気血津液辨証 1.003 2001.9.23
気血津液辨証とは臓腑学説中の気血津液理論を用いて、気血津液の病変を分析する
診断方法である。
気の病症は非常に多いが、臨床上常見するものは主に気虚、気陥、気滞、気逆の4種がある。
1.気虚証
気虚証とは身体の機能低下により現れる証侯である。久病、過労、高齢等で体が弱ることに
より起こる。
息切れ、精神疲労、眩暈、自汗、動くと症状が悪化等
舌質淡・苔白、脈虚・無力
2.気陥証
気陥証とは気が虚して昇挙無力となるために、気が下陥した証侯である。気虚証の進行や
労累、ある一臓の気が損傷して起こる。
眩暈、息切れ、倦怠、長期に渡る下痢、腹部の墜脹感、脱肛、子宮脱、内臓下垂〔西医〕等
舌質淡・苔白、脈弱
3.気滞証
気滞証とは人体の特定の臓腑や部位の気機が阻滞し、運行不良となる証侯である。気滞の
原因は大変多く、七情、飲食、外邪の感受等が関与している場合が多い。
脹悶、疼痛
4.気逆証
気逆証とは気機の昇降失調により、気が上逆しておこる証侯である。臨床上は肺気、胃気、
肝気の上逆が常見される。
肺気上逆 咳嗽、喘息
胃気上逆 しゃっくり、ゲップ、悪心、嘔吐
肝気上逆 頭痛、眩暈、昏厥、吐血等
主に気が関与する病症は、比較的針灸治療が効きやすい分野です。気逆等では症状が重く
みえても、治療後速やかに消失する例がみられます。また、気虚証や気陥証も灸法を上手に
組み合わせることで、かなり良好な結果が得られます。衛気営血辨証でも触れますが、病が
気の部分で留まる場合は、中医学では「病が軽い」といえます。
臨床上常見するものには主に血虚、血お、血熱、血寒の4種がある。
1.血虚証
血虚証は脾胃虚弱による生化不足、急慢性出血、七情過度による陰血損耗などによりおこる。
顔色が悪く白または萎黄、唇色は淡白、爪甲が白い、眩暈、目のかすみ、心悸、不眠等
舌質淡・苔白、脈細無力
2.血お証
寒凝、気滞、気虚、外傷等により血行が悪くなり、経脈上や臓腑等に血が停滞しておこる証侯。
刺すような痛み、拒按、夜間増悪、腫隗、顔色・唇・皮膚等が紫暗色、閉経や生理に血隗を伴う等
舌質紫暗またはお斑、お点、脈細渋
3.血熱証
臓腑の火熱が盛んになり、熱が血分に入ることでおこる証侯。煩労、飲酒、七情等が原因になる。
吐血、尿血、じく血〔鼻出血〕、咳血等の出血症状
舌質紅絳、脈弦数
4.血寒証
指などの局部の脈絡が、寒凝気滞のために血行障害を引き起こした証侯。寒邪の感受等が原因。
手足の疼痛、皮膚が紫暗色で冷たい、冷えを嫌い温めると疼痛は軽減、少腹部の疼痛、生理の
遅れや経色紫暗、血塊等
舌質淡暗・苔白、脈沈遅渋
血が関与する病症は気の関与する病症に比べて、針灸治療の難易度が高くなります。例えば
身近な例では、肩関節の一部へ限局した病変ではない五十肩が、治療に半年程度もかかる等は
血お証のためです。老人の方の血虚証〔眩暈等〕も時間がかかります。治療に時間がかかることは
患者さんに納得してもらえば済みますが、血熱証等では危険な場合もありますので、治療が確実で
ない場合は手を出さない方が賢明なこともあります。
気と血は密接に関連している為、疾病が生じると気血相互に影響を与える。
気滞血お証
気機が鬱滞して血行が阻滞し現れる証侯。情志の問題等から肝気の鬱滞が長引いて起こる
場合が多い。
胸脇脹悶、放散痛、イライラ、脇下痞塊、刺痛拒按、婦人では閉経や痛経、経色紫暗、血塊等
舌質紫暗あるいはお斑、脈渋
気虚血お証
