疲れている時も、君が迎えてくれたら僕は幸せです。

     Little Happiness the Future
       夜の幸せ

「ただいまぁ。」

夜遅く、仕事から帰って来た僕はそっと扉の鍵を開けて家に入る。
こっそりとだけど帰宅の挨拶を入れるのはまぁ一種の気分かな。
どうせ返事は返ってこないけど、黙って入るのも何だし。

そんなことを思いながら玄関で靴を脱いで部屋に上がる。
当たり前だけど辺りは静かだった。 はきっと今頃寝室でぐっすりと眠っているに違いない、
起こさないようにと気を遣いながら僕はそっと足を運ぶ。

とりあえずリビングのドアノブに手を伸ばそうとした時だった。

「お帰りなさい。」
「!」

思わぬ声に僕は硬直した。

「? どうしたの、周助さん。」
「あ、、ただいま…」

硬直は取れたけどまだびっくりが止まらない僕は
少し間抜けな返事をする。
どっちかというと驚かせるのは僕の方が多いんだけどな…

「ゴメン、起こしちゃったかな?」
「ううん、そろそろ帰ってくるかなって思って起きてたの。」

言ってはにっこりと笑う。

「そっか…」

パジャマの上に上着を羽織ったままの小さな姿に、
わざわざ出てきてくれて申し訳ないのと嬉しいのとので何だか
僕は不思議な気分になった。

「ご飯は用意してるから。」
「有り難う、頂くよ。」

僕は言ってドアを開ける。
リビングに入ったらも一緒についてきた。

「1人でご飯食べてるから、は寝てていいよ。」

だけどは首を横に振る。

「疲れて帰ってきてるのに1人じゃ何でしょ?」

僕は気にしなくていい、と言おうとしたんだけどはほらほら、と
僕を先に座らせてご飯をよそいにかかる。
は案外言い出したら聞かない。
せめてお茶ぐらいは自分で入れようと僕は急須を引き寄せる。

「あれ、新しい急須にしたの?」
「うん、買い物行ったら見かけたからつい買っちゃった。」
「へぇ、この蓋についてる猫、可愛いね。」
「そうでしょ?」

立って急須に湯を入れながら他愛のない話をしてると、
何故だろう、疲れが少し和らいだ気がする。

「私、猫飼いたいな。」

が僕の向かい側に座って言う。

「でもここ猫とか犬は禁止だからね。」
「もしもの話。もし飼えるようになったら私、茶トラがいいなー。」
「うん、茶トラ可愛いよね。そういえば、越前が猫飼ってたけどあの猫まだ元気かな。」
「きっと元気だよ、飼い主に似て。」
「クスクス、だったらもうおじいちゃん猫だね。」

僕はよそってもらったご飯を口にする。
パジャマ姿のは、テーブルに両肘をついてそんな僕を見つめている。
しばらくは2人とも何も話さず、お箸が食器にぶつかる音や僕がお茶をすする音だけが響いた。

不思議な気分だった。
多分疲れて頭の中も眠くなってるからだと思うけど、今自分が
こうして食事をしていることも、そんな僕を目の前でが見つめている
ことも、ともすれば夢なんじゃないかなって思ってしまう。

朝、目が覚めたら僕はまだ中学生で実家のベッドの中に
いるんじゃないだろうか。

部屋には薄暗い明かりしか灯してなかったから余計にそんなことを
思ってしまう。

「周助さんたら、」

がふ、と笑った。

「何だか夢見てるみたいな顔してる。」
「うん、夢みたいだよ。」

魚を箸で切りながら僕は答えた。

「こうしてを見ながらご飯にしてるのが。」
「夢じゃないよ。」

の手がすっと僕に伸びてくる。

「ほら、ね?」
「うん。」

の指先から頬に伝わるぬくもりを感じながら僕は肯いた。

これは現実なんだ、と確信して。


ご飯を済ませてお風呂にも入って寝床に入ったら、
その日はにかわいい茶トラの子猫を連れて帰った夢を見た。


夜の幸せ 終わり。



作者の後書き(戯言とも言う)

前回から一体どれくらいたってるんだ、私…?
うああああ。(←パニック)

猫と言えばご存知うちの猫商人はもし猫が飼えたら茶トラか
アメリカンショートヘアがいいと言ってました。
優先順位は甲乙つけがたいそうです。


2005/03/19

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