第57話「もうちょっと優しくね」


いやほんと、初めての時は痛いのですよ。ぐさっと突き刺さる感じでしたね。

 

 先日の墓参りのおりに、岐阜県下呂市金山町に有る横谷峡四つの滝の1つ、白滝へ行った。時間軸的には両親の地元へ行く前と考えていただきたい。四つの滝とは、その名の通り断続的に続く四つの滝の総称であり、白滝はその最も下流に有る滝なのである。山奥の滝スポットなだけあって、大変涼しい場所で、水浴びが出来る様になっているものの、そんな事をしなくても充分に涼を取る事が出来る。そしてこの滝も我が家では墓参り時に訪問する定番スポットとなっている。

 

さてこの滝、どういう手続きをしたか知らないのだがオオサンショウウオが飼育されているのがウリの1つとされているのだが、もう1つ、滝の近くの目立たない場所にひっそりと存在する洞窟もウリの1つとされている。

 この洞窟は誰かが管理していると言う訳でもなく、かと言って入り口を封鎖して立ち入りを禁止している訳でもないので、要するに特に危険も無い浅い洞窟なのだろうと推測出来る。推測は出来るのだが、入り口からは3歩以上先は見る事が出来ないほど暗い為、実際に中がどうなっているかは知らないまま今まで過ごしていた。そんなに都合よく懐中電灯などを用意して墓参りには行かないのである。しかし今年は違った。つい先頃、携帯電話をライトの機能の付いた物へ機種変更していたのである。

 

はっきり言って、僕は25歳である。もう良い大人なのだが、やはり元少年と言う事もあってか、洞窟探検と言うシチュエーションに少々興奮してしまった。ここを読まれている元少年の皆様も、洞窟探検と聞くと胸躍る気分を理解していただけると思う。とにかく、わくわく感をおさえつつ僕は洞窟に突入したのである。

 

突入するとすぐに日光が届かなくなるので、僕は即座に携帯電話のモバイルライトを点灯させる。辺りが明るくなると、今まで何度も訪れていながらも、見る事が出来なかった洞窟の内部が照らし出される。なんと、入り口からちょっと先は天井が低くなっていて、大人は少し頭を下げないと歩けないのだ。これだけでもう大発見である。僕ははやる気持ちを抑えて慎重に歩みを進めた。するとなんと進路が2手に分かれているのである。これは予想だに出来なかった。もう大興奮である。この道の選択と言う行為が嬉しくて仕方がないではないか。少し立ち止まって僕は、左手の道へ進んでみた。果たしてこの先に待ち受ける物は?期待は高まるばかりである。とは言っても、実は入り口から10メートルも進んでいないのだが、たった数メートルでこうも楽しめる経験は都会ではなかなか出来ない物である。僕の選んだ左側の道はすぐに行き止まりに突き当たった。これも僕にとっては大きな収穫だった。行き止まりに突き当たったら、次の取る行動は決まっている。そう。さっき進まなかった進路を取るのだ。

 

先程の分岐点まで戻ると、僕は迷わずさっき進まなかった進路へ進んだ。さっきまで低かった天井が高くなる。奥はさっきよりうんと深そうだ。こう言う場所からは突然コウモリが出てきたりするんだよなと思いながら歩みだした時、洞窟の入り口の方から子供達の声が聞こえて来た。水浴びをしていた子供達が今度は洞窟に興味を示したのであろう。怖がっている台詞を楽しそうに吐きながら子供達が入り口近辺ではしゃいでいた。そこで僕は何故か一旦引き返す事を考えた。こんなに暗い場所へ無装備の子供達が入って来るのは危険だと思ったからである。一歩一歩踏みしめながら入り口へ戻り、そこで子供達と目が合うと、子供達がいっせいに言ったのである。

 

「うわー!おじさんのお化けでたー!」と。

 

お、おじさん。

はい、僕、男として生まれたからにはいつか「おじさん」と呼ばれる日が来ると思っていましたが、遂に言われてしまいました。これが初めてです。しかしまさか墓参りと言う、どちらかと言えば褒められた行為をしに岐阜県の山奥まで来て、そこで初体験を済ますとは夢にも思っておりませんでした。しかも25歳で。更には「おじさん」のみならず「お化け」とまで言われてしまったのです。その言葉が深く心に突き刺さった僕は、逃げて行く子供達を眺めながら洞窟の入り口でしばし呆然と立ち尽くしたのでした。

 

しかしもうこれで怖くないぞ。僕はもうおじさんなんだい!ええい、言いたくば言うが良い。

それに墓参りに行った事によって日記のネタが2つも出来たんだから良しとするさ。けっ。

 

[完]


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