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新星の名前や分類について その1

★ 初期の新星の名前 ★
 かつては新星は発見された星座の名前で呼ばれ、同じ星座に複数の新星が発見されている場合は第一新星、第二新星のように呼ばれていました(なお星座境界線は1930年に決定されたため、それ以前の新星では現在と所属星座が異なることがあります)。この名前の付け方は1925年まで使われていましたが、それ以降の新星については現在と同様に変光星としての名前が付けられるようになりました。それ以前の新星でも Q Cyg, V Per のようにすでに名前が付いていた天体は現在までそのままの名前で呼ばれています。

 1925年までの新星は後述の総合変光星表(GCVS)第一版(1948)ではまだ変光星の名前は付けられていませんでしたが、その後すぐに命名されたようです。当時の出版物をみると(1925年以前)同じ時期に発見された新星でも変光星の名前のあるものとないものがあり、新星の名前に関するルールはまだ確立されていなかったようです。また当時の変光星表には超新星が新星と同列で並べられており、新星と超新星を区別して呼ばれていなかった時代の名残りがみられます。

★ 変光星の名前の命名法 ★
 現在では銀河系内の新星は他の変光星と区別されず、同じ命名体系が使われています。
 変光星の命名体系は以下のようになっています。
  (1) 所属する星座を決定する
  (2) 同一星座の中での名前は命名順に、

     R, S, T, ... Z,
     RR, RS, RT, ... RZ,
     SS, ST, SU, ... SZ, ...
        (SRのような組み合わせは使わない)
     ...
     YY, YZ,
     ZZ,
     AA, AB, AC, ... AZ, (Aに戻る)
     BB, BC, BD, ... BZ,
      ...
     QQ, QR, ... QZ,(ここまでで334個)
     V335, V336, ...

となります。

なお、2文字の組み合わせのなかで J は I と紛らわしいので用いられません(ドイツ文字ではI と J が同じ書体になるためとも言われています)。
.. AH, AI, AK, AL, ... のようになるわけです。

★ 星座名は属格で ★
 ここで用いられる星座名は属格(所有格、「...の」)になります。いるか座の星座名は Delphinus ですが、正式の変光星名は属格を用いてV339 Delphini となります。星座名には3文字略号がありますが、この略号は属格から作られています。みずへび座 Hydrus の略号が Hyi になったり、や座 Saggita の略号が Sge になるのはこのためです。星座名が複数の単語からなる場合は変化語尾にご注意を。
 またいくつかの星座は複数形(たとえばふたご座が複数形なのは理解できますが、りょうけん座やうお座なども複数形です)なので、あまり馴染みのない語尾が出てくることがあります。
 なお星座名の読み方は本来はラテン語読みとなるべきところですが、多くの人が英語読みないしはそれに近い読み方に変換して読んでいるのが普通です。また星座名の属格を全部読む場合も、省略する場合もありますので、研究発表などを聞く際には注意が必要です。
 例えば SS Cyg は多くの人が「SS シグニ」あるいは英語読みで「SS シグナイ」と読んでいます(「SS シグナス」と読むのは属格でないので間違い)。略す場合は 「SS シグ」 となります。RS CVn は多くの人が 「RS キャンベーン」 と略しています。ラテン語属格の語尾 -ae は英語読みでは「イー」となります。RR Lyr は「RR ライリ」となります(「RR ライラ」は厳密には正しくありませんが、-ae の読み方の一つとして使われることがあります)。 これらは業界用語のようなところもあり、慣れるまでに少し時間が必要かも知れません。

 また、V0339 Del のように書かれるのを見られることもあるでしょう。これはコンピュータでカタログ化のために最近導入されたもので、表記上のものと考えてよいと思います(将来状況が変化するかも知れませんが)。我々は従来から使われている V339 形式の名称を使うことにします。

★ 変光星の名前がなぜ R から ★
 なお、変光星の名前がなぜ R から始まったのかについてはいくつか説があるようですが、それまで星座の星に使われていた名称が Q までだったためとの説が有力なようです。おそらくそれほど多くの変光星が発見されるだろうとは想像せず、1文字で済むだろうと考えられたのでしょう。

