ノンストップヒーロー!
             第2話
 


「逃げ帰って来た?向こうに一撃も加えず?」
「すまない、何故か異様な物に襲われそうになって・・・。」
「情けないな。」
 
 
くら〜い部屋の円卓に、一つぽつんと置かれた蝋燭の明りだけを頼りに、
悪の秘密結社では恐ろしい話しをしていた。
 
「それより、今回はどうするつもりだ?
何時までも、向こうの遊び相手をしているわけではないんだろう?」
「ああ、てめぇの言う通りだな、キュアン。
ここら辺で一つ、悪者らしい事でもしようか?」
「何をするつもりだ、クガイ?」
 
「まあ、悪者っていやぁ、定番だよな。」
 
 
 
 
「あ〜!また負けた!」
 
大きなゲームミュージックがあちこちで流れている、ゲームセンター。
正義の味方、らしい ギル・カイン・レアンの三人は、学校がえりにここで遊んでいる様だ。
「ちぇっ、音感ゲームだったら、負けないのに。」
「悪かったな、音感なくて。」
「俺は、シューティングゲームの方が好きだし、これ飽きた。」
「まって!後一回だけ!」
「下手の、もの好き。」
「ギル、五月蝿い。」
 
一つのアーケードゲーム機を挟み、ギルとレアンが火花を散らし、
カインが後ろからつまらなそうに、それを眺めている。
どっから、どう見ても、普通の学生たちの風景だ。
 
彼らが、正義のヒーロー。
もとい、昨日 幼稚園バスをハイジャックした人物達だと、誰が考えようか。
  
レアンが何度目かの敗北を勝ち取り、大きな溜め息と共に席を立とうとした時だ、
彼らの付けている、嫌にゴツイ腕時計が揃って震え出した。
 
『げっ・・・。』
 
それは、司令官からの正義のヒーロー達への合図だった。
  
ゴツイ腕時計に呼ばれ、ギルの家に集まった5人は、
送られたビデオテープをデッキに入れ、現われた映像を見る為、それぞれ寛いでいた。
「あ、私カフェオレ。」
「自分でやりやがれ。」
「やだ。人の家の台所勝手に弄れないでしょ?ギル、何故か料理上手なんだから良いじゃない。」
 
「良かねぇよ。」
「ギルもカノトも、遊んでないでテレビの方に来なよ、始まるよ?」
 
リモコンを片手に、今日も顔の見えないラティスがギルとカノトに声を掛け、
2人が丁度、画面に顔を向けた時だった。
『やあ、久しぶり、諸君。』
濃い、茶色い髪をした、まだ少し幼い少年が画面に現われた。
 
「今時、「諸君」なんて言わないよ、ケアル。」
 
『レアン、きっと今俺に向かってつっこんだろうけど、気にしないで進めるから。』
ケアル、と呼ばれた画面の中の少年は、レアンのパターンを上手く読み取り、
上手に受け流した後、5人に向かい、話しを始めた。
 
『さっき、町中で銀行強盗あってね、まあ、要するにやっつけて来て欲しいんだけど。
場所はそこから近いから、大丈夫だね。
それと、何故か今回、向こうは大物4人が揃ってるみたいだから、気をつけてね。』
あっけらかん、と世間話でもしているかのようなケアルの口調に、
しばし、5人が固まった。
「え?大物4人ってどう言うこと?」
 
ラティスが、そう呟くのと同時に、
ニコニコと、画面の中で笑っていたケアルが、優しい笑みを浮かべながら最後の言葉を紡いだ。
『なお、お決まりの通り、このビデオは再生が終ると同時に爆発するから。』
『!!!??』
 
5人が、くもの子を散らす様にその場から離れるのと同時に、
司令官からのビデオが無情にも終りを告げた。
 
 
 
「・・・クガイ、正義のヒーロー達を倒すのと、この銀行強盗とはどう繋がるんだ?」
 
銀行強盗に襲われた銀行では、
カウンターの上に座り、片足を立てて寛いでいる黒髪のクガイと、その側に立つ銀髪の男、リーヴァがいた。
 
銀行の内部に続く廊下には、転々と人が転がっているのを見れば、
別の仲間は奥の部屋に行っているのだろう。
 
「繋がり? 楽しいからに決まってんだろーが。
邪魔者は排除できて、金も手に入る。一石二鳥だろ」
 
「・・・・。」
 
楽しげにクツクツと笑うクガイに、リーヴァが顔を顰めつつ、発言しようとしたその時、
 
がっしゃーん!!
と言う派手な音ともに、それぞれの色に染められた変身スーツに身を包んだ5人の人間が現われた。
 
「悪の秘密結社の人間め!俺達が来たからには、もう好き勝手させない!」
他の4人に比べ、頭2つ3つ低い、緑色の変身スーツとヘルメットを被ったラティスが、
ビシッとクガイとリーヴァに指を立て、声を上げた。
「そうよ!私達が来たからには、例え相手が美形であれ、容赦はしないわよ!」
ピンクのスーツに身を包んだカノトがそう言えば、
 
