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四診〔望診聞診問診切診   1.004  2001.3.11

 中医学は、望診、聞診、問診、切診〔脈診のこと〕を総合して病気を捉えて
いくことが特徴です。すなわち病人の姿〔姿勢や顔色、舌診等の望診〕、病気
独特の声調や臭い〔聞診〕、症状と原因や体質に関与する事項を問診すること、
特有な脈の状態を捉えること〔切診〕を指しますが、考えてみると病気の診断
に欠かせないことばかりです。しかし現代医学では、こうした所見を捉えて
診断をしていくことが軽視されがちであり、また伝統的な日本の鍼灸分野に
おいても、これまで切診〔脈診〕への比重が大きく、他は軽視される傾向が
ありました。

 病気は発症から治癒までに様々な過程があり、非常に多くの要因が関与
します。中医学の四診を総合して病気を捉える〔四診合算〕能力があれば、
臨床の実際において診断や治療に柔軟さを発揮することにつながります。
実際の臨床では同じ傾向はあっても、全く同じ症例は無く、画一的な治療
では通用しないのが当然ですから...。

1.望診

 望診とは、患者の神、色、形、態、舌象および分泌物、排泄物の色や質の
病的な変化を視覚的に観察し、内臓の病変等を推測し、疾病の状況を知ろう
とする診察法である。

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 望診といっても、その内容は非常に広いため、ここでは一部分とポイントのみ
を紹介します。神、色、形、態では、まず神を、つまり目が生き生きとしているか
を診ます。そして顔色や光沢を診、体型や姿勢、動作を診ていくことです。これ
らの情報だけでも、経験の深い中医師は患者の体力や病の部位、進行状況等
おおよその見当がついています。 

 局所の望診では、目、耳、鼻、口唇、髪、頭部、そして舌の各部位を診ていき
ます。舌は後に述べます。目では眼光〔神〕だけでなく、目やに〔湿熱〕、瞼の裏
が白い〔気血不足〕、目の充血〔諸経の熱〕、目のクマ〔脾の病症〕、瞼の震え
〔肝の病症〕等、耳では湿った耳垢〔肝胆湿熱〕、耳殻が黒色〔腎精消耗〕等、
鼻では周囲の発赤〔肺熱等〕、透き通った鼻水〔風寒〕、黄濁した鼻水〔風熱〕等、
ここでは挙げきれないほどの情報が得られます。
また、初診時には問診等、時間
がかかりますから、望診は素早く患者の印象を的確に掴む必要があります。

舌診

 舌の色や形、動き、苔の状態等、舌を望診することを舌診という。臨床においても
舌診は重要な意義を持ち、中医診断学の特色となっている。舌の状態の変化には
人体の気血の盛衰、病邪の性質、病位の深さ、病状の変化等が反映されている。
舌質〔舌体〕と舌苔は、それぞれ異なる意味を持ち、両者の所見は共に重要である。

1.舌質 正常時は淡紅色〔小児の舌の色〕とされる。
 淡白色では陽気虚弱や気血不足にみられる。やや紅みが強まると紅舌と呼んで
熱証と関与し裏実熱証や陰虚内熱にみられる。深紅色のものは絳舌と呼び熱が
営分や血分にある重症の熱証を示す。紫舌では湿潤していれば陰寒内盛や血脈
お滞、乾燥していれば邪熱による陰液損傷を示している。
 舌形では、きめの細かさ〔虚実〕や太りぐあい〔虚実〕、裂紋〔陰分の損傷程度〕や
歯痕〔気虚や水湿の邪〕、舌尖部等の紅刺〔熱〕、部位ごとの変化〔舌尖部-肺心、
舌辺部-肝、舌中部-脾胃、舌根部-腎〕、舌下静脈の怒張〔お血〕等をみて診断する。 

2.舌苔 正常時は薄白苔〔うっすらと白い苔〕とされる。
 白苔は寒証にみられる。黄苔は裏熱証にみられ、色が濃くなるほど熱が強いことを
示していて、強い熱では焦げたような黄色や黒色に近い色もみられる。
 苔質では、厚薄〔厚-病勢が盛ん、無-正気不足〕、粘膩〔湿痰等〕、剥落〔胃の気
陰両虚〕をみる。