気虚のため血を推動する力が無力となり、血行が滞り現れる証侯。久病による気虚から起こる。
顔色淡白または暗い、倦怠乏力、息切れ、胸脇部に刺痛や拒按等
舌質淡暗あるいは紫班、脈沈渋
気血両虚証
気虚と血虚が同時に存在する証侯で、久病により気虚となり生血機能が低下する場合や、
出血により気血が同時に失われた場合等がある。
眩暈、息切れ、脱力感、自汗、顔色淡白または萎黄、心悸、失眠等
舌質淡白かつ嫩、脈細弱
気不統血証
気虚により血液を統摂できないためにおこる出血を伴う証侯。久病等による気虚が原因となる。
吐血、血便、皮下お斑、崩漏、息切れ、倦怠脱力、顔色白く艶がない
舌質淡白、脈細弱
気随血脱証
大量出血時におこる気脱の証侯。外傷や内臓破裂等が原因で重篤な症状である。
多量の出血と共に顔面蒼白となる、四肢厥冷、大汗等
舌質淡白、脈微細または浮大散
気血が相互に影響を与えあうためには時間がかかるためか、外傷等の一部を除いて一般に
慢性の疾患が中心です。中国と比較して日本では現代医学が特に優先されるためか、針灸の
治療機会は遅れがちとなるため、こうした疾患をみる機会の割合が多いような気がします。
外傷以外では気滞血お証を除き虚証であるため、治療に時間がかかる上に効果が自覚でき
ないケースが多くなります。しかし正しい診断と治療ができていれば何らかの治療効果はでて
いますので、例えば自汗の量〔シャツを何回替えた等〕や睡眠時間、眩暈の回数等、症状の
出方を記録して治療効果を説明していくべきです。私は患者さんに治療効果を明確にして治療を
促すことは、経営のみのためではなく患者さんのために必要であると考えますが、いかがでしょうか。
津液の病証は一般に津液不足と水液停聚〔停滞〕に分けられる。
津液不足
津傷ともいわれ、津液が少ない証侯。胃腸虚弱や久病により津液の産生が減少したり、内熱や
大汗、嘔吐、下痢等で津液を消耗することが原因となる。
口や咽喉の乾燥、口唇が乾燥して割れる、皮膚がカサカサになる、小便短少、大便干結等
舌質紅、少津、脈細数
水液停聚
外感六淫、内傷七情が、肺・脾・腎の水液の輸布や排泄作用に影響して起こる。
水腫 陽水 頭面部の浮腫で一般に眼瞼から始まり全身に及ぶ、小便短少、風邪の症状を伴う
舌苔薄白、脈浮緊、あるいは咽喉脹痛、舌質紅、脈浮数
陰水 浮腫は腰部以下に著しい、小便短少、腹脹、便溏、顔色が悪い、下肢の冷え等
舌質淡・舌苔白、脈沈、あるいは舌質淡胖・舌苔白滑、脈沈遅無力
痰飲 痰証 咳喘喀痰胸悶、悪心、嘔吐、痰涎、眩暈、痰鳴、半身不随、喉中の異物感等
舌苔膩、脈滑等
飲証 咳嗽、胸悶、多量の薄く白い痰を吐く、痰鳴等〔特に痰証とは吐く痰の質が異なる〕
舌苔白滑、脈弦等
水腫に関しては局所〔関節滑液胞炎等〕の腫脹と異なり、例えば陰水では下肢全域にみられる
ものを指します。若い方ではネフローゼ等の疑いが強まるため、まず病医院へ行かせるべきでしょう。
高齢者の場合では時に針灸治療にマッサージ〔むくみを減らす目的〕を併用するのも手です。デジ
タルカメラ等で記録すると治療効果が非常にはっきりでます。
痰飲の鑑別は喀痰の多さや痰鳴、舌苔の厚さ等から判断しますが、治療は多くの場合時間を要し
ます。舌苔の状態を変えるには時間がかかるので、まずは症状の軽減を主として治療し、後でじっくり
と取り組むのも方法です。ただし痰証の場合に焦黄苔や黒苔が出現することがあり、この場合は
脳血管障害や癌等の重篤な疾患が進行している場合があります。他の症状もよく観察して必要ならば
病医院を受診してもらうべきでしょう。