「おばさん、観点が違うと思うよ。」
と、隣に立つ、黄色のスーツを着たレアンがすかさず突っ込みを入れた。
 
「今日は、変身スーツを着ているのか、大変だな。」
「まあ、場所が町中だからな。」
 
リーヴァの率直な感想に、青のスーツに身を包んだカインが、溜め息混じりに答えた。
 
「ああ、そうだ。」
 
忘れていた、とばかりにレアンがカウンター前にいるクガイとリーヴァに声を掛けた。
 
「今日のうちのリーダーはヤバイから、気をつけてね。」
 
「は?」
 
リーヴァが首を傾げるのと同時に、黒い変身スーツに身を包んだギルが、
クガイに向かって飛び出していった。
 
変身スーツには不釣合いのバスターソードを振り上げ、楽しそうにそれを見遣るクガイに振り下ろす。
「な、何なんだ?」
 
何時もとは違う、どす黒い空気を纏っているギルに、リーヴァが驚きの声を上げる、
クガイは空中から大きな鎌を取り出すと、ギルと対じし始めている。
 
「まあ、可哀相だよな。この寒空の下
行き成り家無しにされちゃあ、誰だって切れるよな。」
「そうそう。きっとビデオに仕組んだ火薬の量が多かったんじゃないの?」
「俺達、皆別の人と住んでるから、そうそう、家に泊って良いよ。って言えないし。」
「運が悪かったと、考えるしかないわね。」
腕を組み神妙に頷きあう、4人の正義のヒーロー達に、リーヴァは訳も分からず首を傾げるだけだった。
 
 
「はあぁ!!」
流れる様に、バスターソードを振るうギルの攻撃の全てを、クガイは大鎌の切っ先で受け流していた。
「・・・所詮この程度か。」
 
「黙れ。貴様らの所為でっ・・・!!!」
「大切なものでもなくしたか?」
「今日からの寝床を如何してくれるっ!!」
「・・・・・。」
 
後にも先にも、きっとこの時にしかチャンスはなかったのだろう。
 
クガイの肩の力が抜けたその瞬間。
 
「ギル!避けなさい!!
ダサヒロイン魔法!発射!!」
 
何時の間に持っていたのか、カノトの持つハートのステッキから七色の光が、
真っ直ぐにクガイに向かい伸びていく。
しかし、その光は途中で何かに弾かれ、起動を反らされて何もない壁にぶつかった。
 
「そう易々と、見逃すはずが無いだろう。」
リーヴァの冷めた声がカノトに突き刺さった。
「・・・そう。前回はアレの前に逃げたくせに。」
 
「あれに当たらなければ、良いだけの話だ。」
カノトとリーヴァの間に、冷たい火花が散っているような感じを受けつつ、
 
「如何しようか、僕達。」
「とりあえず、中にもいるみたいだから、そっち行ってみる?」
「そうだね。」
レアンとラティスは、てってっと、店の中へと小走りに走っていった。
 
「・・・・・・。」
 
そんな仲間の様子を横目に見つつ、
カインは最初の場所から動かぬまま、携帯電話を取りだし、
何処かに掛け始めた。
 
「あ、俺。 ・・・うん。そう、近くにいるんだけど。 ・・・そうそう。
うん。 悪いんだけどさ・・・ うん。 ありがとう。
今度お礼するよ。 うん、じゃあ。」
 
ピッ! っと携帯電話を切り、
心の中で数える事、丁度3秒。
今の今まで睨み合っていた、クガイとリーヴァの姿が跡形も無く消えた。
 
「?」
「えっ?消えた・・・?」
 
突然のことにギルとカノトが驚きの声をあげ中、
「そんじゃ、中に行くか。」
 
カインの普段と変わり無い声が、違和感を残しつつ響いた。
 
 
「あ、いたいた!レアン、ラティス!どう?お金取られて無い?」
 
半開きになっている大金庫の前、
キョロキョロと辺りを見まわしている、レアンとラティスを見つけたカノトが、
2人に声を掛けつつ、小走りに近づいた。
 
「いや、お金は取られてないんだけどさ・・・。」
「敵がどこにもいないんだ。」
 
何だか寂しそうなレアンとラティスの声の後に、カインが怒りの収まったらしいギルに声を掛けた。
 
「そんなことよりギル。どうせだからここのお金貰って、新しい家でも建てたら?
爆弾くらい何てこと無い、丈夫なやつ。
その方が俺らも安心だし。」
 
カインのとんでもない発言に、正義のヒーローたちは、
 
『あ、それ良いね。』
 
と、声をそろえたそうです。
 
 
数日後、町から少し外れた場所に
不景気の中、豪邸が建てられたのは、有名なお話です。
 
 
 


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