が俺の義妹になってから、部活が始まる度に妙な習慣が出来た。

「部長、昨日妹さんがからまれてましたよ、その後大丈夫ですか。」
「跡部、ええんか。お前んトコの妹、さっき女子に呼び出されてたで。」
「おーい、跡部ー。妹が野郎にからまれてたぞー、一応割って入ってよかったんだよなー?」
「跡部ぇ、昼休みに誰かがちゃんの悪口言ってたよ。ぐぅ。」
「おい、聞いてんのか、跡部。てめぇの激ダサの妹が…」

 ブチッ

「うるせー、てめぇら一遍黙れっ。」

俺が怒鳴ると周りは一発で静かになった。

やってられねぇ。
このところほぼ毎日この調子で義妹のがトラブってるのを聞かされる。
どうも何か勘違いしている馬鹿共がいて、そいつらがにちょっかいをかけているらしい。

まぁうちのも完璧に馬鹿じゃねぇ、意味不明の呼び出しを食らっても
ノコノコついていく訳じゃないし面と向かって何か言われても無視してるようだ。

とは言うものの、毎度毎度部活の時にがからまれたの何だのと
話を聞かされて俺はとうとう短気を起こした。

馬鹿共が何をしようが基本的に関係ねぇが、
俺の身内にちょっかいをかけやがるのは許せねぇ。
馬鹿共にはがこの俺の妹であることをはっきりとわからせねぇとな。

義妹と俺様 ―首飾り―

「それでこれなん、にーさん。」

鏡の前でどうも納得出来ないという風にが首の辺りを弄くった。

「あんだ、文句あんのか。」
「文句って訳でもないんやけど、」
「だから何だ。」

普段言いたい放題言うくせに、時折見せるこの歯切れの悪さには毎回イライラする。
言いたいことがあるならさっさと言いやがれ!

「それでお前が俺の身内だってことがよくわかるだろうが。」
「そない言うけど、」

はとうとうため息と共に言いやがった。

「これじゃまるっきし首輪やん。」
「首輪じゃねぇっ。」

俺は思わず馬鹿妹の頭をはたいた。
の首には、俺が急遽手に入れた首飾りが下がっていた。


次の日、は俺がくれてやった首飾りをつけて登校した。
というより俺がそうさせた。無論、すんなり行った訳じゃねぇ。
朝から駄々をこねるを説得するのはかなり手間取った。
何せこの阿呆と来たら、

「嫌や、首輪したままガッコ行ったら絶対馬鹿にされる。」
「制服にこれは似合わへんって。」
「先生に怒られたらどないしてくれるん。」
「にーさんは許されるかもしれんけど私はきっとアカンって。」
「大体何考えとんねん、この自分勝手。」

文句のオンパレードだ。

「くだんねぇ心配をしてんじゃねぇよ、文句なんざ俺様が言わせる訳ねぇだろ。」
「それ権力の濫用やん。」
「ゴタゴタうるせぇ、使えるもんは使ったらいいんだ。さっさと支度しろ。」

言ったらこの阿呆は首飾りを外そうとしやがったので即刻止めた。

「そいつは外すな。」

凄んだのがきいたのか、はやっとこさ大人しくなった。


つってもこいつは見た目よりも強情だから校門が
目の前に迫っていてもどうも落ち着かないだのなんだのと
ブツブツ言ってやがった。

「やっぱりおかしない?」
「俺様のセンスを疑うのか。」
「いや、別にー。」

どう見ても何か言いたそうな面してやがるな。
本当なら一発お見舞いしてやりてぇが他の生徒の目もある手前、
今は勘弁してやるしかない。
それにそろそろ朝練に来た女子連中が集まってきて騒ぎ始めそうだ。

、先教室に行ってろ。」
「ふぇーい。」

気の抜けた返事をしてはノソノソと校舎に入っていく。
俺はそれを見届けて樺地と共にさっさと部室に向かった。


それで俺は朝練に行った訳だが、行ったら先に来ていたらしい
鳳が飛んできやがった。

「部長、一体どうしたんですか。」
「何の話だ。」
「さっき妹さんに会ったんですけど、珍しく学校に
 アクセサリーつけてきてますよ。」
「それで何で俺に話を振る。」
「いえ、の性格考えたら自分からはつけないだろうと思って。」

喧嘩売ってるのか、この野郎。
しかもこんな時に限ってややこしいのがやってくる。

「跡部ー、妹が首輪つけてるけどどないした。」
「だから、首輪って言うんじゃねーっ。」

ひょっとしてデザインが悪かったか?
今更だけどな。


結局、こいつらには何がどうなったのか
話す羽目になった。

「それでわざわざ?」
「阿呆やろ、自分。」

鳳が呆れたように言って、忍足がこめかみを押さえる。

「あんだ、何か問題あんのか。」
「何ちゅうか、こない愛情表現が下手な奴は
 漫画の中だけやと(おも)てたわ。」
「俺、今部長のイメージが微妙に変わりました。」
「シスコンなんは前からわかってる話やけどな。」

だからうるせぇっつってんだろ。
くそ、やっぱり話すんじゃなかったぜ。
忍足の野郎は俺がを連れるようになった時から人を
シスコン呼ばわりしてやがったからな。

「でもまぁ、いいことですね。」

フォローするように鳳が言った。

の奴、ちょっと部長のこと誤解してたみたいですし。」
「ただなぁ、」

忍足が首をかしげた。

「そんなんで効果あるんか。かえって妹の立場悪なったりして。」
「ハン、んな訳あるかよ。」

俺のやることに間違いがあってたまるか。


その日の放課後、いつものようにがテニスコートにやってきた。
首飾りはちゃんと外さずにつけている。

「今更やけど何で私が部活中のテニスコートに()なあかんのかな。」
「ガタガタ言うな。てめぇは俺の言うことを聞いてりゃいい。」

目を離したらどこへ行くかわからねぇ気がするから。
なんて言えるか、馬鹿妹。

「あ、そうそう、にーさん聞いて。」
「何だ。」
「何か今日は全然からまれんかってん。」
「フン、そーかよ。」

そら見ろ。俺はいつだって正しいんだ。

「せやけど、何かなぁ。」
「何だ。」
「みんながこれ見てぎょっとするねん。にーさん何か仕込んだん?」
「何もしてねぇよ。」

せぇぜぇ兄の力に感謝するんだな。
俺は少しずれているの首飾りを直してやると、
疑わしそうに首を傾げる奴をおいてさっさとコートに入った。

はその後もくれてやったそれを身につけている。

義妹と俺様 ―首飾り― 終わり


作者の後書き(戯れ言とも言う)

皆様長らくお待たせしました。義妹と俺様新作です。
最後に更新したのがどうも5月だったようで毎度毎度半年以上経たないと
何も思いつかないのか、お前はという話ですが。
元々3話目に考えていた話は違うネタだったんですが
どうもうまく行かない中思いついたのがこれでした。
作中の首飾りのデザインはお好きなものを想像していただければ。
ちなみに跡部少年はホントに首飾りに何も仕込んでません。

2006/12/17


次の話を読む
義妹と俺様 目次へ戻る