「僕、本当にそんなこと言いましたか」 中園清三
もう30数年前の話しになる。彼の、お父さんの仕事の関係で、彼もちょっとの間松山にいたことがある。
ある日、小山師範の道場「日本棋院愛媛県支部」でまん丸な眼鏡を掛けた可愛いい中学生位の男の子が、一人つくねんとしていた。
「坊やお出で、一局打とう」と、私が誘ったときだった。
「山崎さん、三子だよ」と小山師範が笑いながら言う。師範はどちらがとは言わなかったが、口調で分かる。私は五子くらい置かせるつもりだったから、やや憤然として「二子でいいでしょう」とそれ以上は置かなかった。私は健闘した。図のような形が出来たときだったと思う。私が愚形に頑張ったら、局後「流石にそこが急所です」と坊やに大家のような口調で褒められ苦笑をしたのを覚えている。
小山師範に二子で指導を受けている彼は、事実既に大家の風格があった。指導碁とはいえ延々5時間、一日掛かりで打つ。私達素人は、一体何を考えているのだと思うのだが、局後手どころは、全てこの坊やが師範に替わって説明してくれる。
やはり局後の解説の時、100手過ぎたあたりの局面だった。小山師範が
「形勢はどうなんだ」と尋ねたときである。
「この辺では1目私が悪いと思いました」と平然と答えたときは、もう私達はなんにも言えなかった。
「本当に、あんな所で一目まで分かるのですか」
後日私が小山師範に尋ねたところ、小山師範も
「どう感じるかが大事なのです」とそれ以上は語られなかった。
その後彼はアマ本因坊戦優勝五回をはじめ、各棋戦で大活躍し、中国棋士との交流対局も多いから、貴国でもよく知られていると思う。
後に、彼にまた指導を受ける機会があった。今度は三子置いたのだが、やはり駄目だった。30年以上も前の話しを、私が懐かしく披露したときだった。
「僕、本当にそんなこと言いましたか」
少し困惑した表情に、少年の日の面影が宿った。