ノンストップヒーロー!
             第6話
 


「たっだいま〜!」
 
「・・・何だ、帰って来ちゃったんだ、カノト」
 
「つーか、ここはお前の家じゃねぇだろーが。」
 
言わずもがな、の、ギルの豪邸に、
たまたまレアンが遊びに来ていた時だった。
胸に赤いハートを抱え、カノトが上機嫌に家の中に入ってきたのだった。
 
「ねぇねぇ、見て!ほらっ!」
 
カノトがギルとレアンに、胸に持っていた赤いハートの中を見せるように、
2人の前に突き出した。
変に思いながらも、好奇心に押され、ギルとレアンはそのハートの中を覗き込むと、
 
『・・・・おい。』
 
カノトに冷たい声を放ちました。
 
「えー?いいでしょ?」
 
「よかねぇよ!今すぐ有った所に返して来い!」
 
「って、言うかおばさん。これは誘拐って言うんじゃないの?」
 
「違うわよ。自ら飛び込んで来たんだもの。」
 
「おい、中の奴が横に首振ってるぞ。」
 
「やっぱり誘拐じゃないか」
 
「ちがうもーん!」
 
『いいから、返して来い!』
 
「いやー!」
 
こうして、穏やかだった、ギルの家のリビングは
カノトの登場と共に、一気に騒がしくなりました。
 
 
 
丁度その頃・・・。
 
 
「カイン、カイン!起きてよ!」
 
「・・・ラティス?・・・ここは・・・?」
 
薄暗い地下牢のような場所。
何処かかび臭い匂いと、水の跳ねる音しか聞こえない静かな場所で、
カインとラティスは目を覚ましました。
 
「わかんない。俺たち、さっきまで買い物してたんだよね?」
 
「ああ。そうだよな、それで、たしか声が・・・。」
 
「目を覚ましたか。」
 
カインのものでも、ラティスのものでもない、低い声が暗い牢屋に響いた。
2人がその気配に驚きつつ、素早く顔をそちらに向ければ、
鉄格子を挟んだ反対側に、黒い長い髪をした男が立っていた。
 
「アーク・・・。」
 
鉄格子の反対側に立つ男の名を、カインが呟いた。
 
「え?知り合い?」
 
「馬鹿か、こいつは悪の秘密結社の一人だぞ?」
 
「ええ〜!!?」
 
驚いたラティスの大きな声も聞こえないのか、無表情のまま、
アークは鉄格子の扉を開くと、二人を外へと出した。
 
「カイン、一体カノトと言う奴は何なんだ?」
 
「へ?何かやらかしたか?あいつ。」
 
「こっちの者を一人連れ去って行ったぞ。」
 
「へぇ、そりゃ、カノトならやりかねねぇな。」
 
当たり前のように、二人並んで歩き出す姿を見つつ、
ラティスが困惑気味に、2人の後をついて行きます。
 
2人が連れてこられたのは、いつぞやの応接室、もとい団欒室だった。
 
「うわ〜、赤い絨毯だ〜・・。」
 
「ラティス、机の上にクッキーがあるぞ。これ、食べて良いのか?」
 
「さあ?置いてあるのだから良いのだろう。
それより、本題に入るぞ。」
 
イスに座るアークとカイン。
そして、座ると同時にクッキーに手を伸ばすラティス。
 
ぱりぱりと、美味しそうな音を立てるラティスには見向きもせず、
アークは正面に座るカインに、事の次第を説明しだした。
 
「ようは、取引だ。
私は知った事ではないが、リーヴァとキュアンがハクロを助けるためにそちらへ向かった。
あの2人を同時に失うのは、こちらとして控えたい。
だから、こちらと向こうとで取引をしよう。」
 
「つまり、人質と人質の交換?」
 
「そうだ。クガイにはリーヴァとキュアンに説明をしに行ってもらった。」
 
「向こうには、どうやって伝えるんだ?」
 
「伝言は、そこの子供を使う。お前が人質だ、カイン。」
 
アークとカインが二人して、クッキーを食べつづけているラティスに目を向けると、
2人の会話が聞こえないことは無い筈の位置にいるのに、
ラティスは聞こえないかのように、クッキーを次から次へと食べている。
ふと、2人の視線を感じたのか、ラティスは顔を上げると、
 
「これ、美味しいね!」
 
と、フードの下で笑った。
 
 
「人質の交換を、カノトに言えば良いんだよね?
でも、カノトの事だから、カインが帰ってこなくても別に構わないって、言うんじゃない?」
 
「もし、そうだったら、上手い具合にカノトからハクロ救出してくれ。
だぶん、ギルもレアンも協力してくれるだろうさ。」
 
「うん。分かった。やってみるね。」
 
「気をつけろよ。」
 
はっきりって、カノトが悪のような言い方である。
 
自覚しているのかいないのか、二人は以外と真面目な様子だ。
 
「それじゃあ、俺、戻るな。
・・・そうだ、カイン。」
 
「ん?」
 
「この人とどう言う関係なの?」
 
ラティスが下から、カインに問えば、
カインは何時もとは違う笑みを浮かべ、
 
「さあ、何だろーな?」
 
と、言った。
 
何だか、これ以上の追求を拒否されたような感じがして、
ラティスは、顔を顰めたまま、ギルの家に帰っていきました。
 
 
 
 
 
 


           帰る。    進む。