「ご馳走しましょう」 王誼
中国棋院国際部の王誼さんは、日本でもよく知られている。彼は日本語が上手で、何回も来日し、日本の囲碁関係の雑誌や新聞に中国の碁界の様子を洒脱な文章で紹介してくれる。
だが私は彼にどうしても気に食わない点が二つある。まず第一点、彼は国際部に席をおいていると言うのに、国際友好感覚が欠如している。第二点は、中国の伝統的な美徳である敬老精神が全然無い。
彼には心ならずも三子で指導を受けているのだが、彼はこの善良な日本の老人を本気でやつけに来る。1992年最初に中国棋院を訪れて以来七、八局は打っただろうか、一度も勝たせて貰っていない。私は三子なら日本では、九段にだって三局に一局は勝たせて貰っているのである。これでも、先程の私の主張を認めて頂けないだろうか。
そこでこの私の息子みたいな若者に諭すのである。
「プロ棋士は、アマチュア相手に本気で勝ってはいけない。三局に一回は勝たせるものだ」と。しかしこの分からず屋は笑って相手にしてくれない。
私達の間で暗黙の約束は、勝った方がご馳走することになっている。だから「ご馳走しましょう」は「やつけて上げましょう」と同義語である。従って私は北京に行く度に彼に中華料理をご馳走になっている。しかしいくら中華料理が美味しいと言っても、こう続くと食べ飽きた。彼は私が中華料理を食べたくて、わざと負けていると思っているらしいが、とんでもない。今度納得のいくようにやつけて、食べ飽きる程日本料理をご馳走して上げよう。