★ 特別な名前の変光星 ★
 なお星座によっては小文字が使われているものもあり、南半球の星座ではz などのもっと後のアルファベットも使われていますので若干の注意が必要です。

 また、バイエル名のうちギリシャ文字の付いたもの(α, βなど)がすでに付いている星の場合は新たに変光星名を付けることはなく、その名前で登録されます。この例外は非常に少ないのですが、ο2 Cyg に V1488 Cyg という名前が付けられています。今後はこういう例は発生しないだろうとのことです。またバイエル名が付いている天体でも、分離できる伴星が変光星だった場合には別個の変光星名が与えられるようです(オリオン座トラペジウムの中心にあるθ1 Ori を構成する星に BM Ori, V1016 Ori と2つの変光星があります)。

 またアルファベットのバイエル名のついている星も一般にバイエル名同様にそのまま使われるようです。g Her, u Her, L2 Pupなどが有名です。欧米の変光星観測者団体では変光星名を全て大文字表記にしているところがありますが、この場合はu Her と U Her の2つの変光星を区別できません。大文字小文字を正しく使い分けるようにしましょう。

 変光星名のついた星が二重星で、両方が変光星であることがわかった場合はそれぞれの成分に a, b と付けることがあります(例 CE Cas a, CE Cas b)。このように変光星の命名体系はかなり複雑です。

★ 星座名のつかない変光星 ★
 「所属する星座を決定する」と最初に書きましたが、これも実はそれほど単純ではありません。定義により、天空の任意の点はどこかの星座に属しているのですが、その星座に含まれる変光星でも星座の名前を付けて呼ばれない場合があります。これはその変光星が銀河系以外の他の銀河に属している場合、球状星団に属している場合があります。容易に想像できるように、球状星団の周辺では、問題の変光星が球状星団に属しているのか、あるいはそうでないのかわからないことがあります。このような領域では名前の付け方に混乱が生じている場合もあるようです。

 また AAVSO の変光星カタログ VSX にも球状星団の変光星は含まれていませんので、新変光星を探す場合などは注意が必要です。また散開星団の変光星は星座の星として命名される一方、星団が球状星団か散開星団かの区別も必ずしも明解ではない場合もあり、ここもあいまいさの残る部分です。球状星団で起きた新星爆発(M80の T Sco)もありますが、今後このような天体が生じた場合には球状星団ルールが適用されるのでしょうか。

★ 銀河系外の変光天体 ★
 銀河系外の天体は、歴史的には銀河系の外の天体があると認識される以前は通常の変光星として命名されていました。古い超新星に変光星名が付いているのはその名残りです(S And, Z Cen など)。これらの銀河が銀河系外の天体と明らかになってからはこの命名は行われなくなりました。銀河系内の超新星は現在は通常の変光星の名前が付けられるようです。

 クエーサーや活動銀河のような天体が、正体がわかる前に変光星として命名されたものもあります(BL Lacなど)。これらの名称はそのまま使われていますが、銀河系外の天体であることが明らかなものは現在では変光星の名前は与えられません。

★ 星座境界線と変光星 ★
なお、1930年に星座境界線が決定される際に、それ以前に名前の付いた変光星の所属星座がなるべく変わらないように星座境界線が決められました。星座境界線にみられる不自然な凹凸は変光星が関係している場合が大半です。ただし、この方法は完全でなかったようで、名称と所属星座が異なる場合があることが明らかになりました。この問題は長年懸案事項だったのですが、2006年に「実際に所属する星座に帰属させる」ことに整理されました(IBVS 5721)。この結果、新しい名前と古い名前の2つを持つ変光星がいくつも生まれることになりました(正式名は新しい方の名前です)。
 このような名称変更は過去にもあり、古い名称が欠番になっている天体もいくつかあります。なおこの所属変更後、判定が誤りで正しい所属がもとの星座であった天体がみつかり、元の名称に戻されたものもあります。

