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兎眼(顔面神経麻痺)への鍼灸施術  2023年11月20日Web公開版

2023年11月5日(日) 第39回 「眼科と東洋医学」研究会 ZOOM開催  千秋針灸院 春日井真理 

・解説内容については、当日参加いただいた先生方にスライドを交えて報告した内容を、広く一般の方に分かり易くお伝えするために
大幅に補足しています。当日は限られた時間のためにお伝えできなかった部分も含めて、完成版として見ていただけたら幸いです。


・自然回復を待つしかなかった、兎眼・顔面神経麻痺への鍼灸治療による改善や予後を明らかにした統計症例報告になります。

・今回も一昨年、昨年に続いて『眼科と東洋医学』研究会はZOOM開催となりました。
・顔面神経麻痺や外傷、手術後遺症などにより、片側の閉眼ができない状態を兎眼といい、ドライアイ、流涙等の閉眼不全に伴うを症状があります。
・兎眼は眼科領域になりますが顔面神経麻痺は耳鼻科領域であり、医療機関では初期は減圧術等が検討されるものの、その後は経過観察になります。
・兎眼や閉眼不全を伴う主に顔面神経麻痺への針灸治療により、兎眼や閉眼不全に伴う症状の改善に繋がることを明らかにした統計症例報告になります。


・当院で継続して1ヶ月以上の鍼灸治療を行った52症例を対象としています。

対象は外見上の兎眼や閉眼不全に伴う症状があり、当院で鍼灸治療を行った52症例で、ベル麻痺37例、ハント麻痺12例、術後後遺症3例になります。
・発症後4週間以内の早期に鍼灸治療を開始できた症例が22例、また半年以上経過してから鍼灸治療を開始した症例は8例です。
・鍼灸治療を検討される患者さんは全般に重症や中等症が多く、回復が進まず後遺症が残る可能性を心配して来院される傾向があります。


・中医学では左右両側の取穴が基本ですが、顔面神経麻痺では患側顔面部に限り集中的に鍼灸治療を行います。

・ディスポーザブル(使い捨て鍼)で、うつ伏せの姿勢から頚肩部や背中、腰にかけての顔面神経麻痺に関係するツボに針治療をしていきます。
・仰向けでは手足や患側顔面部に針をします。顔面部は直径0.14ミリ以下の特に細い針を使い、顔面部での内出血等を大きく減らしています。
・顔面神経麻痺の回復は部位による個人差もありますが、回復が遅い部位へ針治療を集中することで、回復の遅れを取り戻すことも目指します。


・初登場の温灸はなんと廃番品。患側顔面部をしっかり温め血流を良くして回復を促します。

・患側顔面部への針治療に続いて、手拭いの上からMT式温灸器(廃番品)で、患者さんが少し熱さを感じる程度に10分程の温灸を行います。
・顔面神経麻痺の発症後、4週間以内は発症時の炎症やステロイド治療を考慮して温灸は行いません。
・治療間隔は回復状態をみながら、概ね発症から半年以内は週1~2回、以降は週1回以下として、発症から最長1年程で治療は終了します。



・デジタルカメラで閉眼の状況を含めた顔面神経麻痺の状態を客観的に確認しています。

画像により回復状況を患者さんと確認しながら治療を進められ、回復の遅い部位に治療を集中し部分的な遅れを取り戻せることの確認もできます
・顔面神経麻痺の回復傾向として、兎眼・閉眼不全はやや早い時期に改善・治癒するものの、口元の回復が遅くなる傾向もあり課題となっています。


・兎眼・閉眼不全に伴う諸症状の有無や、耳鼻科での柳原法(40点満点)の評価を参考にしています。

・眼の自覚症状としては眼の乾燥感や眼痛、流涙が多く、顔面神経麻痺では飲食物がこぼれる、話し難さ、患側頬部の張り等、多岐にわたります。
・自覚症状が全て消失していれば治癒、症状が残存していれば改善もしくは不変としています。回復時に生じる軽微な共同運動は除外しています。
・耳鼻科受診時の柳原法の結果については、全ての症例で聞き取れてはいませんので、一部の方に限られます。


