HONG KONG PUBLIC TRANSPORT TOURISM ASSOCIATION
旅のエッセイ |
息を呑んで立ち止った店 [2005.6.7/001]
旅行最後の香港を離陸する日、いつものようにホテルチェックアウト前の午前は市内をフラフラ歩いていた。この日は少なくとも数十年前の建築になる古い住宅ビルや工場が密集する地域を歩きたくなった。もちろん、ガイドブック類には出てこない地名だ。つまり観光名所となりうる、特別な景色や有名寺院やショッピングセンターなど一切なく、あるのは地元の人たちが日常の食事をしたり買物をしたりする飾りっ気のない店ばかりだ。二階建てバスが走る大通りから一歩引っ込むとその雰囲気は純度を増し、昔のようにパジャマ姿の子どもが走り回っているんじゃないかとさえ思える街の表情となる。
見上げると、両側に聳える建物の隙間が細長い空だ。その両側には、ヒラヒラ風にたゆたう洗濯物や工場の巨大空調機。足元にはゴミや意味不明の部品のカケラ。うぁ、20世紀後半の香港の風景はまだまだ現存していたんだ、と妙な感慨に耽る。
タクシーの行灯、このときHK$20 タクシー後部座席の左側や前席背面に貼ってある
と、こんな風に12時を目指す時計を時々見ながらこの街を歩いていた。似たような地味なビルの根元にはこれまた地味な店舗が色々入居しているのだが、ある店のショーケースが目に入るや私は息を呑んで固まってしまった。「こんなものが売っているんだ」、頭の中でそんなコトバが響く。看板屋なのだがタクシー用のモノが混ざっている。そういえば今過ぎてきた街に自動車修理場もあって、新聞紙をマスキングにして紅い塗装をしているタクシーもあった。業務用の店だからか値段の表示はない。
立ち止って商品見本に見入る妙な客を見つけて、店員が出てきた。
「これはいくらか?」と問う私。
答えは、まず「何故、これを買うわけ?」だった。当然であろう。
まあ、旅の記念ですとか何とか言うと、20ドルであることが分かった。そばにはタクシー乗客向けの料金表ステッカーまであるではないか。嬉しくなって両方買うが、「袋は要るか?」と聞いてくれて出てきたのが透明ビニール袋。うーん、この品物を持って街路を歩きバスに乗るのはちょっと気が引けるなぁ、と思いつつ再びゴチャゴチャした街に出た。
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