月経血を用いた画期的な再生医療の可能性

最新疫学研究情報No.48

再生医療は、細胞の再生能力を生かした新しい医療技術です。身体から特定の細胞を採取して、損傷した組織や臓器などに注入したり移植することにより、それらの機能を修復させようとするものです。再生医療の研究はまだ始まったばかりですが、脊髄などから採取された「幹細胞(※1)」によって、骨・脂肪・神経・筋肉・皮膚など、さまざまな組織が再生することが確認されています。再生医療は、人間が本来持っている自己治癒力を最大限に発揮させる21世紀の夢の治療法として期待されています。

今回、慶応義塾大学と国立成育医療センターの合同研究チームによって、「月経血から採取した細胞が、心筋細胞などをつくる新しい幹細胞として期待できる」という報告がなされました。女性の月経血には、身体の組織に変化する可能性を秘めた幹細胞が多く含まれています。月経血の幹細胞を培養し、人工的に心筋梗塞を起こさせたマウスの心臓に移植した結果、症状が改善されることが明らかになりました。また試験管内の実験では、月経血の幹細胞の20%が心筋細胞に変化し、拍動することが確認されました。一方、骨髄の幹細胞は、心筋細胞への変化が0.2~0.3%にとどまりました。月経血の幹細胞は、骨髄や他の組織のものと比べ増殖能力が高く、採取する際に痛みも伴わないことから、海外でもその研究が進められています。

※1幹細胞は、皮膚・骨・神経などをつくる元となる細胞で、周りの環境に応じて必要な組織や臓器に変化する性質があります。幹細胞は、皮膚・血液・歯根など身体の組織に備わっている「体性幹細胞」と、受精卵から人工的につくられる「ES細胞(胚性幹細胞)」の2つに区別されます。体性幹細胞の中でも特に骨髄や月経血などから採取される間葉系幹細胞は、心筋・皮膚・肝臓などといった組織にも変化する能力が高いことが確認されています。またES細胞は増殖能力がとても高く、ほとんどの組織に変化できることから「万能細胞」と言われていますが、受精卵からつくられるため生命操作など倫理的な問題を抱えており、その研究は国によって法律で規制されています。そうした問題を克服するために、最近では、皮膚の幹細胞にES細胞の遺伝子を組み込んだ「iPS細胞」の研究が進み、新型の万能細胞として世界中の医師や専門家から注目されています。

出典

  • 『Stem Cells Online版 2008年 4月17日号』

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