 舌診は中医診断の中で、最も特徴的かつ重要な診断法のひとつで、脈診や問診と
並んで臨床現場で欠かすことができません。単なる「中国はり」でなく、中医学による
針灸治療が行われているかどうかは、舌診を行うかどうかで見分けがつきます。
 舌の様々な特徴からわかる情報は膨大であり、とても挙げきれないほどですが、
簡単にいえば後に述べる八綱の寒熱・虚実を、脈診とともに客観的に判断する材料と
なることです。そして舌診の特徴が主に裏を表すことから急性病では変化が少ない
ことや、食物による着色を受けやすいことに留意せねばなりません。

 奈良に本部を持つ北辰会では中医診断学を更に深めて、舌裏の色を本来の舌質の
色と捉えるなど、大変臨床的に意義のある内容を発表しています。また、針灸治療の
直後に舌質の色に若干の変化が現れることなどを、私も臨床の中で体験しています。
 いずれにしても
従来の中医診断学を超えた内容なので、興味のある方は勉強され
ると良いかと思います。
 

2.聞診

 中医学の聞診には、患者の発する声や音の高低、強弱、異常等の特徴を聞くことに
加え、息、分泌物、排泄物の臭いを確認することで、症状の虚実寒熱等を鑑別する
診察法である。

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 四診の中では比較的マイナーな印象のある聞診ですが、例えば重病の病人は
特有の臭いを発する場合があります。また、声の強弱、高低といった声調で虚実を
見分け、体臭や排泄物等の状態で寒熱を見分けたりします。このように望診と同じく
客観的に虚実寒熱を判断する材料を与えてくれるので、実際の臨床ではわざわざ
患者の臭いを嗅いだりは一般にしませんが、問診や治療の際には気に留める必要が
あります。
他の診断と総合する必要がありますが、一般に声の強・低は実、弱・高は
虚、臭いが強いのは熱、臭わないのは寒となります。

3.問診 

 問診とは、患者本人やその家族等に質問することにより、発病の時期・原因・経過・
既往歴・疼痛部位等の疾病に関する情報を集めていく診察法である。患者の自覚
症状を掴む方法の中心となる。

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 問診は現代医学の中でも基本ですが、当然中医学でも診察法の基本になります。
中医学は現代医学での疾患の有無よりも、具体的な症状を治療していく医療です
ので本人の自覚症状の有無を主訴として問診し、それを軽減し取り除いていくことを
第一の目標とします。よく患者さんに「ここが痛むのに検査では問題ないといわれ、
病院では何もしてもらえない。」という声が聞かれますが、「ここが痛む」等の本人の
自覚症状こそ中医学では無視できません。

 また自覚症状の有無だけでなく、問診とは発病の原因、時期、経過をはじめ、
寛解、増悪要因等の情報を総合して、患者ごとの現時点での状態を「証」として捉え
る窓口となります。そして自覚症状を掘り下げるだけではなく、飲食、大小便等の
一般的な情報も「証」裏付けしていく為に重要となります。問診事項が多いほど
情報量も多くなりますが、問診に必要な時間も増えてしまいますので実際の臨床
では、ある程度的を絞った問診が必要になります。
 問診が上手くなるには場数を踏むのはもちろん、中医学の証を立てていく訓練が
必要で初心者は大変かも知れませんが、基本を押さえて問診を行うことは後々に
自分の力になります。また初診時は患者さんも緊張されることが多く、血圧等
いろいろと配慮すべきことがあります。できれば問診中に一度は患者さんの笑顔
を引き出せると良いでしょう。 

1.寒熱を問う 
 悪寒〔寒邪、陰盛〕と発熱〔熱邪、陽盛〕を指している。疾病の中でよくみられ、
実際の体温の他に、患者の主観による冷感、熱感〔五心煩熱等〕も含んでいる。
問診では悪寒、発熱の有無を尋ね、単独〔前述の通り〕、同時に出現〔主に外感
表証〕、交互に出現〔寒熱往来〕、午後や夜等の一定時刻の発熱〔陰虚内熱〕等
を区別する。

2.汗を問う
 発汗の異常は外感・内傷病ともにみられるが、発汗の有無、時間、部位、量等を
尋ねる。汗をかきやすく疲れやすい〔自汗-気虚〕、寝汗をかく〔盗汗-陰虚内熱〕、
大量の汗〔大汗-陽熱内盛または亡陽等の危険な状態〕等を区別する。

