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糖尿病網膜症への鍼施術と視力変化  2021年6月4日Web公開版

2021年5月23日(日) 第37回 「眼科と東洋医学」研究会 ZOOM開催  千秋針灸院 春日井真理 

・解説内容については、当日参加いただいた先生方にスライドを交えて報告した内容を、広く一般の方に分かり易くお伝えするために
大幅に補足しています。当日は限られた時間のためにお伝えできなかった部分も含めて、完成版として見ていただけたら幸いです。

 鍼治療による糖尿病網膜症の視力改善を明らかにした統計症例報告です。

・昨年からの新型コロナウイルス感染症の蔓延により、『眼科と東洋医学』研究会も延期となっていましたが、ZOOMで開催されることになりました。
・今回は糖尿病網膜症の患者さんで鍼治療による視力変化を捉えて、視機能の改善や維持に繋がることを明らかにした統計症例報告になります。

 今回は6ヶ月以上の鍼治療を継続された25名48眼を対象としています。

対象は6ヶ月以上の鍼治療を継続できた25名48眼を対象として、治療開始前と6か月後の比較やHb-A1c値による変化の差異を検討しています。
・糖尿病網膜症への眼科的治療としては、以前に汎網膜光凝固(レーザー)、抗VEGF硝子体内注射(アイリーア等)が行われた症例を含んでいます。

 治療の中心となる経穴は不変ですので、毎年同じスライドになります。

・ディスポーザブル(使い捨て鍼)を使って、うつ伏せの姿勢から頚肩部や背中、腰にかけての目に関係するツボに針治療をしていきます。
仰向けでは手足や眼の周囲に針をします。目の周囲は直径0.12~0.14ミリと特に細い針を使い、目周囲での出血等を大きく減らしています。
・8歳位の子どもさんから様々な眼の症状・病気に針治療を行っています。乳幼児は鍼よりも効果は弱まりますが、小児打鍼法で対応できます。

 視力測定は当院の液晶視力表で、患者さん持参の眼鏡等によります。

・一般に眼科で使用される視力表は指標を背面から照らしますが、指標毎に位置が変わり患者さんが指標を探すだけでも時間がかかります。
・当院の液晶視力表では指標が中心に固定されるため、指標の位置を探すことによる時間切れにより、低視力と評価される心配はありません。
・糖尿病網膜症では視界の中心付近に暗点や歪みを生じていることも多いのですが、意外にも問題視されていないことに違和感を覚えます。
・当院では視力測定は針治療の前に行いますが、治療前が最も前回からの期間が空くことにより、実際の視力を反映していることが理由です。


 少数視力の評価は2倍か半減値、正常視力(1.0)到達を採用しています。

・評価の基準となるLogMar視力の変化について、眼科では一般に±0.2以上の違いを有効・悪化とします。今回は±0.3以上を改善・悪化としました。
・LogMar視力で+0.3の改善とは、簡単に言えば少数視力の2倍に相当するもので、例えば少数視力0.5から1.0、0.2から0.4への改善等を意味します。
・例外として治療開始前視力が0.6~0.9の場合は2倍値でなくても、6か月の治療後に正常視力となる1.0へ到達した場合(4眼)は改善としています。


 半数弱で視力は正常(1.0)もしくは2倍値以上に改善しています。

・鍼治療開始から6か月後の少数視力は46.2%で2倍値以上もしくは1.0以上への改善を示し、48.7%で維持、5.1%で悪化していました。
・LogMar視力の±0.3は、糖尿病網膜症の視力評価で国際的に用いるETDRSチャートの15文字に相当しますので、今回の報告は様々な臨床試験と
ある程度まで比較・参照することも可能です。(視力評価の方法や対象は同一ではありません。あくまで参考として考えて下さい)


 Hb-A1c値が7.0未満群で改善した割合が多く悪化例がありません。

・治療開始当初のHb-A1c値を7.0以上群(18眼)と7.0未満群(20眼)に分けて視力変化をみると、Hb-A1c値7.0未満群で視力の改善した割合が高く、
悪化もないことが分かります。
・実際の臨床ではHb-A1c値8.0未満であれば悪化するケースは無く、逆に治療開始当初はHb-A1c値が7.0未満でも何かの理由で8.0以上に
上昇した場合には眼底出血等を生じた症例があります。Hb-A1c値が7.0未満で安定することが長期的な糖尿病網膜症では大切です。


 視力は早期に著明な改善が得られている傾向が分かります。

・鍼治療の特色として、視力は早期に著明な改善が得られる傾向があります。初回視力0.2が2診目で2.0となる症例もあり私も驚かされました。
・視力の改善が大きい方の特徴として、汎網膜光凝固(レーザー)を行っていないことが挙げられます。増殖網膜症にまで進行していない場合には、
生活習慣の改善や適切な鍼治療で落ち着かせることは可能ですので、網膜の健全性を損なう汎網膜光凝固(レーザー)は避けたいところです。



・詳細な経過を説明した1例の症例報告を行っていますが、個人情報保護の観点からWeb上での公開は割愛させていただきます。


 視力は改善し易いですが、Hb-A1c値の低値安定が大切です。

・鍼治療はHb-A1c値が適切にコントロールされている場合には、視力を早期に改善したり長期的な視機能維持に役立てることができます。
・逆に言えばHb-A1c値の低値安定が重要になりますので、内科での適切な治療がベースとなり、日常生活習慣の見直しも大切です。
・進行した増殖網膜症等についても長期的な視機能維持に役立つことが分かっていますので、適切な鍼治療もご検討ください。


・今回の報告に尽力いただいた竹田眞先生をはじめ、「眼科と東洋医学」研究会の眼科医の先生方、ご協力いただいた患者様、
千秋針灸院のスタッフ、支えてくれた家族や提携治療院の先生方、応援していただいた皆様に感謝いたします。


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