「プロの怖さを知らないね」 星川 信明 八段
一九五一年生まれ。関西棋院の棋士である。同郷のよしみで彼とは、彼が高校生の時からお付き合い願っている。
一九七九年訪中囲碁団の一員(当時六段)として、中国を訪れたのをはじめ、中国には何回も行き親しい友人も多い。
今回瀋陽市から「日中韓三国アマ囲碁対抗戦」の案内があった時、早速各方面に紹介したのだが、時間の関係でどこも返事が重かった。彼に相談したところ
「面白そうな話しではないですか、私達でやりましょう。任せて下さい」と二つ返事で引き受けてくれた。彼がいたからこそ、私達は瀋陽に来ることが出来た。今回の団長である。
こういう話しをさっと引き受けて呉れる彼は、親分肌というか、少なからずやんちゃな一面もある。ある日囲碁仲間と酒を飲んだときだった。どうしても自慢話になる。あるアマ棋士がプロ棋士に勝った自慢をしていたときだった。彼も酒の勢いもあって
「どうです、幾つでもいいですよ。一丁いきますか」
大きな声では言えないが、賭碁の挑発である。
幾つでもいいと言われても、いままで自慢をして手前そんなに置けないではないか。結局アマとは言え六段の猛者が二面打ち三子で彼に貢ぐ羽目になってしまった。こういうのを、もしかして「お客様は神様」というのか、或いは「いらっしゃいませ」と言うのか。
彼曰く「君たちはプロの怖さを知らないよ」。
悔しいが負けた方はなにも言えない。彼に言わせると
「アマの五、六段が一番やりやすい。自分から負けにきて呉れる。」
どうです、瀋陽の腕自慢のアマ棋士のみなさん。彼と茅台酒を一本賭けませんか。私はどちらが「茅台王」を名乗ろうと一向に構いません。どうせ茅台酒にありつけるのですから。
注 「お客様は神様」も「いらっしゃいませ」もいま中国の一種の流行語。