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3.臓象学説 〔五臓六腑等の働き〕 1.002 2000.10.5

  臓象学説とは人体の生理、病理現象の観察を通じて、各臓腑の生理機能や
 病理変化、相互関係を解き明かす理論です。

  現在のように様々な検査機器が発達していなかった時代には、特に実際に
 起こる人体の生理や病理の観察が、医療では唯一の科学的な根拠となってい
 ました。この精密な観察が陰陽・五行論と結びつき、中医学を現在でも通用する
 医学理論に発展させてきました。精密な観察は臨床でも重要となります。

〔1〕.五臓

 @心
  主な生理機能は血脈、神志を主る。つまり血液の正常な運行と、精神や意識
 等の活動に関与しています。臨床的には各種心・循環器疾患、神志〔精神〕異常
 に関与し、また脈や顔色、眼光、言語、身体の動きに異常が見られることが多く、
 こうした場合に心の方面から治療を行うことが多くなります。

  また、喜は心の志、汗は心の液、脈に合し華は顔にある、舌に開竅する、と
 され、精神情緒の「喜」は過度になると心神を傷つけること、心が病むと味覚に
 変化が生じたり言語障害が現れるといった現象を簡潔にあらわしています。

 A肺
  主な生理機能は気・呼吸を主る、宣発と粛降を主る、通調水道作用、百脈を
 朝め治節を主る。つまり人体を動かす「気」と呼吸、正常な水液代謝等に深く関与
 しています。臨床的には呼吸器疾患、喀血、また浮腫などの水液代謝異常等に
 関与し、こうした場合には肺の方面から治療を行うことが多くなります。

  また、憂は肺の志、涕は肺の液、皮に合し華は毛にある、鼻に開竅する、と
 され、精神情緒の「憂」あるいは「悲」は気の消耗と関与し、肺が病むと鼻や喉の
 症状が現れ、体表の気に関与しているので皮膚の光沢等にも関わっています。 

 B脾
  主な生理機能は運化を主る、昇清を主る、統血を主る。つまり飲食物の消化、
 吸収作用や、栄養を体全体に行き渡らせる作用、血が血管から漏れないように
 出血を防止する作用に深く関与しています。臨床的には食欲不振、内臓下垂、
 血便といった症状が現われ、こうした場合には脾の方面から治療を行うことが多
 くなります。

  また、思は脾の志、涎は脾の液、肌肉に合し四肢を主る、口に開竅する、と
 され、思慮が行き過ぎた場合には気が滞り、食欲不振、腹脹、眩暈などを引き
 起こし、脾に問題があると口唇に変化が現れ、四肢の栄養が不足し倦怠感が
 生じたり、四肢の萎縮が起こることがあります。

 C肝
  主な生理機能は疏泄を主る、蔵血を主る。つまり人体をめぐる気のスムーズな
 運行や、人体諸組織の血量を調節する作用があります。 臨床的には胸脇部の
 脹痛や不快感があり、イライラなどの情緒の変化でで症状の強さが変動します。
 その他月経との関わりも深く、こうした場合には肝の方面から治療を行うことが多
 くなります。

  また、怒は肝の志、涙は肝の液、筋に合し華は爪にある、目に開竅する、と
 され、怒り等のストレスが加わると症状が悪化したり、肝に問題があると、四肢が
 つったり、ピクピクと痙攣したり、あるいは目がかすむ等の症状が現れます。

 D腎
  主な生理機能は蔵精、発育、生殖を主る、水を主る、納気を主る。つまり人体の
 大元である精気を貯蔵して、発育や生殖に深く関わり、肺と共に呼吸や水液代謝
 に関与しています。臨床的には様々な老化に伴う疾患のベースとなったり、泌尿
 器、生殖器疾患に関与して、こうした場合には腎の方面から治療を行うことが多
 くなります。

  また、恐は腎の志、唾は腎の液、骨に合し、骨を主り髄を生じ華は髪にある、耳
 および前後二陰に開竅する、とされ、老化による骨粗鬆症や脱毛、白髪、耳鳴り
 等の症状と関係が深い臓器といえます。