3.疼痛を問う
 疼痛は身体の様々な部位や痛みの種類を持つ自覚症状である。身体の各部
位は全て経絡と連絡しているため、疼痛の部位は病変のある経絡や臓腑を知る
重要な情報です。痛みの種類は、刺痛〔お血〕、脹痛〔気滞等〕、重痛〔湿邪〕、
隠痛-シクシクと痛む〔虚証〕等、様々な疾病の特徴を示している。

4.睡眠を問う
 不眠や傾眠等、睡眠の異常を指す。陰陽のバランスが取れないことから起こり、
不眠では心・脾・腎等の臓腑間の陰陽失調や、食積・痰火等の邪気が原因で
ある。傾眠では脾陽虚等で清陽が昇らないことが原因となる。 

5.飲食、味覚を問う
 口渇や食欲、食事量、冷あるいは温飲を好む、口内の異常等を問うもので、
口渇で多飲〔熱証〕、口渇無し〔寒証等〕、食欲減退〔脾虚等〕、口内が苦い〔肝胆
実熱〕等といった鑑別がある。

6.二便〔大・小便〕を問う
 大・小便の回数や量、状態を問うもので寒熱虚実を鑑別する。大便では便秘
〔大腸の伝導失調だが肝鬱気滞、陽気不足、気血不足、実熱等様々〕、泄寫-
下痢・軟便等〔脾胃虚弱、湿熱等〕がある。小便では多尿で無色〔虚寒証〕、少
量で濃い色〔陰虚証等〕である。

7.月経、帯下を問う
 女性の場合に月経の周期や量、症状等で鑑別することができる。月経の周期
が早い〔熱証、気虚等〕、遅い〔寒証、気滞等〕、不定期〔肝鬱等〕や月経痛が
月経前から中に強い〔気滞血お〕、月経中から後に多い〔気血両虚〕等がある。

8.その他
 これまで挙げた他にも身体の各部位の症状〔耳鳴り、目やに、足がつる等〕や
小児への問診、生活環境等の問診があり、いずれも貴重な情報であり、配慮も
必要になる。

 私も問診事項を書き出してみて、改めて情報量の多さに実感しました。ここに
挙げているのは比較的臨床で常見されるものですが、本当に言葉足らずなため
勉強された先生からは内容の乏しさを指摘されそうです。〔紙面?の都合です。〕
 日頃患者さんと話していると、本当に様々な症状を訴えられてきますが、その
ほとんどは中医学で説明ができるものです。様々な症状に現代医学での説明
だけでなく、中医学でも概ね即答ができるほどになれば、中医師として最低限の
水準を満たすかと思われます。〔私の主観です。〕

4.切診

 切診には脈診と按診があり、脈診は主に手首の橈骨動脈〔寸口部〕を按圧して
病状を知る方法である。按診は皮膚や手足、腹部等の部位に触れたり、撫でた
り、 圧したりするもので、局所の状態や反応部位の経脈の状態を診察する方法
である。

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 舌診とともに脈診も中医診断の特徴になります。日本の伝統的な脈診では六
部定位〔左右の寸関尺を各臓腑に対応〕が重視されていますが、中国の臨床
現場では脈状が重視され、舌診とともに八綱の虚実寒熱表裏を裏付けるものと
なります。脈は治療の最中に変化することが多く、治療の効果を他覚的に判定
する手段です。
 また按診は局所や経脈の状態を診るのに優れていますが、中国の臨床現場
では私の知る限り、病院内での診療が多忙な為か、あまり用いられてはいませ
んでした。按診を学ぶには中国留学もあまり有効ではないように思われますが、
前述の北辰会では大変丁寧に按診を行っていました。参考にされるとよいかと
思います。

脈診

 現在一般に行われているいる切脈の部位は、手首の橈骨動脈拍動部であり、
手掌の近くの橈骨茎状突起部の部位を「関」とし遠位を「寸」、近位を「尺」とする。
左右それぞれに寸関尺の三部があり、それぞれに臓腑が対応するとされる。
左-寸〔心〕、関〔肝〕、尺〔腎〕、右-寸〔肺〕、関〔脾〕、尺〔腎〕であり、表裏関係の
六腑とも関与が深い。

