うちのバカ妹は時々…つーかいつも唐突に訳のわかんねぇことを言いやがる。
そのタイミングたるや、滅茶苦茶すぎてムカつくことにビビらされるのはいつも俺の方だ。
今日だってそうだった。


義妹と俺様 ―カーネーション―


その日、俺はいつものように部活を終えて後輩の樺地との奴と
一緒に歩いて帰っていた。
の奴はひどく膨れっ面をしている。
どうせまた、『何でアンタの部活が終わるまで待たされなアカンねん。』
とか何とか思ってんだろう。
だが生憎、どれだけ膨れようが俺の知ったことじゃない。

いつも言ってんだろうが、俺の目の届かない所に行くなって。

何度そう言ったところでこのバカはどうせ聞きはしないだろうが。

そんな訳で今日も3人で帰っていた訳だ。
俺は樺地と主に部活のことで話をしていた。
の方はどうしてるのかって?
別にどうもしねぇ、どうせちゃんとついてきてるのはわかってるしな。
大方、ボンヤリ歩きながら今日の晩飯は何かとか昨日見たアニメが
面白かったとかそんなことを考えてるってトコだろう。
とにかくいちいち相手してやるまでもねぇ。


後ろを歩いていたはずのの足音が聞こえなくなっていることに
気がついたのはしばらく歩いた頃だった。

「跡部さん、」

案の定、気が付いたのか樺地が言う。

「妹さんが…いません。」
「らしいな。」

俺は言った。実際振り向いてみれば姿がない。

「あのバカガキ!」

思わずそう口をついて出る。

「どこに行きやがった。」

しばらく辺りを見回していたら、

「いました…」

横にいた樺地が指を差す。そっちを見ると少し離れた所にある花屋の店先で
バカ妹がしゃがみ込んでいるのが見えた。
何やってんだ、あいつは。
しょうがねぇから俺は樺地を連れての所へ行ってみた。

「何やってんだ、この馬鹿。」
「あ、にーさん。」

声をかけると当のバカ妹は呑気な様子で俺を見上げた。

そんなこの呑気モンの視線をふと辿ってみればバケツに大量に刺さった白い花があった。

「カーネーションか。」
「うん。」

言って妹はもう一度花に向き直る。
眺めていたかと思えば時々そっと花びらに指を触れてみる辺りはまるで子供みてぇだ。
時折花屋の店員が面白そうに見てくるから正直決まりが悪い。

が訳のわかんねぇことを言ったのはその時だった。

「なぁ、カーネーションの白いヤツ、赤インクに挿したら色変わるってホンマかな。」
「何だ、いきなり。」
「んー、何か前に読んだ本にそんなんがあったから。」
「訳がわかんねぇな。」

言うとバカ妹は何でやねん、と呟く。
何でやねんじゃねぇだろ、このバカ。それが普通の中学生がする発想か。
それに本つったってどうせまた下らない類の奴だろう。

「にーさんはどない思う?」
「試してみたらいいじゃねぇか。」

答えるとは、んー、と人差し指の先を顎に押し当てる。
次に口を開いた義妹の答えは至極単純だった。

「やっぱええわ。」
「何でだ。見てみてぇんだろが。」
「だって、」

は当たり前のように言った。

「そのままが一番ええような気がする。」
「ハン。」

馬鹿馬鹿しい、だったら最初から『ホンマかな』なんて言ってんじゃねぇよ。


結局、はその白いカーネーションを2,3本買った。
そして、普段部屋に生花を飾りたがらないこのバカが
それを赤インクの瓶に挿すことは勿論なかった。


義妹と俺様 ―カーネーション― 終わり


作者の後書き(戯れ言とも言う)

昔、立原えりかの『朝ごとの花束』という本をやたら読んでいたことがありました。
そこに収録されているお話からふと思いついた話です。

何で10年以上も経った今頃になって思い出したのか例によって
自分でもよくわからんのですが、やはり子供の頃に目にしたものというのは
後々にずっと影響するんやろな、と思ったりします。

ちなみに白いカーネーションの花言葉は『私の愛は生きている』らしいです。
(参考サイトはこちら

2006/05/07



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