・完全麻痺(重症)の顔面神経麻痺の症例をご紹介します。

・初回の治療時は発症から約4週間が経過していました。柳原法は4/40点、筋力4.5%であり、自然な完全回復は困難な状況です。
・重症のケース程、発症から早期の鍼灸治療の開始が望ましいのですが、実際には発症から数ヶ月経過してからの来院が多くなっています。
・経過観察だけで自然な完全回復が期待できる状況は、柳原法なら概ね発症後1週間時点で12点以上、1ヶ月で20点以上は必要になります。


・今回は眼科の報告ですので兎眼の画像だけですが、顔面神経麻痺では患側全体の回復具合が良く分かります。

・発症当初の閉眼不全は7月2日までに閉じ方は弱いものの閉眼は可能になり、9月30日に症状を含めて完全回復が得られたため終了しています。
・9月20日には柳原法40点で治癒の診断となり、耳鼻科での経過観察も終了しました。
・今回は完全な回復が得られましたが、外見上は治癒でも違和感や病的共同運動が残り、発症から半年以上経ってから初めて来院される方もあります。


・当院で治療した52症例の兎眼・閉眼不全の予後になります。

・兎眼・閉眼不全については画像で確認できる27症例の内、25例で治癒(92.6%)、一部残存は2例でした。
・眼の症状は52例中、全ての症状が消失した治癒例は45例(86.5%)、乾燥感など一部症状の残存は7例です。
・回復に伴い生じる軽微な共同運動は除きますが、外見上は兎眼は概ね治癒し、眼の症状も比較的高い割合で治癒していることが分かります。


・兎眼・閉眼不全を含めた顔面神経麻痺全体の予後になります。

・難治とされるハント麻痺は12例中、治癒3例、改善5例、不変4例でした。不変の4例は発症から半年超の長期経過例が3例、早期中断が1例です。
・ベル麻痺37例では治癒18例、改善16例、不変3例でした。不変の3例は発症から半年超の長期経過例が2例、10日に1回以下の治療不足が1例。
・その他は3例で、歯科治療後発症の1例は治癒、顔面けいれん手術後後遺症の1例は改善、顎関節手術後後遺症の1例は改善の結果でした。


・発症から鍼灸治療を開始した期間別で予後を検討した結果になります。

・発症から4週間以内の早期に鍼灸治療を開始できた22症例は、重症例を含めて治癒15例、改善7例(内3ヶ月以内に中断3例)、不変0例でした。
・発症後半年超の長期経過後に鍼灸治療を開始した8症例では、治癒0例、改善3例、不変5例と明らかに回復の予後は悪いことが分かります。
・過ぎた時間は誰にも戻せません。特に回復具合が思わしくない場合、回復可能期間内は最優先で鍼灸治療への取り組みをお勧めします。



・顔面神経麻痺は適切な時期の鍼灸治療により大幅な改善が可能です。回復可能な時期を逃さないよう取り組みましょう。

・顔面神経麻痺では女性は回復可能な期間は、できる限り改善させたいと鍼灸治療を頑張って完了される方が多い傾向です。
・男性では兎眼の治癒後からは麻痺が残っていても仕事などで中断される方があり、その後は回復せず麻痺は永続する可能性が高くなります。
・鍼灸治療の有無に関わらず回復期間中は無理をせず体を休めることや、ストレスは発散させるなど自然な回復力を妨げないことが大切です。
・新型コロナ感染症やワクチン接種後に、帯状疱疹ウイルスが活性化することで発症するケースも目立ちます。免疫の低下に気を付けましょう。

・今回の報告に尽力いただいた竹田眞先生をはじめ、「眼科と東洋医学」研究会の眼科医の先生方、ご協力いただいた患者様、
千秋針灸院のスタッフ、支えてくれた家族や提携治療院の先生方、応援していただいた皆様に感謝いたします。


Copyright © Chiaki. All Rights Reserved 2023.11.20 

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