 切脈の方法は患者を座位か仰臥位にさせ、切脈の部位は心臓の高さ程度にす
る。次に中指を橈骨茎状突起部〔手首近くの高骨部〕に当て関とし、その前後を
示指で寸、薬指で尺とする。指先を揃えて指腹の上部〔指先〕で脈を診る。この時
指先が軽く触れた程度で触れる脈を〔浮〕、少し強く押さえて触れる脈を〔中〕、強く
押さえて触れる脈を〔沈〕と呼び、寸関尺と合わせて「三部九侯」と呼ばれている。

正常な脈象〔平脈〕
 緩やかで有力、リズムがあり、適切な速度の脈。四季の変化で春-やや弦、夏
-やや洪、秋-やや浮、冬-やや沈を示す。また乳幼児は数脈等の特徴もある。

病的な脈象
 疾病により変化した脈象で主なものに28種ある。脈位〔浮沈〕、速さ〔遅数〕、
形状〔長短〕、強弱〔虚実〕等から分類できる。以下は常見するもの。

浮脈
軽く触れる程度で触知し、重按すると減弱する傾向の脈。表証、虚証を示す。
沈脈
浮・中位では触知せず、重按して触れる脈。有力は裏実証、無力は裏虚証。
遅脈
脈拍が緩慢で一息四至〔60回/分〕に満たない脈。有力は寒積、無力は虚寒。
数脈
脈拍が速く、一息五至〔90回/分〕以上の脈。有力は実熱、無力は虚熱。
洪脈
波が押し寄せるようなイメージの大きく有力な脈。気分の熱が強いことを示す。
細脈
脈が糸のように細いが、はっきりと触れる脈。気血両虚、諸虚労損、湿病。
虚脈
無力で按じても空虚な脈。虚証一般にみられる。
実脈
浮・中・沈位の全てで有力な脈。実証一般にみられる。
滑脈
滑らかで盆を珠が転がるイメージの脈。痰飲、食積、実熱。妊娠時にも出現。
渋脈
滑らかでなく竹を削るような渋る手ごたえの脈。気滞血お、傷精少血等を示す。
長脈
脈が触れる部位が寸・関・尺を超える脈。肝陽有余、陽盛内熱等の有余の証。
短脈
脈が触れる部位が寸・関・尺に満たない脈。有力は気鬱、無力は気損。
弦脈
琴の弦を按じるような緊張感のある脈。肝胆病、諸痛、痰飲等。
緊脈
緊張した張りつめた感じの脈。寒、諸痛、宿食だが弦脈との鑑別が難しい脈。
弱脈
沈細で無力な脈。気血不足。
濡脈
浮いて細軟、しっとりとしたイメージの脈。諸虚、湿病。若い女性では正常脈。
促脈
速い脈で時々1つ止まるが、止まり方は一定しない脈。陽盛実熱、腫痛等。
結脈
緩慢な脈で時々1つ止まるが、止まり方は一定しない脈。陰盛気結、血お等。
代脈
規則的に1つ止まり、間歇時間が比較的長い脈。臓気の衰微、風証、痛証等。

 『脈経』を著した王叔和も述べているように、脈診は大変難しいものです。私も
全ての脈の鑑別はとても出来ません。しかし難しい脈診もポイントがあり、まず
強弱と遅数ぐらいは初心者でも鑑別できるでしょう。これだけで一般に虚実と
寒熱の見当がつきます。次に浮・中・沈が分かると表裏、各脈のイメージから
諸脈は概ね鑑別できます。このあたりからは経験者の指導が必要でしょう。

 臨床上の脈は幾つかの病脈が複合している場合が多く、脈象のみで証を
判断することは危険が伴います。やはり他の診断法との総合判断〔四診合算〕
が必要になります。また脈が変化しやすいという診断の特徴から、治療の最
中に脈象の変化がある場合は病気は比較的軽く、何をしても変わらない場
合は治りにくい傾向があります。証立てが難しい場合は、まず脈を変えること
から逆算して証を絞ることもあります。


按診については今のところ省略します。
本当はあまりに深い内容なので、いつかもう一度しっかり説明したいです。
      

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