ノンストップヒーロー!
             第1話

「私達の親睦を深めるために、ピクニックに行きましょう!」
そう言ったのは、一番の年長者で、紅一点のカノトだった。
それで何故だか、いつものメンバー5人はピクニックに来ていた。
 
 
「何で、こんな事になっちゃたのさ・・・。」
 
ぶつぶつと文句を言いつつ、リュックを背負って歩いている、
亜麻毛色の長い髪を結わいた青年、レアンと。
 
「仕方ないよ。カノトが言い出した事だもん。
逆らったら、「死」だよ?」
 
深緑色のローブを深く被り、小さい体でもくもくと歩いている少年
ラティスと。
 
 
「冗談じゃねぇ、単なる荷物持ちだろ、俺ら。」
 
クリーム色の髪をした、手提げ袋を肩に下げ歩いている青年カインと。
 
「普通の戦闘よりつかれんな。
・・・山登って、飯食っただけなのに・・・。」
 
一応このグループのリーダーである、茶色い髪をした青年ギルは、
 
鼻歌を歌いつつ、手ぶらで山を下っていく薄茶色の髪をしたカノトを、
少々怨みを込めた目で眺めていた。
 
 
 
この、一旦何の変哲もない彼らは、
なんと世界の平和を守る正義のヒーローだったりするから驚きだ。
 
この世の何処かに存在すると言われる、
悪の組織から、世界を守るのが副業だ。 
 
じゃあ、いつもは、何をしているかというと、単なる学生だったりする。
 
 
「あー、疲れた。電車で帰るのも面倒だね?」
「お前が、電車で来たいって言ったんだろーが!」
 
山から下り、車道の端にしゃがみ込んでそう言ったカノトに、カインが突っ込む。
 
「確かに、俺、疲れた・・・。」
「ヒッチハイクでもして、どうにかする?」
 
最年少で、一番体力がないラティスが、疲れた声を上げれば、
レアンが、何も通らない車道を眺め、そう言った。
 
「何も通らないねー・・・。」
 
「おい、あれはどうだ?」
 
溜め息を共に、カノトが言った言葉のすぐ後に、
ギルが、こちらに向かって進んでくる一台の車を見つけた。
 
 
「あー。幼稚園バスじゃん。乗れんの?」
「普通は乗れねぇだろーな。」
「普通じゃなければ?」
「乗れるだろ。」
 
ギルとレアンの会話を聞いていたカノトが、「よいしょ」 と立ち上がる。
 
「それじゃ、無理やり乗っちゃいましょう。」
 
 
こうして、幼稚園バス、ハイジャックが起こったりしたのだ。
 
 
小さい子供たちの悲鳴が木霊する、幼稚園バス。
その泣き声に、苛立ちを募らせているギルは、
イライラとしながら、運転手の見張りをしていた。
 
「ほーら、怖くない、怖くない!」
 
と、慰めてはいるが、どうして良いのか分からないカノトは、ずっと
園児達をあやし続け、
 
「後、どのぐらいで着く?」
「さぁ?向こうついたら、即効で解散だろ?」
 
レアンとカインは、空いているイスに座り、持ってきたトランプをしながら
暇も持て余し、
 
「ZZzz・・・Zzz」
 
ラティスはこの騒ぎの中、深い眠りについていた。
 
「おい、もうすぐ町中に入るぞ。準備しとけよ。」
 
しばらくして、運転席からのギルの声に皆が動き出そうとした時だ、
それは唐突にバスの前に現われた。
 
「見つけだぞ!幼稚園バスハイジャック犯!今すぐにバスを止めて出てくるんだ!」
 
「あ、マトリだ。」
「何?知り合い。」
「知り合いっつーか、・・・まあ、顔見知り?」
「お前の知り合いなんか知るか。轢き殺せ。」
 
子供の泣き声に、イライラ度が溜まっていたギルは、
マトリの出現についにプッツンしてしまったらしく、
いやに冷めた目で、運転手にそう告げた。
 
「おい!止まれって!とーまーれー!
止まれー!! おい、ちょっと待てよ!おーい!!」
 
むぎゅ。
 
バスは何か柔らかいものを踏みつけながら、
速度を落とす事無く進んで行きます。
 
「・・・・。大丈夫なの、アレ。」
「マトリなら、平気でしょ。前に鈍器で殴られて一瞬で甦ったの見た事あるし。」
「ねぇ、さっき、何か踏んづけなかった?このバス。」
「そんなことより、前を見ろ。客が来たぞ。」
 
運転席の隣に集まった4人の前方に、
道路の真中に静かに立つ、銀の長い髪をした男を見つけました。
 
男は、チラリと、バスを確認すると、
こちらに向かって魔法を放ちました。
 
『げっ!』
 
ばすんっ!!
と、鈍い音を立ててバスのタイヤは破裂し、酷い振動と共に、バスは急停止しました。
 
「いった〜・・・。何なのよ!」
「あ、ラティスがもがいてる。」
 
頭を押さえるカノトと、イスから転げ落ちたラティスを救助しているレアンを残し、
ギルとカインは、楽しそうにバスを降りていきました。
 
「また、現われたな、悪のヒミツ結社。」
 
「お前立ちこそいい加減にしろ、正義のヒーロー。」
 
「2対1で敵うと思ってんのか?痛い目に逢いたくなかったら、
さっさと帰って上に伝えな、いちいち顔出すんじゃねぇ、ってな。」
 
「だったら、お前が直に伝えたらどうだ?」
 
銀髪の男と、ギル、カインの間に冷たい火花が散ります。
まさしく一色触発の雰囲気です。
 
すると、お怒りになられたカノトがハート型のステッキを持って、現われました。
「私達は、疲れてんのよ!さっさと、家に帰って寝たいのよ!
だから、今回ばかりはすぐ帰ってもらうんだから!」
 
そう言って、ハート型のステッキをクルクル回すと、
 
「世にも恐ろしい、ダサヒロイン魔法!受けてみよ!!」
 
掛け声とともに、七色の光がステッキから溢れました。
 
「なっ!?」
 
銀の髪をした男は、その光に恐怖を感じたのか、
光が自分に迫る直前に、自力でその場から逃げていきました。
 
七色の光が通ったその道筋には、ハートマークが散らばってます。
 
「っち、逃げられたか、せっかくの得物が・・・。」
 
「おい、得物って何なんだよ、カノト。」
 
「ううん。何でもない。さあ!帰りましょうか。
町も近いし、ここからは歩いて行きましょうか?」
 
 
こうして、小さな戦いと大きな恐怖を残し、
正義のヒーローたちはゆっくりと去っていきました。
 


           帰る。    進む。