★ 変光星の命名作業 ★
 これらの変光星の命名作業は国際天文学連盟(IAU)の委託を受けて、ロシアのモスクワ大学に帰属する Sternberg Astronomical Institute (Gosdarstvennyj Astronomicheskij Institut imeni P. K. Shternberga;ロシア語では GAISh:ГАИШと略されます)が行っています。その結果は総合変光星表(General Catalog of Variable Stars, 略して GCVS,ロシア語 Obshchij katalog peremennykh zvezd, 略して OKPZ)に発表されます。1948年に初版が発行され、その後数年に一度は補遺(supplement)が発行され、その途中で命名された天体はハンガリーのコンコイ(Konkoly)天文台の発行する Information Bulletin on Variable Stars (IBVS) で発表され、補遺がいくつか続いた後に全部の変光星を収めた新版が時々発行される仕組みになっていました。
 しかしこの計画は早い時期から遅れがちで、第4版が発行されたのが1985-1988年で、紙による発行はこれが最後になりました(おそらく今後紙媒体での発行はないでしょう)。その後はソ連崩壊の影響を受けて発行が途絶えました。しかしコンピュータ技術の発展によりカタログの更新は次第に電子化されるようになりました。ここで障害となったのが古い時代に登録された変光星の位置が不正確で、新たに発見された変光星と同一であるか判定が難しかったこと、古く登録された天体のデータの不完全性から登録照合作業が自動化できなかったことです。GCVSチームはこの問題に取り組むため、古い変光星の位置を確認して改訂する大作業にとりかかりました。古い変光星は文献も不十分で、発見写真を調査しなおすなど大変な苦労があったようです。その成果もあり、現在ではほとんどの変光星の位置が確実なものになりました。

 ロシア(旧ソ連)で変光星の命名が行われているのは、第二次世界大戦以前はドイツで変光星命名が行われていたものの、戦後のドイツでの作業が不可能となったため、過去の変光星資料の整理状態が最もよかったモスクワのグループが作業を引き継ぐことになったためだそうです。

 なお GCVS 本体の他に、変光が疑われている天体のカタログ(New Catalogue of Suspected Variables, NSVカタログ)があります。これは星座による区分はなく赤軽順に番号が付けられています。ただし新たに加えられた天体はまた赤軽0hから始まるため、番号に飛びを設けて区切りよい番号から始められています。

★ 変光星命名をめぐる最近の状況 ★
 GCVSチームが古い変光星の確認作業を行っている期間にさまざまな天文学の進展がありました。その中にはヒッパルコス衛星による多数の変光星の発見、重力レンズ探しなどのサーベイ望遠鏡による多数の変光星の発見があり、これらの数があまりに多かったため、発見と確認順に変光星名を付ける従来からの慣習が破られました。ヒッパルコス衛星による変光星はその後まとめて命名されましたが、サーベイ望遠鏡による多数の変光星は現在も未命名のままです。現在では文献に現れた変光星から順次命名されている段階で、近年発見された変光星には追いついていません。このような問題が発生するのは、人工衛星やサーベイ望遠鏡には巨額の費用がかけられている一方で、変光星の登録作業や、太陽系天体や超新星などの登録を行う天文電報中央局 (Central Bureau for Astronomical Telegrams; CBAT) などの財政基盤が限られていて、ほとんど研究者によるボランティア的活動に頼っている背景があります。大規模カタログを生成する事業ではそのごく一部でも変光星カタログ作成のような基礎的な部門にも出資して欲しいとの考えもあるようです。将来も現在と同様な方式で変光星が命名されてゆくのかどうかはよくわかりません。

このように、通常の変光星の命名は文献に報告があってから数年遅れてなされる状況になっています。新星などの場合はそれではあまりに不便なので、CBAT の出版物で公表された新星には優先して名前を付ける協定が1999年に設けられ、V4444 Sgr が最初の適用例になりました(IAUC 7155)。この方法は長らく続けられていましたが、2012年には CBAT 側の混乱により新星の早期の命名が行われない事態が続きました。V339 Del によってこの状態は一段落したようです。