリでグルーブしている。ちょっと聴くと無表情で明るくも楽しくもないノリで、「遊び」が無く、求道者のようなイメージを醸し出している。しかし、はまってしまえば快適なものではある。

◆ 多様なブロック奏法とメカニカル・フレーズの無限の組合せが、特に今回のようなトリオの演奏時の Rosenwinkel の特徴であり、ギタリストのとしてグレードは既にジャズ史に刻まれるレベルにある。一度彼のライブを見ればそれは一目瞭然である。ただ、彼としては自己の音楽の研鑽が最優先されていて、商業的な成功や大物との共演に興味がないようにさえ思える(実際はそんなことはないのだろうが)。Kurt Rosenwinkel のアルバムが、「ジャズ100選」と言ったリストに載るなんていう時代は来るのだろうか?ギターというのは最もポピュラーな楽器だが、ギターの真のバーチュオーゾというは本当には理解されていない気もする。Pat Martino にしても、トップのミュージシャンが持ち上げているので、やっとこ一般的な名声もつられて上がっているが、Rosenwinkel は、大物ミュージシャンとの共演もメディアに取り上げられる機会も少なく、今回の来日がキッカケになれば良いのだが、ピットインじゃなー(?)。

◆ Matt Clohesy のベースは細身の身体に似合わずかなり強力、マイクで生音も拾っていた。ギター・トリオのベース担当者としては理想的な人材。Rodney Green のドラムスは伝統的なジャズの奏法で、特にバネが効いたシンバル・レガートが強烈。これもギター・トリオにハマっていた。

◆ 終演が11時近く、急いで帰宅。

★ set list
◆ Back Up
Larry Young 作曲の、キーがFのブルース。 バラード大会どころではなく、最初からエンジン全開。
◆ Ruby, My Dear
ここで、アルバム "Reflections" に収録されているようなアプローチの演奏。見事なブロック奏法でのイントロから、バラードにもかかわらずソロは3コーラスにも及んだ。
◆ Invitation
8分の6拍子でのテーマから始まり、ここでもギターが炸裂。
◆ How Insensitive
Pat Metheny がしつこく演奏している曲で、Pat Martino も演っているが、対抗意識はあるのだろうか?
◆ Like Sonny
ほとんど単音に終始。コード・チェンジの難しさをものともしない。
◆ Cheryl
Charie Parker の C のブルース。
◆ Boplicity
Miles Davis の "Birth of the Cool" に収録の曲。Kurt Rosenwinkel はアルバムなどで "Birth of the Cool" から何曲かやっており、若い頃にアルバムごと研究していたのかもしれない。
◆ Reflections
ここでやっと、アルバム "Reflections" から。テーマからベース・ソロ、その後ギター・ソロが1コーラス終わってテーマを弾きだしたが、ドラマーがブラシからスティックに持ち替えて終わりっぽくなくなり、またソロに戻った(のかもしれない)。
◆ Ana Maria
前曲の Reflections もそうだが、テーマでのブロック奏法はアルバムで聴かれるものとは一味違っており、インプロバイザーとしての能力の高さを見せ付けていた。
◆ Darn That Dream
アルバム "Intuit" に収録されているが、そこではピアニストが入っているので、ここでは当然アプローチが違う。やはり見事な演奏。
◆ Inner Urge
Wayne Shorter の難曲を超絶テンポで。
◆ Sandu
Eフラットのブルース。Jesse Van Ruller も "Live At Murphy's Law" で演っている。両者の違いが面白かった。
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