〔2〕.六腑

 @胆
  主な生理機能は胆汁の貯蔵と排泄、決断を主る。つまり胆汁の貯蔵と排泄は
 胆嚢の機能ですが、中医学では肝の疏泄作用〔気のスムーズな運行〕が関係し、
 意識の決断と関与するとされるのが特徴です。臨床的には黄疸の他、脾胃にも
 影響して口苦や腹脹、便溏、脇下の脹満や疼痛等も現れます。

 A胃
  主な生理機能は水穀の受納・腐熟を主る、通降を主る、降をもって和とする。
 つまり食物を受け入れ消化し、小腸へ送るという胃の機能ですが、中医学では
 胃が食物の通降の要であり、消化吸収を統括しているとし、また食物から気を生
 みだす源であることから重視されています。胃の失調は食欲、口臭、上腹部の
 脹満や疼痛、嘔吐、しゃっくり等が現れます。 

 B小腸
  主な生理機能は水穀の受盛の官、化物の出るところ、清濁の泌別を主る。つま
 り胃から送られてくる食物を受け入れて、さらに消化し、消化物中の栄養分を吸収
 して大腸に不要物を送るという小腸の機能です。中医学での小腸の機能失調は
 胃や大腸等ほどは目立ちにくいですが、大小便の異常や消化吸収に関わります。

 C大腸
  主な生理機能は糟粕の伝化を主る。つまり小腸の後を受けて、残った不要物の
 糟粕から余分な水分を吸収して糞便を作ることです。中医学では加えて肺の作用
 によって、不要物を送り出すことが円滑になるとしています。大腸の異常は下痢、
 便秘等として現れます。

 D膀胱
  主な生理機能は貯尿と排尿。つまり人体の水液代謝により利用された不要な
 水分や物質が、尿となり膀胱へ蓄えられ体外に排出されることを指します。中医
 学では腎や膀胱の作用により尿が体外に排出されるとされ、膀胱の異常は排尿
 困難や尿閉、頻尿、失禁等の症状に現れるとしています。

 E三焦
  諸気を主宰し、全身の気機と気化作用を統轄する。水液運行の通路である。三
 焦は実在の臓器ではありませんが、作用として全身の気や水液を統轄し、また通
 路でもあるとされています。三焦の異常は、水腫とそれに伴う尿量の減少といった
 症状に現れます。人体を三部に分け、横隔膜から上を上焦とし心・肺を含め、横隔
 膜以下で臍以上を中焦として脾を含め、臍以下を下焦として肝・腎を含めて分類し
 ています。ただし機能的な分類であり、臓器の位置とは一致していません。

〔3〕.奇恒の腑

  奇恒の腑というのは、脳、髄、骨、脈、胆、女子胞を指しています。五臓ではな
 く、また、飲食物〔水分も含む〕の通路でもありませんが、重要な役割を持ったもの
 です。胆については消化に関与するものの、直接の通路ではない為に、奇恒の
 腑でもあるとされています。特に重要な脳と女子胞のみを取り上げます。

@脳
  主な生理機能は精神思推を主る。つまり精神情緒活動の中枢とされます。しか
 し中医学の特徴として、脳の働きは心、腎の充実があってこそとされます。臨床
 でも心気の弱りから眩暈等が生じ、腎の弱りからは痴呆等が現れます。したがっ
 て脳の関与する症状は、心、腎の方面から治療を試みることが多くなります。

A女子胞
  主な生理機能は月経を主る、妊娠を主る。つまり子宮とその機能を指します。
 中医学では、女子胞は腎の作用を受けて14才前後に月経が始まり妊娠が可能
 となり、心、肝、脾の影響〔要は血の関与〕も強く受けているとされる総合的な腑
 です。したがって臨床的に婦人科疾患は、針灸が非常に効果的な分野ですが、
 疾患の辨別〔中医学上の分類〕が不可欠で、鍼灸師の腕の差が出やすい分野
 でもあります。なお、臨床上は任脈、衝脈の影響も深く関与しています。        

臓象学説は内容が広範囲に渡るため、臓腑間の関係等はとりあえず省略します。

お薦めの文献 針灸学「基礎篇」 東洋学術出版社

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