スチームボーイ

 


 1997年の暮れの頃でした。僕はこの映画の監督、大友克洋さんから「これが今作っている映画です」と言って『スチームボーイ』の製作中の映像を見せて貰いました。その時見た映像は、少年が奇妙な乗り物に乗って、蒸気機関車のような物に追いかけられているシーンと、ロンドンの街が凍結していくシーン。その映像を見せてくれた後、大友監督は「来年の夏頃公開予定で頑張っています」と言いました。その時大友監督の横にいた人(誰だか忘れました。ごめんなさい)は「大友さんが来年と言うからには恐らく再来年ぐらいになるでしょう」と言っていました。おーい。遂に公開した今年は2004年じゃないですか。「来年の夏」どころか「再来年」をも数倍上回る期間が経過してますがな。しかも、最近のインタビュー等を見て推測するに、映像を見せてくれたその時点では絵コンテすら出来上がっていなかったんじゃないかな。

ともかく、遂に公開です。特に楽しみにしていた訳ではなかったのですが、天下の大友監督から直接お話しを聞いていただけに絶対に無視は出来ない作品でした。

 

 そもそも1997年に最初に映像を見た時、主人公と思われる少年のデザインには特徴が無く、ぱっとしない印象と、物語のクライマックスに来ると思われるロンドンの街が凍結していくシーンには『AKIRA』のクライマックス程のインパクトが無いなぁと言う印象を受けました。実際出来上がった作品も同じ様な印象でしたね。元気な少年が活躍する冒険活劇にしては主人公の少年のデザインがおとなし過ぎる気がしました。まぁ、『AKIRA』にはあえて美少女が出ない様にしたそうなので、大友監督作品の場合、キャラクターデザインで作品の印象を決め付けるのは良くないのでしょうけどね。スカーレットも到底美人ではない気がしますし。ロンドンが凍結するシーンは、完成した映画では97年に見た時よりもパワーアップした映像を観せられたはずだと思うのですが、いかんせん最近どこかで観た映画とかぶってしまったのでねぇ。

 

 しかしこの映画、良いです。なんだか難解な展開に行き勝ちなジャパニメーションとは違い、単純明快な冒険活劇です。もちろん科学の発展とは?との問いかけなんかもありますが、それはそれ。頭を空っぽにしてアクションと大友監督作品の職人的且つ芸術的作画を楽しめます。時間をかけて作った為、スタッフがキャラクターに感情移入してしまったのか、各キャラクターも個性的で魅力的。脇役にまで細かいプロフィールが有りそうです。『AKIRA』で絶望的な世界観を描いた監督だけに、あんな作風の人なのかと思っていましたが、まだ長編2作目にして新境地を観た気分。何年後になるか分かりませんが次回作にも期待!と思っていたら、次回作は今作の続編『スチームガール』で、2〜3年以内には公開したいって。全く新しい作品も早く観たいなぁ。

 

 ところでエンドクレジットに出てくるこの映画の後日談(と言うか『スチームガール』のイメージ画?)に描かれる、シルクハットでマントを着用し、片方だけの眼鏡を掛けた後姿の男、97年に見た製作中の映像ではロンドンの街が凍結する様子を見ながら喜んでいた奴に見えるんだけどなぁ。

 

2004年7月31日鑑賞 


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